昔、ロンドンでディーラーになり、ビシビシ鍛えられて、ようやく一本立ちした頃のことです。当時は、フォワード・ディーラーを担当していました。
フォワードというのは、皆さんがポジションをロールオーバー(翌日に繰り越す)ときに使うスワップ取引のことですが、要は、二国間の金利差の拡大・縮小を予想してポジションを張るものです。
スポット(いわゆる、FX)よりも変動幅がないため、金額をスポット取引よりも、ずっと大きくしてトレードしていました。例えば、スポットで1,000万ドル持つところを、フォワードでは1億ドル持ってトレードするという感じです。
そんなとき、トーマスとマイクというふたつの米大手銀行のフォワード・ディーラーと親しくなり、たまにパブで飲むようになりました。まだまだおぼつかない英語を使う私に、彼らはとても親切でした。
そんなある日、ブローカー(仲介業者)から、マーケット・サポートの依頼がきました。マーケット・サポートとは、フォワードの場合、いろいろな期間で取り引きしています。
短いところでは、O/N(オーバーナイト、今日から明日)、T/N(トムネクスト、明日から明後日)といった極短期から、1カ月、3カ月、6カ月、1年といった長い期間まで取り引きしています。
マーケット・サポートとは、マーケットのどの期間にもあまりプライスがないときに、ブローカーが銀行に、プライスを出してマーケットを支えて(サポート)欲しいという依頼です。
とうとう、マーケット・サポートを依頼されるようになったかと、欣喜雀躍、各期間のプライスをブローカーに提示しました。
それからしばらくして、けたたましい勢いで全ての期間の同方向のプライスが叩きまくられ、大きなポジションを抱える羽目になりました。
そして、相場が動いた理由がわからないままに、さらに相場は、自分にとってアゲンスト(不利)な方向に進み、もうこれ以上は損できないと観念し、全ての期間で損切りしました。それは、わずか5分か10分ぐらいのことだったと思います。
フォワードでは、期間の長い物もありますので、クレジット・ライン(信用枠)のチェックを行わなくてはなりません。そのために、相手の銀行の名前を聞く段になってわかったことは、全期間を叩いてきたのも、私の損切りを受けたのも、トーマスとマイクの銀行だったのです。
してやられたと思いました。
多分、トーマスとマイクが、ブローカーに私のいた銀行にマーケット・サポートのプライスを聞かせ、二人がかりで、私の全期間のプライスを叩きまくり、そして狼狽して投げてきたところ、利食ったということのようでした。
まさに、市場の洗礼を受けた感じでした。
しかし、それで、彼らに腹が立ったということはなく、逆に、脇を甘くしていれば、「こいつは使えるな」と見て、徹底的にしゃぶられるということを体験を持って知ることができたことには、良かったとさえ思いました。
ロンドン勢とは、こうした人たちです。隙を見せれば、徹底的に攻め落とそうとします。それをかわすには、やはり経験を積み、相手の手口を知ることです。
ロンドンディーラーだけでなく、華僑ディーラーにも言えることですが、叩きつけるように攻めてきて、相手を狼狽させておいて万歳させたり、逆にまだやるの?というぐらい延々と攻めてきて、相手を根負けさせたところを利食うなど、いろいろな手を使ってきます。
慣れてないと、あまりの勢いに蹴落とされて投げてしまいますが、所詮、彼らも単なる投機筋ですので、ポジションを長くは持ちきれません。そのあたりがわかってくると、それほど驚くには足らないことに気づくと思います。
むしろ、なにをそんなにギャーギャー騒いでいるのかと思うぐらいが良いように思います。