ステール(stale)とは、新鮮でないといった意味です。相場用語としては、「今の相場のテーマは、もうステールだ」といった使い方をよくします。
今の相場のテーマがなにかということを知ることは、もちろん大変大事です。
しかし、それだけではなく、該当するテーマが、まだ新鮮なのか、ステールなのかを見極めることは、大変重要です。
なぜなら、そのテーマがまだ新鮮であれば、相場は素直に動きます。
しかし、テーマがステールとなってくると、相場の動きは素直ではなくなります。
たとえば、発表された経済指標が予想通りあるいは予想より良くても、売られたりすることは決して珍しいことではありません。
その原因は、既に、テーマに対して順張り方向に、ポジションが偏ってしまっているためです。
また、ポジションが偏ったままになっているのは、多くのマーケット参加者の相場観が一方向に向いていることも示しています。
1985年にプラザ合意があり、大幅な円高誘導されたことがありました。
それから10年間、途中反発の時期もありましたが、円高基調が続き、10年間で160円もの円高になりました。
この時、多くのマーケット参加者が、円高志向になり、時を経るにしたがって、思考が膠着化し損失を出し、結果的に多くのマーケット参加者が、マーケットから退場を余儀なくされました。
このように、時間の経過とともに、テーマがステールになることは避けられず、自分自身の思考に常に柔軟さを持つことが必要不可欠となります。
今のステールは?
それでは、現在、ステールが進行しているものとして、私が考えているものは、「リスク回避の円買い」です。
リスク回避の円買いの発想は、2008年9月に発生したリーマンショックから始まり、リスクが発生したら安全通貨である円を買うというマーケットの慣行です。
昨年も、特に5月から8月にかけて、トランプ大統領の対中対メキシコ向けの強硬発言のたびに、リスク回避の円買いにドル/円は急落しました。
しかし、8月の後半から、米中関係の改善が見られたこともあって、ドル/円は緩やかに値を戻してきました。
ところが、年が変わって、2020年に入ると、1月3日に米軍部隊によるイラン要人2名の殺害、1月8日には、今度はイランによる米軍基地への報復攻撃がなされ、リスク回避の円買いが強まりました。
しかし、トランプ大統領がイランに対する武力行使を否定したこともあり、割とあっけなく反発となりました。
そして、今度は、1月21日頃から新型肺炎の感染拡大懸念が広がり、再びリスク回避の円買いで急落となりました。
特に1月31日には、感染拡大懸念からニューヨークダウが600ドルを超す急落となり、ドル/円の売りも強まりました。
しかし、その週末、中国人民銀行(中央銀行)が18兆円規模の資金供給を表明したこともあって、翌週、世界的に株高、米長期金利上昇となったため大幅反発となりました。
確かに、それぞれ、反発するそれなりのきっかけはあったものの、それ以前に、急落幅が、1円~1円50銭程度に限られ、むしろそこからの急回復の方が目立っています。
これは、明らかに、「リスク回避の円買い」という発想がステールになり、素直に相場が反応しなくなっていることを示しています。
つまり、習い性でマーケットでリスクが発生すると円買いドル/売りを繰り返すため、たちまちのうちに、マーケットポジションが円の買い持ちドルの売り持ちになり、反発力が強く出るものと思われます。
こうして、リスク回避の円買いがステールとなると、マーケットは新しい相場の発想を今後考えていかなければなりません。
それがなにか?
個人的には、リスク回避のドル買いではないかと考えています。
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水上紀行(みずかみ のりゆき)
バーニャ マーケット フォーカスト代表。1978年三和銀行(現、三菱東京UFJ銀行)入行。1983年よりロンドン、東京、ニューヨークで為替ディーラーとして活躍。 東京外国為替市場で「三和の水上」の名を轟かす。1995年より在日外銀において為替ディーラー及び外国為替部長として要職を経て、現在、外国為替ストラテジストとして広く活躍中。長年の経験と知識に基づく精度の高い相場予測には定評がある。なお、長年FXに携わって得た経験と知識をもとにした初の著書『ガッツリ稼いで図太く生き残る! FX』が2016年1月21日に発売された。 詳しくはこちら。