今年のドル/円の年間値幅は、約8円にとどまり、変動相場制移行後に初めて年間値幅が10円を割り込んだ昨年を、現時点ではさらに下回っています。
機関投資家の存在
ドル/円の値幅を縮めている大きな理由は、機関投資家の存在です。機関投資家とは、生命保険会社のように、資金を集め、大量に運用している存在です。
彼らの問題は、国内の低金利によって、資金運用する先がなくなり、活路を国外に求めています。
ただし、国外ならなんでもいいという訳ではなく、信頼性の高い運用先ともなれば、それは、米国となり、中でも、信頼度の高い米国債での運用ということになります。
しかし、米国で運用するとなると、為替リスクが発生します。
もともと、機関投資家は、為替リスクをヘッジするために、外債購入時にドルをはじめ外貨を売って、為替のポジションを帳消しにしていました。
ただ、その問題点は、為替リスクをヘッジすると、運用利回りが大幅に低下することで、折角リスクを負ってまでしている外債運用のメリットがなくなります。
そのため、彼らが取った行動は、為替相場をがんじがらめにして動かせなくすることでした。
機関投資家の手堅い手法
その行動は、具体的に申し上げて、「ドルが下がったら買い、ドルが上がったら売り」ということです。
つまり、ドル相場が下がったら、外債を購入すると同時に外貨を買い、ドル相場が上がったら、外貨を売るというもので、それを、簡単に言えば、巨額の金額で行うがために、下がり切れず、上がり切れない相場を形成しました。
確かに、5月以降のトランプ大統領の相場を揺るがすリスク回避発言(リスクオフ発言・リスクからの逃避を誘う発言)で、ドル/円は、110円台半ばから、8月には104円台半ばまでの下落を見ましたが、この間も、機関投資家は買い下がり、下げ止まると、相場は9月以降反転に向かいました。
そして、その間の、機関投資家の具体的な動きは、実に手堅く、ほぼ50銭幅で買ったり売ったりを繰り返しています。
なぜ、ここまでに、手堅いトレードに徹しているかといえば、バブル期において、かなり大盤振る舞いのトレード(おおざっぱな運用)をしていたために、手痛い損失を被っていたからです。
バブルも終わり、その後、リスクテイク(リスクを取ること)に対して、相当消極的になり、運用は、安全第一の円債に集中しました。
しかし、円債の利回りが急低下したことから運用益が出なくなり、やむなく再び外債に出て来ました。
ただし、あのバブルの轍は踏まない(失敗は繰り返さない)と決め、こうして堅実な運用となったわけです。
投機筋は、投機を成すものとして、動かない相場は困ります。
そのうえ、国民年金、厚生年金を運用する公的運用機関GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)まで、同様のことをしようとしています。
ただし、相場を、人為的に固定させようとすると、相場に歪みが出て、大荒れになるということは過去に何度もありました。
たぶん、マーケットが、動かないと信じきった時に、相場は動き出すものと思われます。
西洋史的にいえば、膠着した中世と躍動が蘇るルネッサンス(再生)を、相場も繰り返しているのだと思います。
そこには、何人も口を挟めない哲理があると思います。