トレンド相場は、実にきれいなチャートパターンを作ります。しかし、その裏では血みどろの戦いがあります。

基本的に、どうしてトレンド相場ができるかと言えば、投資家が一方向にフロー(資金の流れ)を作るからです。

なお、ここで言う投資家とは、政府系ファンド、年金運用のペンションファンド、生保など機関投資家、中央銀行などです。

この一方向のフローは、売ったら手仕舞いのために買わなければならない、また買ったら手仕舞いのために売らなければならない投機筋にはできない技です。

それでは、実例を二つほど見てみたいと思います。

【ケース1】2001年、9.11米同時多発テロ

  • ユーロ/ドル 月足

ユーロ/ドルは、2002年初めから2008年までの6年間で、7000ポイントも上昇しました。

その背景は、2001年1月、ジョージ・ブッシュ氏が大統領に就任すると、同政権はイスラム圏に圧力を加えました。

それに対して噛みついたのが、オサマ・ビンラディン率いるテロ組織「アルカーイダ」でした。

同年9月11日に、このテロ組織によってハイジャックされた複数の米旅客機が、ニューヨークのワードトレードセンターや、ワシントンDCのペンタゴン(国防総省)に突っ込む大惨事となりました。

これにより、ブッシュ政権は完全にヒステリー状態に陥り、この混乱を見た内外の投資家は、ドルからユーロに資金移動することを熟慮の末に決定し、翌年の2002年2月から実際に行動に出ました。

投資家は検討には時間を掛けますが、決まったとなると、怒涛の勢いで一方向に資金移動します。

この投資家のユーロ/ドルの大量買いに加えて、投機筋のユーロの買い戻しが加わりました。

なぜなら、投機筋の発想からすると、上昇相場はテクニカル的に必ず調整が入ると見がちで、調整を狙ってどうしても売り上がってしまいます。

しかし、投資家はそんなことにお構いなしで、一方向に資金移動をしますので、テクニカルでは説明しづらい一本調子の上げになり、これによって、投機筋のショートはあぶり出され、買い戻し圧力に、上昇はさらに加速しました。

この投資家の資金移動の中で、特に目立ったのが、中東・ロシアのドル建て石油代金や中国のドル建ての大量の外貨準備のユーロシフトでした。

この御三家のことを、マーケットでは、Eternal Buyer(永遠の買い手)とまで呼ばれていました。

こうして出来上がれば、6年間で7000ポイントのユーロ/ドルの上昇ですが、裏ではこうした投資家と投機筋の動きが繰り返されてこそできた、見た目にはきれいなチャートですが、実は血なまぐさい相場であったことがわかります。

【ケース2】2012年10月、アベノミクス

  • ドル/円、月足

2012年10月頃からアベノミクスが話題に上りだし、これに乗ったのは、米系ファンドでした。

彼らは、これを千載一遇のチャンスと捉え、買い上げてきました。

彼らは本当に真剣で、あの大事なクリスマス休暇も返上し、翌年の5月までひたすら買い上げ、この間にドル/円はおおよそ23円の上昇を見ました。

そして、さらに2014年9月からは、黒田バズーカ第二弾によって、18円近くの上昇を同年暮れまでに見ましたが、このときも米系ファンドが積極的に買い上げました。

しかし、この一連の急騰も、確かに米系ファンド筋の果敢な攻撃が功を奏したことも事実ではありますが、同時に、テクニカル的に相場が行き過ぎていると見た投機筋の売り上がりが裏目に出て買い戻しに急いだことが、相場の上昇に拍車を掛けた点は否めないと思います。

相場とは、攻撃的な買い上げ、売り下げも必要ではありますが、逆張り的に入ってきたマーケット参加者が失敗したと観念しての買い戻し、売り戻しがオーバーシュート(相場の行き過ぎ)を助長することが大きな変動要因になっていると思われます。

したがって、美しく見えるチャートの裏にもドラマがあると言えると思います。

水上紀行(みずかみ のりゆき)

バーニャ マーケット フォーカスト代表。1978年三和銀行(現、三菱東京UFJ銀行)入行。1983年よりロンドン、東京、ニューヨークで為替ディーラーとして活躍。 東京外国為替市場で「三和の水上」の名を轟かす。1995年より在日外銀において為替ディーラー及び外国為替部長として要職を経て、現在、外国為替ストラテジストとして広く活躍中。長年の経験と知識に基づく精度の高い相場予測には定評がある。なお、長年FXに携わって得た経験と知識をもとにした初の著書『ガッツリ稼いで図太く生き残る! FX』が2016年1月21日に発売された。詳しくはこちら