頭痛や咳などの症状がつらいときに飲む風邪薬だが……

頭痛や咳などの症状がつらいときに飲む風邪薬だが……

薬剤師として30年以上のキャリアを誇るフリードリヒ2世さんが、日常のさまざまなシーンでお世話になっている薬に関する正しい知識を伝える連載「薬を飲む知恵・飲まぬ知恵」。今回は風邪薬に関するお話です。

風邪の病原体(ウイルス)に抗生物質は無効?

人類がいつごろから風邪を引いていたのかは、よくわかりません。病気のかぜをなぜ「風邪」と書くのかも、分厚い漢和辞典には熟語そのものは掲載されているのですが、そのくわしい語源は不明です。「よこしま(邪)な風」といった意味かもしれませんね。

そもそも風邪とはいったい何でしょうか? 世界的に権威のある医学教科書「ハリソン内科学」による風邪(感冒: common cold ふつうの風邪とも言います)の定義(原著第15版)は「軽度で自然に寛解する上気道のウイルス感染」。シンプルですね。

上気道(じょうきどう)とは呼吸器(空気の通る道)のうち、鼻・鼻腔・鼻咽腔・咽頭・喉頭までのことをいいます。風邪は医学的には「かぜ症候群」ともいいます。先の教科書によるところの症状も、「軽度で自然に寛解する」とあります。放っておいても自然に治るというわけです。放っておいても治らない場合は、風邪ではなくて別の深刻な病気かもしれません。

教科書にもあるように、かぜ症状群の原因となる微生物は80~90%がウイルスだといわれています。主な原因ウイルスはライノウイルスやコロナウイルス、さらにはRSウイルス、パラインフルエンザウイルス、アデノウイルスなどです。まれにウイルス以外の一般細菌、マイコプラズマ、クラミジアなどが関係することもあります。

インフルエンザにある程度有効な抗ウイルス薬はできていますが、かぜ症候群を起こすウイルスに直接効く治療薬はありません。ウイルスではなく、細菌を殺す抗生物質を風邪に使うのは「弾の無駄打ち」になりそうですね。

それなのに日本では、インフルエンザや風邪症候群に対しても安易に抗生物質が処方される状況が続き、抗生物質の使用量は他の国に比べても突出してきたのです。

抗生物質はさまざまな(悪いことを起こす)病原菌だけでなく、体内のビフィズス菌などの体にとって有益な菌も殺してしまいます。そのため、不用意に使いすぎると腸内環境を悪化させ、病気の治癒に必要な免疫力を低下させてしまうといわれています。最近では医師や患者さんの意識も変わりつつあり、「風邪だからとりあえず抗生物質も使う」というケースは以前に比べて減っているようです。

風邪薬の成分について

それにしても薬局や薬店のかぜ薬コーナーには、たくさんのパッケージが積み上げられていますね。これを機にもう一度添付文書をよく見てみましょう。「風邪を治す」とは書いてないでしょう? 「風邪の諸症状を緩和する」と書いてあるはずです。

つまり市販のかぜ薬(総合感冒薬)は、かぜ症候群の諸症状(発熱、のどの痛み、鼻みず、鼻づまり、悪寒、頭痛、関節の痛み、筋肉の痛み、咳、痰、くしゃみなど)を緩和する(楽にする)というわけです。

風邪の原因そのものをなくすのではなく、不愉快な症状を抑えることにより、体力を温存して自然に風邪が治る方向に持っていこうという戦略です。これらの症状を和らげるために使われる薬物成分を大まかに分類してみると、次のようになります。

(1)鎮痛・解熱・抗炎症剤: 熱を下げ、喉・筋肉・関節の痛みを改善する成分

アスピリン、エテンザミド、アセトアミノフェン、イブプロフェン、イソプロピルアンチピリン、メフェナム酸、ロキソプロフェン、塩化リゾチーム、トラネキサム酸など。

アセトアミノフェンは小児に向いているといわれています。比較的安全性が高いからです。ピリンアレルギーや薬剤アレルギーの多い方は「非ピリン系」かぜ薬を選びましょう(あらかじめ薬剤師さんにどの製品が非ピリン系なのか尋ねておきましょう)。

塩化リゾチームは出にくい痰や鼻汁を分解し、炎症を鎮めます。卵アレルギーのある方は塩化リゾチームでアレルギーが出る可能性があります。トラネキサム酸は炎症を抑え、出血を止める効果を持っています。

(2)抗ヒスタミン薬: 鼻水・くしゃみなどを和らげる成分

マレイン酸クロルフェニラミン、ジフンヒドラミン、メチレンジサリチル酸プロメタジン、クレマスチン、メキタジン、マレイン酸カルビノキサミンなど。

風邪薬で眠気や口の渇きが出ることがあるのは、これらの成分のためです。車の運転には注意が必要となります。アルコールとの併用はやめておきましょう。眠気を打ち消すため、一緒にカフェインが配合されていることがあります。