クルマの魅力の1つは、いつでもどこにでもドア・ツー・ドアで移動できることにある。とても身近なパーソナルモビリティだ。体を動かしにくくなるシニアにとって、一番簡単な移動手段がクルマなのだ。だが、警察や役人、一部のメディアはクルマを使った交通社会からシニアドライバーを締め出すことを容認するような動きがある。とても残念なことであると同時に、これはシニア世代の大切な移動手段を奪うことになりかねない。

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レガシィ アイサイト 誤発進制御

レガシィ アイサイト プリクラッシュブレーキ

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レガシィ アイサイト 障害物検知画面

レガシィ アイサイト 追従制御

大都市は公共交通機関が発達しているが、それでもドア・ツー・ドアを実現することはなかなか難しいし、深夜にはタクシーという移動手段しかなくなってしまう。シニアの移動手段としてはやはりクルマが適しているし、そうしたニーズは高齢化社会を迎えた現在、さら重要度が増すことになる。財源に困窮する地方自治体では公共交通機関を広く整備することが不可能だし、クルマに頼らなければ病院やスーパーマーケットにさえ行けない地方もある。命を守ると言っても過言ではない生活の重要なツールがクルマなのだが、シニアドライバー層の交通事故が多いことを理由に運転免許を返納するのが"美徳"とするような風潮もある。

安全にクルマを運行できなくなったシニアドライバーは、現行法でも運転免許の更新時にチェックできるようになっている。例えば認知症の場合は、75歳以上の運転免許更新希望者に義務付けられた講習予備検査によって、認知症かどうかのチェックを行っている。これに引っ掛かった場合は、専門医の診断によって認知症であることがわかったときには免許を取り消すこともできるようになっている。この制度が実施されてから2010年6月で1年が経過したが、実際に認知症と判断されて全国で39人が運転免許を取り消された。交通社会に危険を与えかねないシニアドライバーには、このように一定の網がかけられている。

それにもかかわらずシニアドライバーの運転免許の返納を奨励するような活動が、地方で行われているのは残念でならない。前述のように地方こそクルマでの移動が、生活を支える重要な柱なのに排除するのは疑問だ。

シニアドライバーに対するこうした動きは、運転ミスによる事故をテレビなどが注意喚起のために大きく取り上げることも要因の一つだ。コンビニやスーパーなどに併設されている駐車場でクルマを操作しているときに、アクセルペダルとブレーキペダルを踏み間違えてコンビニやスーパーの店内に突っ込むというものだ。中には歩行中の人を巻き添えにする人身事故もあるから、シニアドライバー以外の人は防衛意識が働いて、シニアドライバーから免許を取り上げることを容認するということになりかねない。

認知症なら免許取り消しもしかたがないが、運転ミスを起こすかもしれないというだけで、交通社会から排除することがいいのかということを高齢化社会の日本は考えるべきだ。

そこで「シニアドライバー購入補助金」の創設を提案したい。エコカーの購入補助金は今年9月末までの予定を待たずに終了したが、このシニアドライバー購入補助金は、エコカー補助金のような景気浮揚策ではなく、シニアドライバーの運転ミスを防ぐクルマの普及を後押しする目的。じつはアクセルペダルとブレーキペダルの踏み間違いによる事故を軽減できるクルマが、すでに市販されているのだ。そうした予防安全装備を付けたクルマに20万円程度の購入補助金を出せば、シニアドライバーが積極的に選んでくれるようになるはずだ。さらにエコカー補助金や現在も続けられているエコカー減税などは、制度が発足した当初は対象車が限られていたが、自動車メーカーは基準に合うように変更を施して対象車が一気に増えたという経緯もある。シニアドライバー購入補助金が導入されれば、自動車メーカーも対象車を増やすことになり、普及が進むはずなのだ。

シニアドライバーにも優しく、ペダルの操作ミスだけではなく、ドライビング時の疲労も軽減してくれるのがスバルのレガシィ アイサイト。テレビCMで女優の石田ゆりこさんが助手席に乗り、障害物に向かってクルマが進み障害物の直前で自動停止する「ぶつからないクルマ」というあれだ。この機能はプリクラッシュブレーキというもので、先行車はもちろん、自転車や歩行者と衝突する恐れがある場合、自動的にブレーキを作動させるというもの。運転者がよそ見などで自転車や歩行者の発見が遅れても、クルマが衝突しないようにブレーキを作動させるという優れたシステム。同じような機能を持ったクルマは他社でも市販しているが、それらの多くは高価なミリ波レーダーやレーザーレーダーなどを使っている。ミリ波レーダーは降雨や降雪時などの悪天候に強いがまだまだ高価で、ミリ波より安価とされるレーザーレーダー式もプリクラッシュセーフティシステムの装着台数が伸びないためコスト高のままなのだ。

スバルのアイサイトはこうした高価なレーダーシステムを使わずに、ステレオカメラを使って高度な安全ディバイスを実現している。ステレオカメラは名前のとおり、2つのカメラの画像から前方の状況をクルマが認知するシステム。人間の目と同じで位置が違うカメラの画像から対象物の認識や距離などがわかる。少し前まではこうしたカメラシステムも高価だったが、デジタルカメラと同様に高精度化が進みながらコストダウンができるようになった。現在販売されているレガシィシリーズには、このカメラシステムを標準装備した"アイサイト"とネーミングされたグレードがあり、装備がほぼ同様のクルマとの価格差を見ると約10万円高。レーダー式の多くは30万円前後の価格が高いことを考えるとかなり安く、その制御範囲もレーダー式を上回る最新の制御も取り入れられている。機能の多彩さを考えるとバーゲンプライスといえるほどだ。他社にもステレオカメラとレーダーを併用したシステムなどがあるが、ステレオカメラを使った予防安全技術としては世界でもトップレベルにあるのがアイサイトだ。

