いろいろな夫婦の財産管理のあり方 - 愛があるからこそきちんと配分

日本では資産は全て個人に帰します。共同の財産は基本的に存在しないのです。結婚してからの日常生活に使用する家電製品などは夫婦の共有の持ち物と言えるかもしれませんが、結婚前のそれぞれの持ち物は「これは自分が持ち込んだもの」という意識はあるでしょう。夫婦の共有の貯金通帳も存在しません。住まいなどの分割不可能な資産は共有名義が可能ですが、それぞれの持分を明示しなければなりません。それぞれの家庭で、どのように夫婦間の資産の配分をしているでしょうか。この配分の方法次第では、後々大きな問題の種となりかねません。

財産管理の面を見ても様々な夫婦のあり方があります。一般的に専業主婦の場合、家計管理は妻が一手に引き受け、夫は小遣いをもらうのが一般的でした。今の若い方は少し違うかもしれません。毎月一定の家計費を妻に渡し、その範囲でやり繰りさせ、財産管理は夫が行うケースは銀行マンに多いようです。私の身近な建築関係の場合は夫婦別会計が他の分野よりは比較的多いと思います。

しかし以前は妻の財産意識は薄く、自営業などの場合、夫婦で働いても財産は夫に集中させるケースもありました。夫が亡くなって、遺産を相続する際に、妻は「もともと財産の半分は自分の働きによるものであり、本来は自分の財産である。従って、遺産は実質現在の1/2であり、その1/2、つまり全体の3/4を妻が相続すべき」と主張して子供たちの一部と裁判になったケースがあります。

しかし、相続発生時点でそのような主張をしても遅いのです。日々、毎年きちんと働きに応じて財産を振り分けていかなければならなかったのです。夫婦間での日々のそのようなやり取りは面倒だとは思いますが、後々裁判になる方がもっと大変です。

厚生労働省の「2014年人口動態統計」によると、人口1,000人あたりの婚姻率は5.2で、離婚率は1.77となっています。実に3組に1組が離婚することになります。夫婦の間で日々財産を配分するのは水臭い気がするかもしれませんが、家計費の残りを貯金するときに、誰の通帳にどれだけ貯金するかは、その都度考えているはずです。相手の働きに敬意を表して、ありのままにその都度配分するのが本来の姿ではないでしょうか。

共働き夫婦の預貯金配分 - 家事を分担しないと資産は形成できない?

共働きの夫婦の中で家事をキッチリ半分は担当しているという男性はどれ程いるでしょうか。後片付けのお皿をちょっとだけ洗っただけで家事を半分担当している気になっている男性も少なくないように思います。収入の男女格差は今なお解消されているとは言えませんが、男女雇用機会均等法により、双方正社員で働く夫婦の収入は相当な金額になります。基本的にはどちらかだけの収入で生活は充分可能ですので、貯蓄も毎年相当可能なはずです。こうした夫婦の貯蓄配分はどうすれば公平でしょうか。

「給与額に比例?」、「生活に必要な共通費用を平等に拠出した残りを各自の資産に?」などいろいろ考えられますが、ここで大きな問題となるのが家事の分担比率です。小遣いの消費額も影響します。家事に要する時間と労力を考えれば、趣味に呑み代にと贅沢に消費し、家事の分担もなければ、夫の資産は極端に少なくなるはずです。もちろん夫ではなく妻が該当する場合もあるでしょう。共働き夫婦は生活が広がりやすい傾向にあります。しかし家事分担を資産形成に反映させると、また違った展開も見えてくるかもしれません。

家事を分担しないと資産は形成できない?

専業主婦の財産形成 - 起業に先立って妻の財産を確保しリスクを軽減

日本の社会では専業主婦は相当優遇されてきました。卒業とともに結婚し、会社員の夫の収入だけで生活し、夫亡き後に遺族年金を受取って生活するのが、一昔の一般的形態でした。生涯一度も所得税も年金の保険料も支払わず、生涯を終える事が可能なのです。夫が亡くなったら妻は1/2の財産を相続しても、正当な権利として相続税は掛かりません。そうして優遇されている専業主婦ですが、夫の収入から家計費を差し引いた金額の一部でも、妻の預貯金に組み入れると、それは夫から妻への贈与となります。それがさほど問題とならないのは、そこまで細かくチェックできないこと、贈与には年間110万円までの基礎控除があるからです。

離婚率がますます高くなる事が予測されること、日頃からの財産配分について話し合っておく事が大切です。夫婦間でも金銭の譲渡は贈与になります。基礎控除額以上資産配分を受けた場合は、贈与税が課せられます。これからの時代、一つの会社に定年まで勤め続けられるとは限りません。独立して起業するケースも増えるでしょう。うまく行けばよいですが、失敗すると最悪全財産を失うことも考えられます。婚姻期間20年以上の夫婦間の贈与に関しては、2,000万円までは贈与税が掛かりません。生涯1度だけの適用ですが、夫が独立する時は、この制度を利用して妻の資産を独立して確保しておけば、事業不振による財産の全てを失うリスクを軽減できます。

自営業の主婦の財産形成 - 自営業の妻は重労働

前述の裁判に至ったケースは、夫婦で田舎から上京し、土地を購入し、事業を起こし、夫婦ともフルタイムで働いてきました。本来の妻の収入とそれに起因する資産は相当なものになるはずです。しかし、その寄与分に応じた分配をその都度行ってこなかった結果、働きに応じた取り分とならなかったのです。それだけでなく、その分夫の資産は膨張し、相続財産に反映されてしまいました。子供にすれば当然、相続財産の法定相続分は受け取りたいと思っての裁判になりました。

(※写真画像は本文とは関係ありません)

<著者プロフィール>

佐藤 章子

一級建築士・ファイナンシャルプランナー(CFP(R)・一級FP技能士)。建設会社や住宅メーカーで設計・商品開発・不動産活用などに従事。2001年に住まいと暮らしのコンサルタント事務所を開業。技術面・経済面双方から住まいづくりをアドバイス。