私が、まだディーラーに成り立てだった頃に、先輩がよく教訓として話してくれたのが、この「バスに乗り遅れるな」でした。

つまり、決して良いことではありません。

相場をバスに見立てた話で、相場が進むにしたがってバスという相場にひとり乗り二人乗りしていき、さらにバスが進むと、乗り遅れまいとさらに多くの人が「バスに乗り遅れるな!」とばかりに乗り込んできます。

相場には、最初は乗る人間も少ないですが、先に進むにしたがって乗客は増え混み合ってきます。終点(相場の終わり)手前のバス停では、乗りきれないほどの人間がさらに乗ろうとします。そして、程なく終点につき、ひと相場が終わります。

要するに、「バスに乗り遅れるな」のように、マーケットの大勢に追随しても、儲けはわずかです。ともすれば、損失を出すこともよくあります。

やはり、「先に入って、(終点を待たずに)先に出る」といった、先頭を切る姿勢が大事だということです。

言い換えれば、たとえば「売りが強いうちに買って相場に入り、(上がったら)買いが強いうちに売って手仕舞う」ということが大変重要です。

つまり、これは先行者利益(先行したものが得る利益)であり、追随したことによる利益よりも数倍、あるいは数十倍の利益を上げるチャンスがあります。

ところが、たとえば、米長期金利の上昇に米株が急反落したことによって、米株が相場の主導権を握り、ドル/円がその動きに後追いするような相場があります。

こうなると、米株の動向をにらんでの相場となり、ドル/円に主導権がなくなりますので、儲けにくくなります。言ってみれば、大口取引会社の業績に振り回される下請け会社のような存在になります。

ただこうした状況でも、生き残る道はあります。

ひとつには、他の通貨ペアに乗り換えるということが考えられますが、あるいは、主導権を握る、たとえば米株の動きを読むことによって、為替相場の動きを読んで先手を打つということも出来ます。

いずれにしても、マーケットに先行して相場に対応するということが大事だと思います。

世の中、四角四面に考えれば、困難なことばかりです。しかし、知恵を巡らせれば、突破口を見出すことも決して不可能なことではないと思います。そして、知恵を巡らすことと同時に、大事なことは、恐れずリスクを取ることです。

相場でも、人生でも言えることですが、新しい相場に対して、あるいは人生の転機において、ひるまずあえてリスクを取ることが突破口になっていくものと思います。

そのためにも、「バスに乗り遅れる」ことを気にせず、あえて先行者たらんとすることが大事ではないでしょうか。つまり、相場も人生も守りに入ってしまわないようにすることが大事だと、私は考えています。

私はスキーが好きで、若い頃、ヨーロッパのアルプス級の規模をもつ長野県の八方尾根というスキー場によく行きました。

本当にスケールの大きなスキー場で、その分、急斜面もかなりきつく、スキーのインストラクターから、あえて自分から落ちていくつもりで滑れと言われました。

それは奈落のような谷底に、上体を乗り出して滑るのですから怖く、そこで腰が引けると、板の前部が浮き、むしろスピードが出てしまうことに気づきました。

こうして、身を谷に投げ出すようにして滑ることで、曲がりなりにも、この急斜面を滑れるようになりました。

そうして、麓に下りてくると、今まで難しいと思った斜面も、難なく滑れるようになり、自分自身に自信をもつことが出来ました。

相場も人生も難局を乗りきれば、自らの自信となります。これは、「バスに乗り遅れるな」と他に追随したのでは得られない醍醐味だと思います。

水上紀行(みずかみ のりゆき)

バーニャ マーケット フォーカスト代表。1978年三和銀行(現、三菱東京UFJ銀行)入行。1983年よりロンドン、東京、ニューヨークで為替ディーラーとして活躍。 東京外国為替市場で「三和の水上」の名を轟かす。1995年より在日外銀において為替ディーラー及び外国為替部長として要職を経て、現在、外国為替ストラテジストとして広く活躍中。長年の経験と知識に基づく精度の高い相場予測には定評がある。なお、長年FXに携わって得た経験と知識をもとにした初の著書『ガッツリ稼いで図太く生き残る! FX』が2016年1月21日に発売された。詳しくはこちら