世間一般では良いことでも、相場の世界では避けるべきことがあります。そのひとつは、例えば新年や新年度といった新しい節目となったとき、「(気持ちも新たに)さあやるぞ!」となることです。

これは、世間一般では大変良いことなのですが、相場の世界では、このマーケット全体が「(気持ちも新たに)さあやるぞ!」と盛り上がることは、非常に危険なことです。

なぜなら、「さあやるぞ!」とばかりに、皆が同じ方向を見る、つまり、マーケットのポジションが一方向に大きく偏ると、その反動で逆方向に相場が振れて、多くのマーケット参加者が振り落とされてしまいます。ですので、新年や新年度でも、冷静に対処する必要性があります。

相場の世界で「確信」を避けるべき理由

そして、今回の本題である「確信する」ということも、世間一般的には良いことですが、マーケットでは避けるべきことです。

マーケットにおいて確信するときとは、米雇用統計といった重要指標の発表時、要人発言などのときです。

指標が予想外に良かったり、あるいは悪かったり、あるいは予想外の要人発言が出たりで、その内容がこれは間違いないと、マーケットが「確信した」とき、ポジションは一方向に偏るものです。

ここで、私が実際に経験した例をお話ししましょう。

私が、ニューヨークに駐在していた頃のある静かな午後、突然ドル/円が急落しました。

何があったんだろうと、ロイターのニュースヘッドラインを見たところ、「ニューヨーク連銀が、ドル/円でドル売り介入」とあるではないですか。本当に静かなマーケットの中でのこの唐突な報に、マーケットは騒然となり、なんとニューヨークの午後から東京オープンに掛けて、5円も急落してしまいました。

そして、多くのマーケット参加者が、「ニューヨーク連銀がドル売り介入したのだから、売りだ」と確信しました。

急落の過程では、ロングの投げが先行しており、ろくろくショートはできにくいものですが、そのときもそういった状況で、マーケットが売り出したのは、下げ止まってからでした。

そうすると、少しでも高いところで売ろうとするため、戻り売りが活発になります。しかし、値を戻すということは、下がらなくて買い戻す人がいるということです。要は、下がらないから買い戻す、しかし、上で戻り売りを待っている人が新たに売るということを繰り返すことになります。

なぜなら、「下げを確信しているから」です。けれども、単に買い戻しの繰り返しですので、実際の相場は上げ続け、なんと翌日には、5円上のもともとの水準まで戻し、ショート筋の損切りが集中しました。

この例でも、お分かりになると思いますが、「売るしかない」とマーケットが確信したとき、相場は柔軟性を失い、一方向にしか考えられなくなってしまいがちです。

そして、さらに、そう思う人が、より良いレートでポジションを作りたいと待ち構えていることによって、偏ったポジションは増えこそすれ、減らないために逆行はさらに進むということになります。このように、「さあやるぞ!」も怖いですが、「確信する」ことも、相場では大変危険です。

つまり、両者に言えることは、決め打ちすることによって、思考を一方向に固定化してしまうこと、言い換えれば、柔軟性を失うことは、トレーディングでは非常に危険なことだということです。

さらに申し上げれば、「確信すること」は、決してまれなことではなく、日々、その局面がありますので、柔軟な姿勢も、常に持ち合わせることが必要です。

水上紀行(みずかみ のりゆき)

バーニャ マーケット フォーカスト代表。1978年三和銀行(現、三菱東京UFJ銀行)入行。1983年よりロンドン、東京、ニューヨークで為替ディーラーとして活躍。 東京外国為替市場で「三和の水上」の名を轟かす。1995年より在日外銀において為替ディーラー及び外国為替部長として要職を経て、現在、外国為替ストラテジストとして広く活躍中。長年の経験と知識に基づく精度の高い相場予測には定評がある。なお、長年FXに携わって得た経験と知識をもとにした初の著書『ガッツリ稼いで図太く生き残る! FX』が2016年1月21日に発売された。詳しくはこちら