この夏頃から、膠着相場が続いていました。
その大きな理由は、各国の金融政策というテーマが、1年以上にも及んでしまい、マーケット用語で言えば、「ステールな」(使い古された)テーマに固執してしまったことで、マーケットの見方が一方に偏ってしまい、相場が思うように動かなくなってしまったためです。
相場にも新陳代謝があり、テーマも入れ替わってこそ、活気を失わないでいられるものです。
今回の場合、ドル中心相場が続いたことが、相場を膠着させてしまったものと思われます。
そうした状況下、今回のフランス同時テロでの犠牲者の方々にお悔やみと、また怪我をなされた方々にはお見舞いを心から申し上げますが、ある意味、マーケットは新しいテーマを得て、リスク回避のドル高円高相場へと移ろうとしているように思われます。
リスク回避のドル高円高の起源は、2008年9月のリーマン・ショック
リスク回避のドル高円高の起源は、2008年9月のリーマン・ショックにあります
リーマン・ショックの発生により、米国株式が急落し、米系証券が大幅な損失を被ることになりました。
その際、米系証券は、損失を穴埋めするために、当時盛んに行われ、しかも利益が大きく出ていた、「円キャリートレード」を売ることにしました。
円キャリートレードについて、もう少し詳しく解説しますと、高金利通貨を買い、円のような低金利の通貨を売って作るポジションで、この2通貨の金利差で稼ぐトレードです。
リーマン・ショックが発生するまでは、各国通貨の金利は結構高く、低金利の円で調達し高金利通貨で運用すると、かなりの儲けがでました。
しかし、リーマン・ショックの発生により株で損失が出ると、その穴埋めのために、この円キャリートレードのたたき売りとなりました。
いわゆる、「(利益と損失の)合わせ切り」をしたということです。
では、実際に、為替市場で何が起きたかを、たとえば、AUD/JPY(豪ドル/円)を例にとってお話しますと、実は、AUD/JPYなどドルを介在しない通貨ペアをクロス円といいますが、このクロス円のマーケットは実際にはありません。
したがって、AUD/USD(豪ドル/米ドル)とドル/円に分解して、それぞれ、マーケットで売ることになります。
ドル/円は、主要通貨ですので、荒れているといっても、マーケットで売ることが出来ます。
しかし、AUD/USDのマーケットの流動性(交換のしやすさ)は極めて低く、売りたくても売れないままに、急落していきました。
結果的に、AUD/JPYは、3カ月で45円下落しました。
ただし、リスクを回避するためには、このAUD/USDの売り(ドル高)、ドル/円の売り(円高)を合わせてやらなくてはなりませんでした。
それ以来、このドル高円高がリスク回避の場合のトレーディングパターンとなりました。
パリでの同時テロ、週明けの月曜はリスク回避のドル高円高で開始
そして、今回、週末に起きたパリでの同時テロの場合も、週明けの月曜は、まさに、リスク回避のドル高円高で始まっています。
もっとわかりやすく申し上げれば、EUR/USDの売り(ドル高)、ドル/円の売り(円高)、結果として、EUR/JPYの下落(円高)となっています。
事件が事件だけに、もっと、シドニータイムのドル高円高が進行するのではないかと見ていましたが、現在は、当事国フランスとユーロ圏待ちだと思います。
尚、今回の事件は、日本時間14日早朝に起きましたが、それから、今日月曜のシドニーオープンまで、ポジションを新規に持つことも、あるいは損切りすることも、なにも出来ず、つくづくと、週末リスクの怖さを感じました。
ほぼ、2日間にわたり、毎週、週末リスクはあります。
しかし、毎週来る週末だけに、ともすると、週末に対して鈍感になり、それほど意識してもっているわけでもないポジションを持ったまま越週することは、結構あります。
今回のパリ同時テロでは、幸いにも、それ程大きな週末を挟んだ変動はありませんでしたが、くれぐれもこの週末リスクには、警戒が必要です。
尚、オーバーウィークエンド(週越え)のポジションを持ってはダメと言っているわけではありません。
ただ、週越えでポジションを持つのなら、週末リスクがあることも十分覚悟の上で持つことをお勧めします。
執筆者プロフィール : 水上 紀行(みずかみ のりゆき)
バーニャ マーケット フォーカスト代表。1978年三和銀行(現、三菱東京UFJ銀行)入行。1983年よりロンドン、東京、ニューヨークで為替ディーラーとして活躍。 東京外国為替市場で「三和の水上」の名を轟かす。1995年より在日外銀に於いて為替ディーラー及び外国為替部長として要職を経て、現在、外国為替ストラテジストとして広く活躍中。長年の経験と知識に基づく精度の高い相場予測には定評がある。