間取りで違う二世帯住宅の資産価値 - 特殊形態の二世帯住宅こそ資産価値への配慮が重要
二世帯住宅が注目を浴びている時期を社会背景と照らし合わせると興味深いものがあります。高度成長期には土地の価格が高騰し、もはや戸建住宅を新規に手に入れるのは難しくなりました。そこで親の土地が魅力的に写ります。親も子供が一緒に暮らしてくれれば安心だという、双方の思惑が一致し、この時期は二世帯住宅が頻繁に話題になりました。
しかし、親世代と子供世帯では二世帯住宅に期待するものが大きく異なっています。この違いに気付かぬふりをして二世帯住宅を進めてしまうと、後で大きな問題にもなりかねません。東日本大震災後は「絆」の大切さを実感し、再び二世帯住宅が注目されました。しかし二世帯住宅といっても様々なスタイルがあります。世代が変わったり、状況が変化したりしても対応できる資産価値の高い二世帯住宅とはどのようなものでしょうか。
別棟タイプ
厳密には2世帯住宅ではありません。基本的に一つの敷地には一つの建物しか建てられませんので、それぞれの敷地と建物が建築基準法に適合するように敷地を分割しなければなりません。「分割」とは建築基準法上の区切りであり、所有の範囲を示す「分筆」とは無関係です。資産価値を高めるには、それぞれの敷地の形や面積が売買しやすい=市場価値が高い=資産価値が高くなるように考える必要があります。
同居タイプ
住まいの1室を老人室にしたり、設備を共有したりと形は様々です。玄関も設備も全て個々に備えられていても内部で行き来できれば同居タイプとなります。世代が変わったり、すまなくなったりした場合、活用が難しいパターンです。
区分所有タイプ
1つの建物を区分所有する場合、それぞれの住戸を防火性能の高い界壁又は界床で区切らなければならず、界壁および界床には行き来する開口部を設けることはできません。片方を貸したり売却したりが可能で、応用範囲は高くなり、資産価値も高まります。下図のように人数の少ない世帯の住まいを小さくしておくと貸しやすくなります。ただし相続時に「小規模宅地等の特例」の適用を受ける場合は区分所有の登記をしていると、親が全体の敷地を所有していても、適用範囲は親世帯の部分だけになります。建物の構造と性能は界壁・界床仕様として、共有名義にしておくという方法もあります。
(※注:「小規模宅地等の特例」…相続時に被相続人(亡くなった方)が居住していた住まいの土地の評価を相続人が一定の条件を満たす場合、敷地面積330平方メートルまでは20%とする規定)
二世帯住宅のトラブル例 - 二世帯住宅は先々の変化への想像力が必要
これからの時代、社会環境の変化もますます大きくなると思います。転職や転勤、海外勤務などもあるでしょう。一方現在の住まいは性能的には100年を優に越えて使い続ける事が可能です。その間に何度も世代交代があるはずです。その間存分に使い続けられたり、有利に売却できたりする事が二世帯住宅の資産価値の決め手です。
父親又は親世帯が死亡した場合
母親は二世帯住宅に住み続けられるか。同居の子供以外の子供に配分する資産が別にないと、最悪、住まいを売却して分配することになります。
親世帯の住居は誰が相続するのか。同居の子供なのか、その他の子供なのか。住まいの耐用年数の長期化で孫世代になると、いとこ同士で二世帯住宅もありえます。
親世帯が高齢者住宅に転居する場合
親世帯の住まいを売却しなくても入居資金は調達できるか。
空き家になる親世帯の住まいはどう活用するのか。
離婚に至った場合
夫の実家の敷地に建てた場合は妻の共有名義はどう解消するか。
妻の実家の敷地に建てた場合は夫の住宅ローンを妻や妻の両親が肩代わりできるか。
夫の実家に夫のみの資金で二世帯住宅を建てた場合は、離婚による影響は少ないですが、二世帯住宅は妻の実家に建てるケースが圧倒的に多いのです。妻が専業主婦でローン返済能力がなく、両親も二世帯住宅建設で住宅ローンを借り入れている場合は、夫は住まなくなった住まいのローンを払い続けることになります。自分の住まいの確保も必要ですので、二世帯住宅を売却といった事態にならないとも限りません。
転勤・転職で長期間住まなくなった場合
空き家となる住まいをどう活用するか。
ローンは払い続けられるか。
<著者プロフィール>
佐藤 章子
一級建築士・ファイナンシャルプランナー(CFP(R)・一級FP技能士)。建設会社や住宅メーカーで設計・商品開発・不動産活用などに従事。2001年に住まいと暮らしのコンサルタント事務所を開業。技術面・経済面双方から住まいづくりをアドバイス。