戦略(Strategy、ストラテジー)と戦術(Tactics、タクティクス)は、もともとは軍事用語ですが、企業経営などにも使われています。そして、相場の世界で戦っていくためにも、大変大事な言葉です。 特に、戦略と戦術の違いを理解しておくことが必要です。

  • 戦略と戦術の違い(画像はイメージ)

戦略と戦術

戦略とは、その戦争自体に勝つための、総合的・長期的な方針です。戦術とは、戦争に勝つための個々の局面の具体的な戦い方です。

戦国時代にたとえれば、肥沃で広大な敵の領土があり、それを手中に収めることが、我が方の国力を強めることになると判断したとします。しかし、その土地の前には、領土を守る堅固な敵の城があり侵攻を阻んでいます。

その城を攻略することによって広大な敵の領土を一気に手中に収めようと決めることが戦略です。その戦略に基づいて、城を落とすために夜陰に紛れての奇襲攻撃でいくのか、城の周りを水で囲み兵糧攻めにするのかといった具体的な戦い方が戦術です。

相場の世界で言えば、戦略とは、今後の相場展開を、例えば下げトレンドの相場になりそうだと予測し(相場観)下げを取ると決めることが戦略です。

しかし、下げトレンドと言っても、アヤ戻しもあります。そのために個別具体的なトレーディング方針(戦術)を決める必要があります。

例えば、下げたところはほどほどで買い戻し、また戻りを待って売りという売り回転でいくことにするとか、アヤ戻しのリスクはあるけれども、戻しは弱そうなのであえて売りっぱなしの状態でいくといったいろいろな戦術の中からどれかに決めて、戦いに臨むことが必要です。

つまり、大枠としての相場観に基づく方針(戦略)とオペレーション(トレーディング、戦術)は、別物だということです。

進む方向がわからないままに行き当たりバッタリで、その場の雰囲気に押し流されてやられないようにするためには、大局的な相場観に基づいた方針(戦略)を持つことが大変大事です。

ただ一方で、戦略だけで相場に臨んでも利益につながるとは限らず、各相場局面(局地戦)で利益を出して生き残る(戦術)には、大きな野望(戦略)とは別に、この場の戦(いくさ)はここまでという割り切りが必要だと考えています。

いかに犠牲(負け)を少なく勝つかという点で、戦略と戦術の両方が大事だということになります。

なお、プロであろうと個人であろうと、トレーダーは、軍事や企業経営と違い、戦略も戦術も自分自身ですべて決めなくてはなりませんので、戦略と戦術の違いをよく理解しうまく使い分ける必要があるわけです。

相場のありのままを受け入れる

相場は、生き物だと思っています。

そのため、ある時点で相場を見通しても、その後、新しいファクターが加わったり、今までの相場を構成していたファクターが欠落したりすることにより、相場は変化していくものです。

したがって、相場の見通しはこれだと決め打ちはできず、変化があれば調整をする必要性は常にあります。

調整をせずに当初の見方に固執することで、実際の相場と見方が乖離していくことの方が、むしろ危険だと思われ、見通しに調整はつきものだと考えています。

このことは、システムトレードでも言えると、システムトレードをしている知人も言っていまして、ある一定期間が過ぎるとやはり、調整をしなくてはシステムと言えども、うまくワークしないということでした。

また、私が知る有名ディーラーの方などは、「これは上げだ」と宣言しても、口の根が乾かぬうちに、売りに転換したりすることは日常茶飯事で、おちおち最初の宣言を真に受けていると取り残されてしまうほどでした。

トレーダーとして必要なことは、今目の前で起きていることを、もともとの自分の考えにこだわらず、素直に見られることだと思います。

つまり、執着せず、常にその時点における相場のありのままを受け入れられるということが大切だと思います。

水上紀行(みずかみ のりゆき)

バーニャ マーケット フォーカスト代表。1978年三和銀行(現、三菱東京UFJ銀行)入行。1983年よりロンドン、東京、ニューヨークで為替ディーラーとして活躍。 東京外国為替市場で「三和の水上」の名を轟かす。1995年より在日外銀において為替ディーラー及び外国為替部長として要職を経て、現在、外国為替ストラテジストとして広く活躍中。長年の経験と知識に基づく精度の高い相場予測には定評がある。なお、長年FXに携わって得た経験と知識をもとにした初の著書『ガッツリ稼いで図太く生き残る! FX』が2016年1月21日に発売された。詳しくはこちら