「利食いが大好き」

決して冗談ではありません。このメンタルこそが、利益を積み上げるのに大変大事なことなのです。

私はもともと長期のポジションを張るチームにいたせいか、ポジションは長く持つものという既成概念がありました。そのため、トレーディングのやり方は、少なくとも200~300ポイント先のターゲットまで待ち続けるというものでした。

しかし、相場というものは、弓矢のように一直線に的に向かっていくわけではなく、上がったり下がったりしながら、相場観が外れていなければ、ターゲットに向かうのが普通です。誰も相場が思った通りのターゲットに向かうとは保証してくれませんし、相場観が外れていれば、大きく損失を出すことになります。

ですから、私のその頃のやり方をしていますと、例えば、上げを狙うのなら、上げたところで利食うのはこらえ、また下落する局面もこらえて、ただひたすら、ターゲットへの到達を待つわけです。

もちろん、当たれば、大きいです。しかし、誰も当たるとは保証してくれない波間をドンブラコッコと行くわけですから、精神的にも肉体的にもヘトヘトになります。

このことを、ある外銀でチーフディーラーをやっていた友人に話しましたところ、「そんなことしちゃダメだよ。それじゃあ疲れるばっかりだよ。俺なんか、利食いが大好きだから、利食えればどんどん利食ってしまう。それでまた、相場がさらに進むなら、また入ればいいんだよ。」

これは、今まで耐えるのが仕事だと思っていた私にとってみれば、目からウロコでした。そうして、やり方を変えてみたところ、確かに、疲れずに儲かるではありませんか。 今までのあの耐え忍ぶ日々は、なんだったのだろうと思うばかりでした。

確かに、長期ポジションを持っているときも、「これは良いレートだ!」と思うことは、何回となくありました。しかし、そのたびに、「いやいや、自分のターゲットはあそこだ。ここで利食ってどうする」と自分を制していました。

ところが「利食い大好き」方式にすると、「良いレート!」と五感で思えば、どんどん利食えるのですから、本当に気持ちが軽く楽しくさえあります。この「五感を信じる」ということが大事なのだと思います。

よく言われるのは、勘に頼らず合理的かつ科学的に判断せよということです。 しかし、あえて申し上げますが、合理的かつ科学的判断も否定はしないものの、同時に自分が持って生まれた五感を信じることも大事だと思います。目の前のレートが伝えてくるメッセージを無下に否定することはないと考えます。

「気配」とか「気」とかいうものがあります。

一度、面白いことをかかりつけのマッサージ師さんから聞いたことがあります。前のお客さんと次のお客さんとの間に十分に時間を置くようにしているというのです。なぜですかと聞きましたところ、十分に間を置かないと、「気配」が残って次のお客さんが落ち着かないそうです。それぐらい、五感というものは感じているのです。

これを、瞬時に判断を下さなければならないトレーダーが使わない手はないと思います。私が、ディーラーになるための丁稚奉公していたとき、先輩からよく言われたのは、「一遍にいくつものことを見て聞いて同時に判断しろ」ということでした。

そこには、自然と五感を使わなければならない環境があったと思います。例えば、トレーディングからブローカー(仲介業者)の発するボイス(声)が、なくなっただけでも、現在は情報が減っていると思います。

あのプライスを読む語気だけでも、いろいろな情報を伝えてくれました。それだけに、心して五感を使うように心掛けることが大事だと思っています。

水上紀行(みずかみ のりゆき)

バーニャ マーケット フォーカスト代表。1978年三和銀行(現、三菱東京UFJ銀行)入行。1983年よりロンドン、東京、ニューヨークで為替ディーラーとして活躍。 東京外国為替市場で「三和の水上」の名を轟かす。1995年より在日外銀において為替ディーラー及び外国為替部長として要職を経て、現在、外国為替ストラテジストとして広く活躍中。長年の経験と知識に基づく精度の高い相場予測には定評がある。なお、長年FXに携わって得た経験と知識をもとにした初の著書『ガッツリ稼いで図太く生き残る! FX』が2016年1月21日に発売された。詳しくはこちら