引退した安室奈美恵さんの育ての親にあたる人が、売れたあとのタレントの男女差について話しているのをテレビで見たことがあります。売れると、男性タレントはひたすら調子にのりますが、女性タレントは「今はいいけど、売れなくなったら、どうしよう」と、かえって不安になってしまうのだとか。そうなると、結婚したいと言い出したりするそう。なので、男性タレントには車とか家のように目に見えるご褒美をあたえ、女性タレントには付き人を増やして一人にしないようにし、メンタルのケアに力を入れていると言っていました。そう言えば、 松田聖子さんの育ての親である所属事務所の社長も、特にその必要はなくても、必ず聖子の仕事場に足を運ぶようにしていたと言っていました。
味方がいなかった全盛期のブリトニー・スピアーズ
大勢の人に愛されるということは、自分を商品としての型にうめこむ必要もありますし、時に見ず知らずの人に嫌われることも引き受けなければなりません。いい時だけ寄ってくる人もいるでしょうし、結果がでなければあれがダメだった、これがダメだったとしたり顔で言う人だっているでしょう。
‘90年代から2000年代初頭に全盛を極めたアメリカ人のシンガーソングライターと言えば、ブリトニー・スピアーズですが、最近では音楽そのものではなく、精神的な不安定さが話題になることが多いように感じます。彼女は10代の頃から、処女であるかどうかをとりざたされ、本人は真実をはっきり答えてもいいと思っていたそうですが、周りのオトナは彼女のことを処女だとPRしていたのだそう。おそらく今の時代であれば、処女なのかどうかを質問したらSNSがだまっていないでしょうが、当時はブリトニーの味方はいなかったのではないでしょうか。今のメンタル不調も、ショービジネス界で食い物にされたことが遠因となっているのかもしれません。
テイラー・スウィフトに貼られた「恋愛ベタなオンナ」というレッテル
しかし、今はそんな時代ではない。世界的にフェミニズムが高まる時代のスター、テイラー・スウィフト。「本人自らの発言だからこそ見える真実 テイラー・スウィフトの生声」(文響社)は、彼女の発言集です。「人より優位に立つために、年齢を武器にするなんて絶対にイヤ」、彼女が恋愛に関する歌を作ることから「たくさんの人が面と向かって聞いてくる。君、まだ16歳でしょ? いったい何人の男の子とつきあってきたの?ってね」「自分の体についた脂肪を一グラムでも憎んだ時期もあったけど、もう気にするのはやめた。(中略)わたしも毎日、自分の体を受け入れようと努力している」など、年齢(若いほうがいい)、男性経験、体重と、女性のスターならではの好奇の視線に悩んだことを明かしています。
今、彼女が一番悩んでいるのは、「相手を束縛してフラれる恋愛ベタなオンナ」というレッテルではないでしょうか。彼女は2013年3月15日号の「ヴァニティ・フェア」誌のインタビューにこんなふうに答えています。
「どうやら、わたしって恋をするたびに相手の近所に家を買う女だって思われてるみたい。すごいでしょ、家よ? だれかを好きになったら、近くの不動産を買収するってわけね。ドン引きされてフラれるのがオチじゃない。常識的に考えてみて、誰がそんなことするのよ」
思わず笑ってしまったのですが、私は書いた人の気持もわからないではない。あれだけの大スターが恋をするとヤバくなるという話はそれだけで大衆の興味をひくものですし、一部の女性は「私と一緒!」と親近感を得るものなのです。だからといって、ウソを書いてはいけませんが、テイラーが自分の経験をベースに歌を作ることも影響しているのだと思います。作品を全部「本当のこと」を思ってしまう人にとっては、本人だってベラベラしゃべっているんだから、こっちも書いていいんだと思いこんでしまっているのではないでしょうか。
「意識を改めないかぎり、自らの手で社会的な立場をどんどん弱くしていくだけ」
今はブリトニーの時と違って、SNSが発達していますから、有名人にはやりにくい時代と言えるのかもしれません。あまりまじめに向き合うとメンタルをやられてしまうと思いますが、テイラーは大丈夫そう。なぜなら、こんな発言をしているからです。
「雑誌をめくれば、『ジェニファー・ロペスとビヨンセ、よりホットなママはどっち?』なんて書かれている。でも『マット・ディモンとベン・アフレック、よりホットなパパは?』なんて記事はない。そんな記事は絶対に書かれない。女性は常にだれかと比べられて勝ち負けを競うのが当然だという意識を改めないかぎり、自らの手で社会的な立場をどんどん弱くしていくだけなのに」
つまり、比較そのものが男女差別であり、そこに参加することに何の意味もないことを彼女は知っているのです。
私は時折若い女性むけの雑誌の取材を受けますが、時代が変わっていることをひしひしと感じます。長いこと、女性誌では「愛される女性」という言葉で埋め尽くされていましたが、もうそんな言葉を見ることはない。日本の景気が低迷し、女性を養っていけるような稼ぎのある男性が少ないからかもしれませんし、愛し合って結婚したとて、夫がモラハラするようになったり、不倫をしたりと「愛される妻」に限界があることを知ってしまったからかもしれない。いずれにしても、女性たちは自分を愛し、その愛でもって社会を変えたほうが早いと気づいたのでしょう。これからは、テイラー・スウィフトのような「愛する女性」の時代なのではないかと思います。