相場の世界に入って、35年になります。

上がった、下がったの相場の中で揉まれながら、なんで今上がるのか、下がるのか、なんでこんな急上昇になるのか、急落になるのか、常に疑問との戦いでした。

もちろんファンダメンタルズ的に、アメリカの経済指標が良ければドル買い、米株が売られればドル売り、それはわかります。しかし、有事のドル買いだったはずがいつの間にかリスク回避の円買いになるなど、なんでこうまで考え方が変わるのかと思うようなこともありました。

  • 相場の本質を考える(画像はイメージ)

リスク回避の円買い論法が植え付けられた理由

皆さん、なぜ最近のマーケットがリスク回避の円買いとなっているのか、そのきっかけをご存知ですか?

それは、2008年9月のリーマンショックに端を発しています。

米大手証券リーマンショックの破綻により米株は急落し、他の米大手証券も大きな損失を抱えることになりました。その損失を穴埋めするために注目されたのが、当時大きな金利差によって儲かっていた金利差狙いの円キャリートレードでした。

これは皆さんもご存知の通り、英ポンドや豪ドル、NZドルなど高金利通貨を買って低金利の円を売って金利差を狙うもので、当時、高金利通貨が本当に高金利だったためかなりの利益が出ていました。

それを米系証券の巨大な株式の損失の穴埋めに使おうとしたため、円キャリートレードは激しい売り浴びせに遭い、大急落となりました。ポンド円が約95円、豪ドル円が約45円、NZ円が約30円の下落という有様でした。

このことによってマーケットに植え付けられたのは、リスクが発生したら円を買うのがリスクヘッジという論法でした。

最近でもこの論法は生きていて、たまにつじつまが合わないようなことでも円買いに強引に持ち込むことがあります。例えば北朝鮮がミサイルを発射し日本近海に着弾しても、リスク回避の円買いという笑えない冗談が起きています。

皆が同じポジションを張ると相場は反転する

マーケットは、ある時は多数決で、「そういうもんだ」という強引さがある一方、多数決だからこそダメだという方が実は主流です。つまり、皆が同じことを考え同じようなポジションを張ると、相場は反転してしまうということです。

これは日常茶飯事で起きていることで、それからわかることは、ある考え方に同調するマーケット参加者が多ければ多いほど、相場は逆に向かい、しかも、同調する参加者は、逆へ向かえば向かうほどさらに増えます。

そして、アゲンスト(不利)のポジションがパンパンになると、実にたわいもないことで、膨らんだ風船はパンクし、たまったポジションは一掃され、身軽なマーケットに戻っていきます。

もちろん、そのポジションの一掃を加速させようとする、一部ハイエナ的な存在もマーケットにはいますが、そうした参加者はあくまでも相場に弾みをつける存在であって、基本的には、遅かれ早かれ自浄作用が働くようなマーケットだったということだと思います。

基本的に、こうした考え方の一方向への偏り、そして自浄作用の働きは、投機の相場では、至極当たり前に日々行われていることで、この根本を理解していないままで、マーケットに対しても本質は見えないまま、犠牲者の一人になるだけです。

相場が大きく躍動する本質は、フロー(資金の流れ)にあると考えています。それは、短期的な取引が中心の投機筋では生み出せないものだと思います。

もちろん、投機筋にも、ある意味柔道に似た、相手の力を利用して相手を倒すということはありますが、これは卓抜したテクニックと観察力がないとできないことだと考えています。それよりも、投資家の資金移動がフローを作っていくものだと思います。

良い意味では投資妙味がある方向への資金移動、しかしより現実的に頻繁に起きることはリスクからの逃避です。これによって、相場は大きな躍動感をもって、大幅に上昇あるいは下落の波を作っていき、そこに相場の本質があるのではないかと考えています。

※画像は本文とは関係ありません。

水上紀行(みずかみ のりゆき)

バーニャ マーケット フォーカスト代表。1978年三和銀行(現、三菱東京UFJ銀行)入行。1983年よりロンドン、東京、ニューヨークで為替ディーラーとして活躍。 東京外国為替市場で「三和の水上」の名を轟かす。1995年より在日外銀において為替ディーラー及び外国為替部長として要職を経て、現在、外国為替ストラテジストとして広く活躍中。長年の経験と知識に基づく精度の高い相場予測には定評がある。なお、長年FXに携わって得た経験と知識をもとにした初の著書『ガッツリ稼いで図太く生き残る! FX』が2016年1月21日に発売された。詳しくはこちら