俗に言うメンタルが強い人、つまりストレスに強い人は、往々にして、自分の力が及ばないものに対して、無駄な努力をしません。反対に、メンタル不調になってしまう人の一定割合に、「そんなとこと頑張っても無駄なのに……」「そんなに気にしても何にもならないのに……」と、産業医面談の時に感じてしまう人たちがいます。
もちろん、物事に対して「どうやればできるか?」を考え頑張ることや、他人への気遣いは大切。しかし、無駄なことをやらないだけでストレスはずいぶん軽減されます。そして、自分の力が及ばないものに対して無駄な努力をするよりも、時には「やめる」「やらない」という選択肢を選ぶことのほうがいい時もあるのです。
ストレスとうまく付き合う方法
例えば人間関係であれば、大半の方は「相手が変わるべき」「相手を変えられる」と思ってイライラしたり、ストレスを感じたりしますが、「他人は変えられない」と切り替えれば気持ちはスーッと楽になります。
また、職場にいる時や在宅勤務中は、ある程度仕事のことで悩むのはしょうがないですが、帰宅後、就業時間後も悩み続けることは自分のためになりません。オフタイムは悩むことを一時中断しても、やましく思うことはありません。これは仕事に限らず、家庭のことで悩みがあるなら、外出中はそのことを忘れてしまってもいいのです。
不安やストレスに上手に対処している人は、やりたいことを決める前に、やらないこと(自分にとって無駄なこと)を捨てる習慣を身に付けています。彼らは、うまく不安に対処するためには、やりたいことを選ぶ(決める)ことも大切だが、もっと大切なのは、やりたくないことを捨てること。その結果、日頃から、自分にとって何の優先順位が高いのかを分かっています。
これを、不安やストレスに強い人が持っている「捨てる習慣」ないし、「選ぶ、優先順位をつける習慣」と私は呼んでいます。
ネガティブな感情を減らすよりも、ポジティブな感情を増やす
メンタルストレスのよくある原因として不安が知られています。しかし、そもそも不安とは、「未来」に「恐怖」する感情で「漠然」としたものと言えます。不安は基本的に「未来」のものであって、人間は、過去に対しては不安を感じません。過去に何かやってしまって、その結果として、未来に不安を感じることはありますが、過去の出来事そのものには不安を覚えないのです(過去に感じるのは後悔)。
不安に思っていることが現実に起こるのは、今日や明日では問題かもしれません。しかし、産業医として面談し、確認できたほとんどのケースでは、起こるとしても1ケ月以上先のことが大多数。人によっては1年以上先や、いつ起こるかも未定のことに怯えている場合もありました。そんな先のことで、「今」の気持ちが不安定になってしまうなんて、もったいなくありませんか。
このような人が「不安というストレス」にうまく対処するには、まずは「不安内容は実際にはまだ起こっていない未来」であることを認識する必要があります。そのうえで不安を生じさせている根本的原因、つまり自分の心の状態を改善することが大切です。
より良い場所へ転職できたのに、新天地でクビになる不安で眠れず、日中業務もままならなくなってしまった人。20代から老後資金の心配をして、休日は常に自宅で節約する人。産業医面談でこのような人たちから感じたのは、過度な不安でした。
不安をよく口に出している人は、物事のマイナス面ばかりに焦点を当ててしまい、常にそのことに意識が向いている状態にあると言えます。そのため、いつまでたっても、ストレスが続き、何重にも重なってしまうのです。
不安な気持ちは誰もが持つ
不安な気持ち、心のマイナス要素となる物事は、誰もが抱えています。そのことに対して、「対処できること」と「対処できないこと」があることを認識し、後者については、考えてもプラスにはならないと気持ちを切り替えなければ、ストレスに押しつぶされてしまうでしょう。
上手に不安というストレスに対処している人は、たいてい心の負荷に対して優先順位を付け、視点を変える習慣を持っています。対処できないことは優先順位を後にして、気にすることなく、むしろ心のプラスとなる要素や誇らしく思っていることなどに目を向けているのです。それだけで心の持ち方は大きく変わってきます。
不安な気持ちに四六時中支配される必要はありません。ぜひ、時にはうれしいことや充実していることなど、ポジティブな感情に目を向けてください。
不安という感情はどんなに改善できたとしても、マイナスがゼロにしかならず、自分の幸せにはつながりません。不平や不満も同様に、なくなったからといって、あなたを幸せにするとは限らないのです。だからこそ、ポジティブな感情にフォーカスすることが有効になってきます。
ポジティブな感情にフォーカスするために、やらないことを、まずは捨ててしまうことから始める。まずは「ネガティブな感情は減らさなければならない」という考え方を捨て、ポジティブな感情を増やす――。
自分の人生の中での優先順位を意識し、自分で判断して、まずは「捨てる」ことから始めましょう。家族、友人、職場の方の不安対処やストレスケアも、まずはそうした観点で考えるとよいでしょう。ネガティブを減らしたとしても、ポジティブな感情を増やさなければ、決して幸せにはなれないのですから。