アイサイトの技術は、1999年に登場したレガシィのADAが始まり。ステレオカメラを使った安全システムだったが、当時はカメラの感度と画像処理技術が発達途中だったため話題にはなったが制御としてはまだまだだった。その後もADAはバージョンアップをして、3世代目にはミリ波レーダーと併用したシステムも登場した。スバルのエンジニアは悪天候でも対処できるミリ波を併用したが、当然価格は高くなってしまった。そこで4世代目はステレオカメラで認知・制御する方式に戻し、名前をアイサイト(バージョン1)に変更。これも優れたシステムだったが当時は約20万円高と高価だったため装着率はそれほど高くなかった。

現行レガシィは車格をアップして昨年5月にフルモデルチェンジされたが、今年の5月の改良に合わせてようやく最新のアイサイトを搭載。バージョン2となったアイサイトはかなり進化したシステムになった。注目はシニアドライバーに多いペダルの踏み間違えによる事故の防止。これはバージョン1でも同様の機能があったが、カメラシステムの高精度化と画像処理システムの高度化でより障害物を認知しやすくなっている。例えば金網のフェンスなどは背景が透きとおりやすいので従来だと認知しにくかったが、バージョン2は認識率が向上している。金網のフェンスでも障害物として捉えることができる可能性が高まったのだ。

例えばシニアドライバーがコンビニに駐車するシーンを想像してほしい。コンビニだと店側に車両の頭を向ける前向き駐車が多いため、前向きにクルマを進める。フロントタイヤが輪留めに当たりいつものように駐車したが、クルマ少し横の駐車枠に近かったため入れ直そうとした。自分ではATのセレクターをリバースギヤ(Rレンジ)入れたつもりだが、じつはDレンジのまま。ついうっかりしたわけだがバックするつもりでアクセルペダルを踏んだらクルマは意に反して前に進んだ。あわててブレーキを踏んだがじつはそれはアクセルペダルで、クルマはコンビニのガラスを突き破って停車した。自分が予想していたクルマの動きが意に反していたためビックリし、ペダルの踏み間違いが起こってしまったわけだ。

では、アイサイトだったらどうなのか。前向きに入れるとアイサイトのシステムはコンビニを障害物として認知。輪留めにタイヤが当たってすでに停止しているため、そこからアクセルを目一杯踏み込んでもアイサイトのおかげでエンジンは全開にはならない。少しエンジン回転数は高まるが、アイサイトの制御で輪留めを乗り越えるほどのパワーパ出さない。コンビニという障害物が前にあることをステレオカメラが認識して出力を自動的に絞ってしまうのだ。通常の輪留めの高さを乗り超えないくらいの力しか出さないようにプログラムされている。仮に助走がつき過ぎていて運悪く輪留めを乗り越えてしまっても、直前に障害物があると認知しているからアクセルを踏み込んでもエンジンパワーは小さいため、コンビニのガラスは壊すことになるかもしれないが被害を最小限に抑えられる可能性が高い。

このように素晴らしいシステムがすでに市販車に搭載されているのだ。こうしたクルマをシニアドライバーが購入するときに補助金を出せば、普及が進むことになるはずだ。普及が進めばさらにコストダウンができバージョンアップも考えられる。現在のアイサイトはステレオカメラが前向きに付けられているだけなので、バックするときの事故は防止できない。だが、カメラシステムをリヤ側にも付ければ制御は同じコンピューターを使えるのでコストを抑えられる。実際に開発エンジニアに聞くと量販できるようになればカメラシステムはコストダウンが進むので、リヤ側にカメラを搭載してもそれほど高くはならないという。

与党となった民主党は相変わらず迷走を続けているが、お年寄りがパーソナルモビリティであるクルマをいつまでも安心して乗れるシニアドライバー購入補助金をぜひとも創設してほしい。

アイサイトのシステムはセダンのレガシィB4、ワゴンのツーリング、クロスオーバーカーのアウトバックに約10万円高で設定されている。装着率は高く、発売から9月までのデータでは購入者の54.7%が装着車を選んでいる。なかでもアウトバックは75.9%もの高い装着率だ。ぶつからないクルマに対するニーズは確実に高まっている

ルームミラーの位置に取り付けられているのがステレオカメラ。障害物の認識はもちろん、障害物との距離も画像処理で正確につかむ。雪や霧、大雨など以外であればカメラの認識率は高い

車外からはステレオカメラが付いているのかはあまりわからない。フロントガラスがあまり汚れているとカメラの認識率が低くなってしまう

アイサイトはクルマや建物だけではなく、歩行者も障害物として認知する。システムが認識していればプリクラッシュブレーキや誤発進制御などが行われるわけだ。認識率は高いがドライバーがシステムに依存するのではなく、つねに安全運転を注意をすることが必要

30km/h以下の速度ならドライバーがブレーキ操作をしなくても障害物とは衝突しない可能性が高い。自動ブレーキの前には車内に警報音が鳴りドライバーにブレーキ操作を促すが、それでもブレーキが踏まれない場合は自動的に停止する。30km/h以上で障害物に接近した場合は衝突する可能性が高いが、自動ブレーキによって衝突速度が低くなるため被害を軽減できる