薬剤師として30年以上のキャリアを誇るフリードリヒ2世さんが、日常のさまざまなシーンでお世話になっている薬に関する正しい知識を伝える連載「薬を飲む知恵・飲まぬ知恵」。今回はOTC医薬品に関するお話です。
医薬品全体の分類
薬を利用する習慣のある人ならOTC医薬品という言葉を聞いた経験があるでしょう。ニュースのネタになることもあります。どなたにとっても大切なテーマですから、今回は医薬品の分類について整理してみましょう。
医薬品は以下の2つに大別できます。
医療用医薬品……病院・診療所で医師が発行する処方せんに基づき、薬剤師が調剤して受け取ることができる薬のこと。要するに病院・診療所で受診しないと入手できない薬です。「処方薬」とも呼ばれます。
一般用医薬品……薬局・薬店・ドラッグストアなどで自分が選んで(処方箋なしで)買える医薬品。以前は「大衆薬」「市販薬」「家庭用医薬品」「売薬」などと呼ばれていました。最近は、国際的表現の「OTC医薬品」という呼称が使われます。英語の「Over The Counter: オーバー・ザ・カウンター」が語源で、薬剤師などと対面しながら「カウンター越しに」購入できる薬というイメージです。健康状態に合わせ、薬剤師や登録販売者からの適切な情報を受けながら本人の自己責任・自己判断で購入するわけです。
長らく法律上は「医療用医薬品以外の医薬品」として扱われていましたが、2006年の薬事法改正(2009年6月1日施行)により、「医薬品のうち、その効能および効果において人体に対する作用が著しくないものであって、薬剤師その他の医薬関係者から提供された情報に基づく需要者の選択により使用されることが目的とされているもの」と定義されました。ちょっと回りくどいですが法律はそんなものです(笑)
このOTCに関連して、「スイッチOTC」という言葉もあります。これはもともと医療用医薬品として使用されていた医薬品を、有効成分・服用方法・用量が同じのままで市販されている一般用医薬品のことを意味します。医療用医薬品と成分が同じですから、リスクも高くなります。すでにH2ブロッカー(胃酸分泌抑制薬)や消炎鎮痛剤などが販売されています。さらに今後、PPI(プロトンポンプ阻害薬=胃酸分泌抑制剤)などが市場に登場するといわれています。
1類から3類まで分かれる一般用医薬品
さらに一般用医薬品は、リスク(危険度)に応じて3つに区分されています。それぞれに販売時の陳列法や薬剤師など専門家の関わり方、情報提供の仕方が決められています。詳細は以下の通りです。
OTC医薬品(一般用医薬品)の一種であるものの、やや趣が異なるものとして「要指導医薬品」があります。2014年(平成26年)6月12日、「薬事法(当時)ならびに薬剤師法の一部を改正する法律」が施行されたことに伴い、以前に一般用医薬品第1類として販売されていた医薬品のうち、スイッチOTC化してから間がなく、一般用としてのリスクが確定していない品目や劇薬指定の品目については、法律改正に伴って新設された要指導医薬品に分類されました。
要指導医薬品は、医療用医薬品に準じた医薬品といえます。購入者が自由に手に取れる場所には置かれず、薬剤師から対面での指導・文書での情報提供を受けないと購入できません。また、インターネット販売は認められていません。
セルフメディケーションと一般用医薬品
セルフメディケーションという言葉を聞いたことはありますか? 日本語でいうと「自己治療」というところでしょうか。世界保健機関(WHO)ではセルフメディケーションを「自分自身の健康に責任を持ち、軽度な身体の不調は自分で手当すること」と定義しています。
適切にOTC薬を利用するのもその方法の一つです。これにより医療費の増加抑制も期待されています。ただ、OTC医薬品本来の役目は、軽度な症状の治療や予防にあります。症状が改善しない場合や再発を繰り返す場合、悪化する場合は専門医療機関の受診が必要です。
国もセルフメディケーションを推進するために「セルフメディケーション税制(医療費控除の特例)」を創設しました。
その概要は「適切な健康管理の下で医療用医薬品からの代替を進める観点から、健康の維持増進および疾病の予防への取組として一定の取組を行う個人が、平成29年1月1日~平成33年12月31日の間に、自己又は自己と生計を一にする配偶者その他の親族に係る特定成分を含んだOTC医薬品の購入の対価を支払った場合において、その年中に支払った対価額の合計額が1万2,000円を超えるときは、その超える部分の金額(上限は8万8,000円)について、その年分の総所得金額などから控除される」です。
要するに、対象医薬品を年間に上記金額内で購入した際、一定金額が課税所得額から控除されて所得税や個人住民税が減額されるという仕組みです。薬を使う側にとってはありがたい話ですね。この制度を利用している人は多くないと思いますが、医療費を抑制したいという国の狙いが感じられます。
OTC医薬品は適切に使えば便利なものです。そのためには正しい情報を自分で集めて内容を評価する努力が欠かせませんね。
筆者プロフィール: フリードリヒ2世
薬剤師。徳島大学大学院薬学研究科博士後期課程単位取得退学。映画とミステリーを愛す。Facebookアカウントは「Genshint」。主な著書・訳書に『共著 実務文書で学ぶ薬学英語 (医学英語シリーズ)』(アルク)、『監訳 21世紀の薬剤師―エビデンスに基づく薬学(EBP)入門 Phil Wiffen著』(じほう)がある。