クロス円の変動は、基本的に、構成するドル/円ともうひとつの対ドルの通貨ペアのボラティリティー(価格変動率)の格差によって生じるものです。
たとえば、ドル高の場合のユーロ/円を例にとれば、構成するユーロ/ドルとドル/円のうち、ユーロ/ドルの方がボラティリティーが高いため、簡単に言えば、ドル/円の上げよりユーロ/ドルの下げの方が大きいため、ユーロ/円は下がります。これが基本形です。
しかし、場合によっては、確かに、ユーロ/ドルとドル/円がパラレル(平行して)に下がることにより、ユーロ/円が下がることもありますし、ドル/円単体の下落なり上昇によりユーロ円が動くこともあり、これは応用編のようなものです。
応用編の成功例も確かにありますが、それはやはり、たとえば、ユーロ/円のポジションが一方に偏っていた時に、起きることです。実例を見てみましょう。
11月9日午前4時のFOMCの結果発表直後(1)の下げは基本形のドル高によってユーロ/円の下げが起きています。
その後、10時~11時はドル/円のロングの投げ(2)、しかし、16時にロンドンが入ってきてからの下げは、ロングの投げではなく、意図的に下を潰そうとした売りでした(3)。
実にロンドンらしい強引さでしたが下げ切れず、ロンドンのいったんの手仕舞いが、通常の手仕舞いタイムである21時を待たずに、18時から20時ぐらいに渡って出たようです。
しかし、ニューヨークタイムに入り、再びドル/円の下値を潰そうとした売りが強引に入り(4)ましたが、下げ切れず越週となりました。
11月12日月曜日の東京で、投資家筋と思われるドル/円の買いにユーロ/円はジリ高(5)となりました。
このように、めまぐるしく基本形と応用編が繰り出されていることがわかります。
ですから、逆に申し上げれば、基本形も応用編もわかったうえでないとクロス円というものは、結構難しいものです。
確かに、クロス円そのもの単体としてだけ見るというやり方もあるかもしれなせん。
しかし、やはりクロス円を構成するドル/円とたとえばユーロ/ドルのそれぞれの動きがわかっていないと、避けられるはずのリスクも、もろにかぶることがあると思いますので、注意が必要です。
クロス円における「割り算通貨」と「掛け算通貨」
クロス円には、割り算通貨と掛け算通貨があることをご存知でしょうか?
割り算通貨とは、カナダ/円とか、スイス/円などで、ドル/円をドル/カナダあるいはドル/スイスで割ることによって作られるクロス円で、変動幅は限られます。
一方、掛け算通貨とは、ユーロ/円、ポンド/円、豪ドル/円、NZドル/円などで、ドル/円と、ユーロ/ドル、ポンド/ドル、豪ドル/ドル、NZドル/ドルを掛け合わせて作るもので、変動幅が大きくなります。
今の主流は、掛け算通貨で、そのボラティリティーの高さから人気の通貨ペアになっています。
しかし、ここで、十分ご理解頂きたいことは、通常でもボラティリティーが高い掛け算通貨は、不測の事態となった時に、大変危険だということです。
たとえば、2008年9月のリーマンショックの時など、大変なことになりました。
リーマンショックでは、米大手証券会社が株でとんでもない損失を被りました。
その損失を埋めるため、当時、大きく利益が出ていた、円キャリートレード、つまりは、低金利の円を売って高金利の通貨を買う、主に掛け算通貨でしたが、これを売ることによって、利益を出し損失を埋める、いわゆる合わせ切りを大規模に行いました。
このため。掛け算通貨であるユーロ/円、ポンド/円、豪ドル/円、NZドル/円は、何十円単位で急落しました。
こうしたクロス円は、理論値上のレートであり、実際には、たとえば、ドル/円と豪ドル/ドルに分解して決済します。
ドル/円はまだしも、豪ドル/ドルなどは、実際上流動性がありませんので、損切ることすらままならない状況でした。
このように、クロス円には、とても怖い一面がありますので、十分ご承知おき頂いてトレード頂くようにお願いします。