ドラマ『セックス・アンド・ザ・シティ(SATC)』。このドラマを最初に見たのは2000年代初頭だと思いますが、かなり衝撃を受けた記憶があります。なぜなら、女性の登場人物が恋愛関係にある男性とくっつかないというエンディングを初めて見たからなのでした。
女のハッピーエンドの概念を変えたドラマ『セックス・アンド・ザ・シティ』
ドラマを見ているとわかりますが、登場人物4人は血のつながった家族と、それほどしっくりいっていない。そんな4人が大都会ニューヨークで出会い、まるで家族のように支え合っていく。通常、メンバーの一人が結婚すると、環境の変化から会う回数が減ってしまったり、話が合わなくなってしまうこともありますが、この作品においては、結婚しようが子どもがいようが、土曜は4人で集まってブランチする習慣を変えることはない。家庭は大丈夫か、みんな疲れはとれたのか、というか、そもそも、みんなあまり働いてなさそうだけど高そうな服着てんなと思ったのは、私だけではありますまい。
日本はこの後、空前の“毒母”ブームが訪れて「家族だからといって、分かり合えるわけではない、どうしても話が通じないのなら、距離を置いていい」という考えが広がっていきます。
モラハラ・セクハラの根っこにある社会の不均衡に気づくきっかけにも
朝ドラ『花子とアン』では、恋愛ドラマの女王として名を馳せてきた脚本家・中園ミホ先生が、主人公が子どもを亡くして打ちひしがれた女友達のもとにいの一番で駆けつけるなど、一貫して「女性の友情はいいものだ」と描きます。この後、男性による女性へのモラハラやセクハラが注目されることになり、その根っこにあるのは男尊女卑、女性差別であると気づいた人も多いのではないでしょうか。男性がこの世の支配層になっており、入社試験や昇給など、彼らのご機嫌を損ねないためにはセクハラされても仕方ない、専業主婦で収入がないのでモラハラされても文句が言えない。女性の出世する道が閉ざされているため、高収入のオトコと結婚するのが勝ち、オンナ同士が戦うという構造が生まれていることに気付いてしまうのです。
こうなると、いつ現れるかもわからない、もし出会えたとしてもモラハラ夫になるかもしれない王子さまの到来を待つより、自分で稼げるようになるほうが大事と多くの人が考えるようになるでしょう。友情を起点に、男性を万能の王子様のように過大評価していないか、自分にとっての本当の幸せとはなど、いろいろ考えさせるきっかけをくれたSATCは、時代の潮目を変えた作品だと思います。
皮肉にも、ドラマでぶっちぎりで女の友情を支えていたサマンサ役のキムが…
しかし、女性の友情を描いたSATCの出演者が、舞台裏で揉めており、共演拒否。なんとも皮肉なニュースが飛び込んできました。作品中でサマンサを演じたキム・キャトラルとキャリーを演じたサラ・ジェシカ・パーカーが不仲であることが原因だそう。実際、SATCの続編、『And Just Like That…』にキムは出演していません。
残念だなと思う理由が、二つあります。まず、一つめはキムの不在が、作品全体に与える影響について。『And Just Like That...』では、LGBTなど多様性を取り入れていますが、『SATC』時代は大都会で仕事に成功した白人女性が、オトコとくっついたり別れたりし、食事をする場所で下ネタだって話す軽めのお話でした。彼女たちは毎週のように集まり、長い時間を共に過ごしていますが、“鉄の掟”で助け合っているかというとそうも言い切れない。誰か1人に何かピンチがあったとき、率先して飛び込んでいくのは、キム演じるサマンサだけ。あとの2人は「サマンサが言うなら……」という感じで、あまり自発的に動かない。つまり、4人の友情を支えているのは、サマンサなわけです。
友達のピンチに動く人ランキングを作るなら、一位はサマンサ、二位はキャリー、三位がミランダ、そしてぶっちぎりで何もしないのがシャーロットでしょう。友達のために動かない、自分を犠牲にしない人のほうが高収入の男性に守られるというオールドタイプの幸せを手に入れていることは、見逃せない事実だと思いますが、それはさておき、サマンサが抜けることは、従来の寄り添いや助け合いは成立しなくなることを意味すると思います。
二つ目の理由は、仕事とプライベートの線引きがないこと。「ELLE」が2021年8月10日に配信した記事によると、サラとキムの不仲の原因の一つは、ギャラだったそう。2004年に英国のトーク番組「Friday Night with Jonathan Ross」に出演したキムは、ギャラアップの交渉をしたものの、制作側からいい返事はもらえなかったと、“賃上げ”に失敗したことがシリーズ終了の理由であることを明かしています。しかし、シーズン2になると、サラはエグゼクティブプロデューサーになったことを理由にギャラがアップ。キムも再度交渉したことで、サラだけでなく、他の2人との関係も悪くなってしまい、「食事の際に、誰もキムの隣に座ろうとしなくなった」と「テレグラフ」は伝えています。それなら、2人の女優もギャラ交渉をすればいいのでは? と考えてしまうのは私が外部の人間だからで、おそらく、お金の他にもいろいろ細かいことが絡んでいて、それは他人には絶対わからないことでしょう。一つ言えるのは、一度こじれると、どんどん解決は難しくなるということ。
「人のことは変えられない」と語ったシャーロット役、クリスティン・デイヴィス
いろいろあって、もうこの作品は出たくないという決断をする人はいくらでもいるでしょうに、女性の友情を描いた作品に出てしまったため、「不仲だ、やっぱり、オンナの友情なんてないんだ」と言われてしまう。世の中には、オンナの友情をないことにしたい人がいて、どうしてそう思うのかというと、女性は腹黒くて相手を出し抜くというように、女性そのものを裏切りの代名詞として捉えている人がいるからでしょう。そういう人がいることは否定しませんが、信用ならない、裏切者のオトコだっていっぱいいるのになぁと思います。
余計なことでケチをつけられてしまった『And Just Like That…』ですが、シャーロット役のクリスティン・デイヴィスは「テレグラフ」のインタビューで、サマンサ不在について「人のことは変えられない」とコメントしています。本当にそのとおりで、仮に他の女優と何かあったとしても、最終的に出ないと決めたのはキムですから、それを覆すことは誰にもできません。ですから、誰も責められる必要はないのです。「相手のことに首をつっこみすぎない」、クリスティンは個人として、またシャーロットと言う役を通して、「長く続く人間関係のコツ」を伝授してくれた気がします。