ユーロ円は、すぐではもちろんありませんが、今後、110円近辺まで下落する可能性があると見ています。

クロス円の基本とは?

お話を進める前に、クロス円の基本を、確認しておきます。

クロス円とは、今回のユーロ/円のように、ドルを介在していない取引をいいます。

しかし、クロス円として成り立つためには、ユーロ/円でいえば、ドル/円とユーロ/ドルを掛け合わせることによってできているため、クロス円の中では、流動性が高いとされるユーロ/円にしても、多少相場が荒れると、プライスのスプレッドがすぐさま広がったり、あるいは流動性が低下してしまうということが起こります。

それは、ユーロ/円にしても、ストレートにユーロ/円として取引するマーケットは小さく、大概の場合、対ドルに分解、つまり、ドル/円とユーロ/ドルに分解し、それぞれにカバー(手当)しなくてはならないため、値が飛んだり、十分な流動性を確保できず、リスクが高いと言えます。

こうしたことは、特にリーマンショックの時のような大相場になるとさらに避けようもなかったことを鮮明に思っています。

ユーロ/円、110円近辺まで下落する可能性が高い理由は!?

さて、そういったリスクの高いクロス円の中では、比較的に流動性があるとされるユーロ/円ですが、それでも現状の130円近辺から110円近辺まで下落の可能性が高いと見ている理由は以下のように、思っているからです。

(ユーロ/円 月足)

それは、ユーロ/円を構成するドル/円とユーロ/ドルそれぞれが、下落する可能性が高いと見ているためです。

ドル/円については、確かに現在はドルの122円~124円近辺の高値圏にいます。

(ドル/円 月足)

ドル/円は、2012年2月から上昇を始め、今年の6月に高値をつけるまで50円弱の急上昇を見ています。

その原因は、2011年3月の東日本大震災によります。

大震災による原発事故のため、国内のすべての原発がストップし、その代替エネルギーとして液化天然ガス(LNG)の大量輸入が始まりました。

これにより、過去45年間続いた貿易収支の黒字は赤字に転落しました。

貿易収支が赤字になるということは、輸入が輸出を上回ることを意味し、製品や原材料の輸入の代金をドルで支払うために銀行からドルを買う額が増えます。

つまり、輸入が増えてドル買いが増えたことにより、既に申し上げましたように、3年4カ月で50円弱にも及ぶ強力な円安となりました。

しかし、相場を形作る要素は、どんどん変わるもので、昨年2014年7月から、今度は原油価格が大幅に下落し、これによって、昨年から現在まで、貿易赤字は劇的に減少し、あれだけ円安にもっていったドル買いのエネルギーは大幅に弱まり、ドルの下支えはなくなっています。

それでも、ドル/円が高値を維持しているのは、3年4カ月という短期間で50円弱も急上昇したために、上昇のモメンタム(勢い)がまだ残っているためで、ある程度の期間、高値圏を形成しないと、たとえて言えば「巨大タンカーは曲がるにしても、曲がり切るには時間がかかる」ということが現在起きているのだと思います。

ただし、もう上げを後押ししてくれるほどの貿易赤字がない以上、これからのどこかのタイミングで、110円に向けて反落を見ることになると思われます。

一方、ユーロ/ドルは、テクニカル的に見ても、昨年の5月からの下落が、今年3月にいったん安値をつけて、その後踊り場を作りましたが、今月に入り下落を再開してきています。

(ユーロ/ドル 月足)

このままでいけば、1.0500前後のサポートをしっかりと割り込むと、1.0000(パリティー、等価)は決して遠くはありません。

また、ご存知のように、パリでの同時テロや、トルコによるロシアの爆撃機撃墜、また難民問題など、いろいろなリスクが発生してきている中、政府系ファンド、ペンションファンド(年金の運用機関)、中央銀行などの、いわゆる投資家が、ユーロ圏でのリスクから資金を逃避させようとする動きがでても、全くおかしくはないと思われます。

ただし、こうした投資家は、基本的にお堅いため、検討に時間を要しますが、いったん決めるとその後は怒涛の資金移動になるものと思われます。

しかも、世界第2位の規模を誇るユーロからの大量資金移動を受け止められるのは、世界第1位の通貨ドルだけですので、ユーロからドルへの資金移動、つまりユーロ/ドルの売りが大量に今後発生する可能性が高いと思われます。

このように、ドル/円110円×ユーロ/ドル1.0000=ユーロ/円110円となり、ユーロ/円がドル/円とユーロ/ドルの掛け算によってなりたっている、いわゆる掛け算通貨のため、動きは大きく、決して無理なく、110円を達成する可能性は高いと言えます。

また、言えることが、特にユーロ/ドルは、1.0000が最終ゴールではないと思われ、さらに0.9000方向へ向かう可能性は高く、したがって、ユーロ/円も100円方向を目指す可能性は十分にあり得るものと見ています。

執筆者プロフィール : 水上 紀行(みずかみ のりゆき)

バーニャ マーケット フォーカスト代表。1978年三和銀行(現、三菱東京UFJ銀行)入行。1983年よりロンドン、東京、ニューヨークで為替ディーラーとして活躍。 東京外国為替市場で「三和の水上」の名を轟かす。1995年より在日外銀に於いて為替ディーラー及び外国為替部長として要職を経て、現在、外国為替ストラテジストとして広く活躍中。長年の経験と知識に基づく精度の高い相場予測には定評がある。