今年1月29日、日銀は金融政策決定会合で、マイナス金利の導入を決定しました。これを受け、ドル/円は118円台後半から121.70まで、ショート筋の損切り的な買戻しを巻き込みながら、急騰しました。

通常、これだけ大々的な買戻しが起きると、ショート筋のポジションはスクエア(ノーポジション)になり、そのため、しばらく高値圏で揉み合うのが一般的です。

ドル/円 日足

しかし、今回は、翌営業日となる2月1日月曜から反落を始め、下げは週を通して続き、米雇用統計の発表があった5日金曜には、一時116.29まで反落となりました。

つまり、往って来いどころか、日銀のマイナス金利導入の発表時点の118円台後半より、さらに低い116円台前半まで下落してしまいました。

そして、この急反落相場では、どうも米系ファンドが動いていたもようです。米系ファンドは、過去を振り返ってみても、ドル/円で結構猛威を振るっています。たとえば、2012年10月から2013年5月に掛けての25円もの急騰相場が良い例です。

ドル/円 月足(2012年~2013年)

2012年9月、米系ファンドは、ユーロ/ドルの上昇相場を狙って買い上げたものの、ほとんど上がらず、いったんユーロの買いを断念して、別の通貨ペアを物色していました。

そこへ、10月になり、どうも安倍首相が最大目標を経済回復と位置づけ、デフレ脱却を達成するために日銀法の改正まで視野に入れたアベノミクスを提唱し始めたことに飛びつき、ドル買い円売りで猛攻を加えました。

折から、前年2011年の東日本大震災による国内すべての原発が停止したことから、代替エネルギーである液化天然ガス(LNG)の大量輸入にともなって、ドル建輸入代金支払のためのドル買いが急激に増えていたところに、その背を押すような、米系ファンドのドルの大量買いに、相場は一本調子で上がりました。

米系ファンドも、このドル高円安局面を、千載一遇のチャンスと捉え、2012年のクリスマスも休暇返上で、攻めの姿勢を崩さず、なんとクリスマス当日には、前日のクリスマスイブとの間で窓が開くほどの買い上げ方を見せました。

年が変わって2013年も買い続け、その上昇は5月まで続き、とうとう一服となりましたが、この間の上昇が25円と近年稀に見る上昇幅となりました。これにより、米系ファンドは、大きく儲けたことは、言うまでもありません。

余談ですが、2013年夏、全米のファンド関係者が、ニューヨーク州ロングアイランドのゴルフ場に集まり、勝利の美酒に酔ったと聞いています。このように、米系ファンドは、まさしくライオンのような肉食動物で、相場が静かな時には、できるだけ動かず体力の消耗を抑えていますが、ここ一番チャンスが舞い込んできた時には、躊躇せず相場に飛びこんで、稼げるだけ稼ごうとします。このハングリーさは、大いに学ぶところがあると思います。

さて、そして今回、マイナス金利導入で上げたドル/円相場で、米系ファンドは、良い売り場とばかりに、上げた121円台から売り下げてきているもようです。彼らが、真剣に動き出すということは、前述しました25円も上昇相場でもお分かりいただけると思いますが、相当なリターンが出ると踏んでこない限り出てきません。

それが、今回出てきているということは、彼らの狙うターゲットは、少なくとも、100円近辺ではないかと思います。米系ファンドのトレーダーと、以前話したことがありますが、本当に日本の事情に詳しく、こちらが舌を巻いてしまうほどです。彼らは、もちろん世界情勢がリスクオフ(リスク回避)で円買いが強まることも予測しているでしょう。

しかし、それだけではなく、原油の大幅安に伴って日本の貿易赤字が劇的に減少していてドルの下支えが弱くなっていること、そしてGPIFを含む本邦機関投資家がここ2年程の間に為替ヘッジなしの外物(外債、外交株式)投資を大きく増やしていることも、よくわかっているものと思われます。

そうしたことを知っている以上、彼らがドル安円高方向で勝負に出てきても、なんらおかしくはないわけです。機を見るに敏な彼らだけに、このチャンスを見逃すことなく、既に動き出しているもようです。

執筆者プロフィール : 水上 紀行(みずかみ のりゆき)

バーニャ マーケット フォーカスト代表。1978年三和銀行(現、三菱東京UFJ銀行)入行。1983年よりロンドン、東京、ニューヨークで為替ディーラーとして活躍。 東京外国為替市場で「三和の水上」の名を轟かす。1995年より在日外銀に於いて為替ディーラー及び外国為替部長として要職を経て、現在、外国為替ストラテジストとして広く活躍中。長年の経験と知識に基づく精度の高い相場予測には定評がある。なお、長年FXに携わって得た経験と知識をもとにした初の著書『ガッツリ稼いで図太く生き残る! FX』が2016年1月21日に発売される。詳しくはこちら