最近、トランプ米大統領がツィッターで、どんどん彼の主張を世界中に発信し、マーケットでは、それに右往左往する相場展開となっています。

トランプ大統領のうまいところは、皆の気持ちが、一方に偏ってくると、それまでの圧力のある発言から、それを否定するような発言に転じて、マーケットのガス抜きをするところです。

たとえば、「米中貿易協議は全く急いではいない。妥協しない」と発言したかと思えば、「協議は、成功だった」と言ってのけたりすると、円高と見ていたマーケットの熱気は冷やされ、思わずポジション調整となります。

こういう点において、トランプ大統領は駆け引きの出来る優秀なビジネスマンであり、トレーダーで言えば、ビッグプレーヤーだと思います。

  • 露出しすぎも禁物?

ただし、過去のビッグプレーヤーを見てきて思うことがあります。

ビッグプレーヤーは、その派手で強烈なトレード手法から、マーケット中の注目を集めるところとなります。しかし、それだけ、露出していると、ビッグプレーヤーの売買手法が、多くのマーケット参加者の知るところとなり、見破られるようになります。

一例として、アンディー・クリーガーについてお話しましょう。

彼は、今はドイツ銀行に買収されてしまいましたが、米国のバンカーズ・トラストという猛烈にトレーディングをすることで世界的に有名な銀行の、また、その中でも、超猛烈なトレーダーでした。

因みに、当時のバンカーズ・トラストの会長は、「トレーディングでつぶれた銀行はない」と言い切り、トレーディングを大いに奨励していました。

さて、アンディー・クリーガーですが、為替市場へのデビューは、実に唐突でした。

もともと、彼は、通貨オプションのトレーダーで、そのヘッジで、為替市場に出てきたわけですが、マーケットに叩き込んでくる金額がそれはもう半端な額ではなく、また、一気呵成に叩いてきましたので、1週間もしないうちに、世界中のマーケット関係者の中で知らぬものはいない状態になりました。

彼の手口のひとつを、ずっと後になって、彼の知り合いから教えてもらったのですが、ふーんと唸ってしまいました。

たとえば、ドル/円が、109.55-60の時に、109.30のOffer(オファー、売り)をブローカーを通じて、マーケットに入れます。そうしますと、マーケットレートより、低いレートですから、買いが群がってきます。これで、とりあえず、500本(5億ドル、1本=1百万ドル)を売ります。

次に、更に低い109.10のOfferを入れます。もちろん、これにも、買いが群がってきます。これで、追加の500本を売り、合計1000本(10億ドル)のショートとなります。この状態で、マーケットは、短期的にOverbought(オーバーボート、買いすぎ)気味になってきています。

そこで、彼は、一斉に、他の銀行を何行も呼び、ダイレクトでプライスを聞き(ダイレクトディール、銀行間の直接取引)、とどめの更に1000本を叩き込みますから、完全にOverboughtになった他の銀行は、堪りません。

もう、総投げ状態に陥り、マーケットにはBid(買値)もないまま急落します。そんな喧騒の中、彼は低いBidを出しながら、悠然と利食ったという寸法です。

しかし、これだけド派手なことをすれば、すぐに他のマーケット参加者に手の内が読まれた結果、彼が猛威を奮ったのは、1年ぐらいのもので、その後その名を聞くことはありませんでした。

米大統領とビッグプレーヤーとは言え一塊のトレーダーとでは、比較にはならないかもしれません。

ただし、トランプ大統領の手口は、すでに専門家の間では読まれているでしょうし、今後多くの人々が、その手口に気づくのではないでしょうか。その露出度の高さで、身を滅ぼすことがないことを願っています。

水上紀行(みずかみ のりゆき)

バーニャ マーケット フォーカスト代表。1978年三和銀行(現、三菱東京UFJ銀行)入行。1983年よりロンドン、東京、ニューヨークで為替ディーラーとして活躍。 東京外国為替市場で「三和の水上」の名を轟かす。1995年より在日外銀において為替ディーラー及び外国為替部長として要職を経て、現在、外国為替ストラテジストとして広く活躍中。長年の経験と知識に基づく精度の高い相場予測には定評がある。なお、長年FXに携わって得た経験と知識をもとにした初の著書『ガッツリ稼いで図太く生き残る! FX』が2016年1月21日に発売された。詳しくはこちら