人間の心理は、複雑です。基本的には、疑り深く、しかし、いったん信じ込んだら疑うことを忘れます。この信じ込むということを、相場の上では、「確信する」と呼んでいます。
そして、この確信が相場展開の上で大きな働きをします。
具体例を上げてお話ししましょう。
米中貿易協議の合意について「北京側の雰囲気は悲観的だ」と中国の政府関係者の話として伝わったとします。
この決定的とも言える報道により、今まで疑り深かったマーケットは、一気に報道を確信し、リスク回避の円買いが殺到し、ドル/円は急落しました。
しかし、その確信が、マーケットのポジションを一方向に偏らせ、それがために、相場は反動を起こしやすくなります。ただし、マーケットは既に下げに確信を持っているため、多少の戻りでは、むしろ売り増してきます。
そのために、さらにマーケットはショートになり、そして、売り過ぎているため、徐々に買戻しが出るようになりジリ高になります。
ですが、ここに値ごろ感という、恐ろしいものがあります。値ごろ感とは、実に感覚的なもので、この辺まで戻したら、そろそろ売り時か(買い時か)ということで、売るなり買うなりするものです。
例で言えば、この値ごろ感からの売りで、さらにショートは膨らみ、下がらなくなり、ジリ高は続きます。
尚、ある程度戻すと、値ごろ感からの売りと言っても、結構なボリュームで売ってくるところもあり、一時的に急反落することもあります。これが結構ダマシで、思わずやっぱり売りだと改めて確信する売り筋を誘い込み、さらにショートになります。
こうして、マーケットのショートポジションはさらに膨らみ、多くのマーケット参加者の確信に反して、相場はジリ高を続けます。
反発は、ひとり止め二人止めのペースですので、実に緩やかです。けれども、徐々に、下げの可能性が低下し、一本調子の上げになって行きます。
こうなった時の、マーケット心理は、なぜ上がるんだ?おかしいというものになり、マーケットにショートが溜まってしまったことに否定できなくなっています。
ただし、この段階になると、ロンドンなど目先の効くところは、どういう状況下、つまりショートが積み上がっていることを目ざとく気づき、マーケットのショートポジションを崩す、いわゆるショート・スクイズに専念するようになります。
ロンドンのショート・スクイズは、英国伝統のキツネ狩りに似ています。何匹もの猟犬にキツネを追わせ、それに人間が馬に乗って追い、時間を掛けてキツネを追い詰め、最後は心臓を破裂させて仕留めるという狩です。
マーケットでのロンドン勢によるショートスクイズも、ショート筋を延々と時間を掛けて追いつめて、切らせるというところは、キツネ狩りと酷似しています。
一方では、この毎度毎度餌食になる、アジア勢にも学習効果がないように思えてなりません。このように、確信を持ってしまった後の顛末を振り返ってみますと、やはり、疑いを忘れてしまった段階で、勝敗は決まっていたものと思われます。
生き馬の目を抜く相場の世界では、疑うことを忘れず油断しないことが大事だと思います。それだけ儲けるということは、簡単ではないということです。