与党の民主党がマニフェストに掲げた、目玉政策のひとつの「高速無料化」が消え去った。東日本大震災からの復興が優先されるべきだからこれは仕方がないことだが、自民党が与党だった時期から引き継がれていた「土日祝日上限1000円」も、ついに2011年6月20日の午前0時で終了。この決定は6月8日に国土交通省道路局から発表されたから、約1週間ちょっとで実施されたことになる。

注目はこのページの2番目の高速道路通行の例。東北自動車道の福島西ICから乗り、ながさき出島道路で出た場合、約1500kmも走って料金はたったの100円。これならボランティア活動や復興支援がさらにしやすくなるはずだ

まず今回実施された、東日本大震災を踏まえた高速道路の料金について簡単におさらいしておこう。土日祝日上限1000円の割引は廃止になったが、新たに導入されたのが「東北地方の高速道路の無料開放」だ。この無料化は被災者支援及と復旧・復興支援のために行われるもので、東北地方の高速道路などがその対象で、発着点が東北なら無料となる。ただしすべてのクルマや利用者が無料になるわけではない。

対象者は被災者や避難者。被災されて首都圏に避難されている方は地元までの往復の高速代だけでも大きな負担になるから、無料化は当然やるべきことだ。この場合、被災者や避難者が運転する軽自動車や普通車はもちろん、被災者や避難者が同乗している全車種が無料化の対象。津波で自家用車が流されてしまった被災者が、ボランティアの運転する自家用車に乗っている場合や、バスに乗り合わせて移動するときに無料になるわけだ。現地のボランティアもまだまだ求められているが、首都圏などの避難場所から地元を往復することを自家用車でサポートするというボランティアも、今後は金銭面の負担が少なくなるからとてもいいことだ。

ただし無料で高速道路を利用するにはルールがあるので、必ず覚えておきたい。ルールを無視すれば当然通行料金が発生してしまうから注意が必要だ。まず料金所の入り口ゲートだがETCを使ってのノンストップ通行では無料化にならない。ETCを装備しているクルマは必ずETCカードを車載器から抜いて、ETCレーンではなく一般レーンに入ることが必要だ。一般レーンでもETCレーンと共用している場合、ETCカードが入ったままだと、自動的ETC走行が優先されてしまう。カードを抜けばこのレーンでもいいが、ノンストップ走行する後続車に追突される危険があるので、一般レーンだけの場所を選ぶ方が無難だ。最近はETC走行に慣れてしまって、昔のようにゲートで通行チケットの取り方を忘れてしまったという人もいるだろうが、無料にするためには一旦停止して通行チケットを必ず受け取る必要がある。

出口ゲートでももちろん一般レーンに入って、収受員にチケットを渡すと同時に、被災者または避難者の無料適用をお願いする。そうすると収受員から「被災証明書または罹災証明書など」と「本人確認ができる公的な証明書」の提示が求められる。罹災証明書などと運転免許証や保険証、パスポートなどを見せると無料となるわけだ。運転免許証や保険証を紛失してしまって手元にない場合は、トラブルを避けるためにも高速道路を利用する前に入手しておく方がいい。また、原発事故による避難者の場合は被災証明や罹災証明は必要ない。運転免許証などで避難区域などの対象地域に住所があることが確認できればいいのだ。この場合もっとも簡単なのはやはり運転免許証だろう。免許に記載されている住所が警戒区域、計画的避難区域、緊急時準備避難区域に当たる人は、この運転免許証などの提示だけで無料になる。

ここまでは被災者や避難者本人が、運転または乗車している場合だが、救援物資などを運ぶボランティアなども中型以上のトラックやバスで通行する場合は無料開放される。この無料開放開始も6月20日の午前0時から適用されている。もちろん現在実施中の災害派遣等従事車両(ボランティア車両を含む)についても、引き続き無料開放されるからボランティアの方は従来と変わらないから心配ない。被災地に乗用車で物資を運ぶ場合でも中型に格上げできる場合がある。それはトレーラーを引っ張るときで、普通車が中型車に1ランクアップして無料になる。例えばジェットスキーなどを積載する小型のトレーラーに物資を積載して、被災地に向かえば中型扱いになるというわけだ。もちろん普通車で引っ張るキャンピングトレーラーでも救援物資を積載して行く場合は、中型になるから無料になる。トレーラーを所有している人はそれほど多くはないだろうが、この機会に物資を運んだりして、ボランティアに参加してみるというのはいかがだろうか。

