英国がEU離脱の国民投票が早ければ今年6月か7月に実施される可能性があるということが英国のリスク要因として挙げられています。
そのため、今年はポンド売りとして見ているマーケット参加者も多く、実際、先月28日の英ボクシングデーの祝日を終え、欧米勢が新年度入りした29日のロンドンマーケットでは、早速ポンド売りが強まりました。
しかし、EU離脱が英国にとって本当にリスク要因なのでしょうか。
イギリスってどんな国?
英国という国がどんな国であるか、実は、あまりご存知ないかと思いますので、その片鱗ではありますが、ご紹介したいと思います。
英国には、「栄光の孤立」という言葉があります。
つまり、連合するよりも孤立することを、肯定しているところがあり、過去にも、欧州大陸とは一線を画してきた、あるいは一線を画そうとしてきたところがあります。
事実、通貨はポンドのままであり、ユーロではありません。
また、地理的には、英国と欧州大陸の間は、確かにドーバー海峡という狭い海峡によって隔たっているのに過ぎませんが、心理的には、米国との距離感がドーバー海峡並みに狭く、欧州大陸との距離感は大西洋ほどに離れている感じです。
ですので、EU離脱は、決して、英国内では悲観的にとらえられるものではないと見ています。
忘れてはならないことは、今の英国は大英帝国の末裔
しかし、マーケットとして見れば、この材料をポンドにとってはアゲンスト(不利)と捉え、ポンド売りのエクスキューズ(言い訳)にする可能性は高いと思われます。
ただし、もうひとつ、英国を語る上で忘れてはならないことは、今の英国は大英帝国の末裔だということです。
日の沈まぬ国と言われるほど、世界中に植民地を持った国であり、今でも、英連邦として、経済的にも、人的交流の面でも、深いつながりが旧植民地とはあります。
つまり、小さなグレートブリテン島の国ではなく、依然として世界中にコネクションのある、いわば帝国であるということです。
従って、EUから離脱しても、英国には、あまりダメージはないものと見ています。
英国で、テレビを観ると、いろいろなワールドカップを放送しています。
たとえば、最近人気のラグビーをはじめ、クリケット(野球に似たスポーツ)、スヌーカー(ビリヤードのようなウィンタースポーツ)、ダーツ(パブのスポーツ)などがありますが、特にラグビーやクリケットは、アフリカや、インドや、オセアニアなどの英連邦の国々が参加しています。
また、経済紙FT(フィナンシャル・タイムズ)の為替のマーケットコメント欄を見ると、ケニア・パウンドがどうしたとか、インド・ルピーがどうしたとか、世界が全く違って見えます。
英国は、未だに地中海ににらみを利かせている
また、あまり知られていませんが、英国は、未だに、地中海ににらみを利かせています。
地中海の大西洋への出口であるスペインのジブラルタル半島の先端(英国領)、地中海の中央にあるマルタ島、地中海の西に位置するキプロス島、この東西に三点がつながる位置に英軍の駐屯地があり、地中海を航行する船舶を監視しています。
そうかと思えば、ロンドン市内に設置されている監視カメラの台数は、桁違いだとも聞いていますし、カメラによっては、スピーカーがついていて、不審者に注意もするそうです。
なんとなく、のんびりしているような国に見えますが、実は、内外の安全保障に本気で取り組んでいます。
来年は、どうもポンド売りの年になりそうだと言われますが、このように、日本から見てはわからない英国の底力がありますので、単にポンドは弱いと言って相場に突っ込むと、意外にも手痛い目に遭う危険性がありますので、どうぞご注意ください。
執筆者プロフィール : 水上 紀行(みずかみ のりゆき)
バーニャ マーケット フォーカスト代表。1978年三和銀行(現、三菱東京UFJ銀行)入行。1983年よりロンドン、東京、ニューヨークで為替ディーラーとして活躍。 東京外国為替市場で「三和の水上」の名を轟かす。1995年より在日外銀に於いて為替ディーラー及び外国為替部長として要職を経て、現在、外国為替ストラテジストとして広く活躍中。長年の経験と知識に基づく精度の高い相場予測には定評がある。なお、長年FXに携わって得た経験と知識をもとにした初の著書『ガッツリ稼いで図太く生き残る! FX』が2016年1月21日に発売される。詳しくはこちら。