ところで多くに方がカン違いしているのが、もう土日祝の割引がなくなってしまったと思っていることだ。6月20日からシステムが変わったのは事実だが、従来の割引がすべてなくなってしまったわけではない。今でも土日祝日は最大50%割引になるため、通常料金の半額でまだまだドライブを楽しめる。この割引は大都市近郊区間でも適用されるが、6時~22時に走行する場合には割引率が悪くなり、最大30%の割引となる。これらの割引は新たに導入されたものではなく、上限1000円の前から継続されたものだ。もちろん土日祝日だけではなく、平日昼間割引や平日深夜割引、通勤割引、深夜割引、早朝夜間割引も引き続き適用されるので、これらをうまく使えば通行料金を安くすることができるわけだ。

東北自動車道は白河ICから、常磐自動車道は水戸ICから東北側が無料化の対象だ。ポイントは発着点が無料化区間ならその他の道路も無料になる場合があることだ。首都高速や阪神高速、東京外環自動車道、ネクスコの料金均一区間を通ると、その区間は通常の料金が発生してしまう

関東から西のエリアや九州エリアの方は、東北地方の無料開放は自分とは関係ないと思っている方もいるかもしれない。だが、無料開放のポイントは発着点が対象の東北地方のICなら無料になるということ。例えばボランティアを終えて東北のICから延々と高速道路を走って九州に帰る場合、ルートによっては無料になる方法があるのだ。高速道路会社から走行料金の例が示されているが、東北の東北自動車道・福島西ICから乗って、ながさき出島道路・長崎市新地町で降りた場合、普通車で通常2万9100円かかるところをたったの100円で通行できる。100円が必要なのは、ながさき出島道路が有料区間となるためだが、その手前の出口の長崎自動車道・長崎芒塚(なかさきすすきづか)ICで降りれば無料だ。

ただし注意しなくてはならないのがルートだ。大都市近郊や首都高速を使うルートを走ると無料ではなくなるわけだ。例えば前述の東北から長崎までのルートは、東北自動車道から磐越道に入り、北陸自動車道から名神高速、中国自動車道、山陽自動車道、関門橋、九州自動車道、長崎自動車道を通る。東北自動車道を南下して首都高速に入って東名高速に抜けるというルートでは無料にならないということなのだ。もちろん途中のICで降りてしまうと無料なのはそこまで。このような長距離区間を無料で走るためにはICを降りることができないので、PAやSAで車中泊などをすることも必要だ。今回例に挙げたルートでは名神高速道路・草津PA、山陽自動車道・淡河PA、小谷SA(下り)、佐波川SA(上り)、九州自動車道・吉志PA(下り)にコインシャワーがあるし、関門橋の壇ノ浦PA(下りのみ)にはハイウェイホテルもある。名神高速の多賀SA(下りのみ)にはハイウェイホテルとお風呂もあるから、これらを組み合わせて移動するとロングドライブでも快適だ。

今回例に挙げたルートを使い、燃費のいいプリウスなどのハイブリッドカーに乗り合いして行けば、移動コストは驚くほど安い。例えば先ほど説明したルート東北自動車道・福島西ICから長崎自動車道・長崎芒塚ICまでの走行距離は約1500km。新型プリウスαはミニバンの7人乗りも用意しているからフル乗車の7人で移動したとして計算。フル乗車のためプリウスαの燃費は、20.0km/Lまでしか伸びなかったとして試算するとガソリンを75L使うことになる。1リッター140円で計算するとガソリン代は1万0500円たから乗車人数の7人で割ると1人当たり1500円。たった1500円で東北から長崎まで移動できることになる。7人乗車での移動では荷物をほとんど積めないから、常識的な4人で割っても2625円と激安だ。

なおボランティア活動で利用する場合は、全国の都道府県、市町村の災害対策担当窓口が発行する「災害派遣等従事車両証明書」が必要になる。この証明書は高速道路を利用するたびに必要で、実施期間は今のところ9月10日までとなっている。東日本大震災のボランティア活動では、この新料金システムを大いに活用して東北を支援してもらいたい。