先日、多くのマスコミが「かるがも走法」という言葉を使い、高速道路の利用料金逃れを報じた。概要はこうだ。兵庫県西宮市で運送業の男が道路整備特別措置法違反(不正通行)容疑で逮捕された。前方の大型トラックなどにぴったりと追従して、ETCの制御バーが閉じる前に前方のトラックに続いて料金所を通過する手口。なんと不正通行の回数は約2年間で460回にもなるという。

実はこうした不正通行は氷山の一角で、新政権の高速道路無料化を待たずに"自主的無料通行"している悪いやつがいるのだ。ちなみに報道で使われた"かるがも走法"という言葉は、本来ITSの自動化運転を指すもので、見た目が似ているからといって不正通行に使うのは不適切だ。大型トラックにぴったりと追従することから、"コバンザメ走法"のほうが似合っている。

高速道路の利用料金をまじめに支払っている利用者がいる一方、このように料金を支払わずに通行しているクルマがいるわけだ。ECTを悪用した例などでの逮捕は報道されることが多いが、こうした単純な料金逃れが報道されることが珍しい。事件として扱われないほど、料金を支払わずに通行しているクルマが多いわけだ。

前述の男はETC車載器もETCカードも所有していたようだが、高速道路のETCゲートに入るときはカードを挿入したまま走行。ここまでは通常と同じなため不正はなく、制御バーも問題なく開く。問題はここからだ。男は走行中にETCカードを抜き取り、高速道路をおりる際に大型トラックを追従走行してETCゲートの出口を通過。当然通行料金の収受が行われず不正行為となるわけだ。男は2008年4月ごろから今年1月までに名神高速や阪神高速で不正通行を繰り返していたようで、道路会社の被害総額は約24万円になるようだ。阪神高速のホームページを見ると「阪神高速道路においても不正通行の事実を調査していたところであり、今年度の阪神高速道路における不正通行に係る摘発者は、延べ計8名になりました」と書かれている。ここで疑問に思うのは、今年度(2009年度)でたったの8人しか摘発されていないということだ。まだ年度は2カ月ほどを残すが、ここから大幅に不正通行を摘発できるとは思えない。

料金収受の不公平感は以前から感じていたが、昨年末に報道された"ETCの未払い金額"を聞くと料金をまじめに支払っているのが馬鹿らしくなる。なんと高速道路6社で2008年度に確認されたETCの不正通行は67万7400件にも及ぶのだ。未払い料金は約5億円と推計されているというから開いた口がふさがらない。手口は様々でカードを入れずに出口を強行突破するする例や、ETC車載器も付けず制御バーを強行突破するクルマもあるようだ。

高速道路会社別に不正通行を見ると1位は首都高速道路。約24万件の不正通行があり、未払い金額の推計は約1億7000万円。2位は阪神高速で16万2000件で約1億円、3位は東日本高速道路で11万4000件、9100万円となっている。今年度に阪神高速の不正通行件数が激減しているとは思えないから、今年度の摘発者8人というのはあまりに少ないと言えるのではないだろうか。この状態では、各高速道路会社は「不正通行を許さない」といいながら、実際は不正通行車両を見逃しているといいわれてもしかたがない。

こうした高速道路会社の姿勢では、今後も不正通行は減らないだろう。現政権は6月ごろに一部の高速道路で無料化を実施するとしているが、無料化後も残る有料区間で不正を続けるクルマがあるだろう。解決策は全面無料化か摘発しかないのだ。実はETCゲートのシステムには、高性能カメラシステムもセットになっている。ETCのシステムは、ETCカードの情報をDSRC(狭域無線通信)を使ってクルマ側とETCゲート側のアンテナでやり取りしている。カードのセットアップ情報と通行車両を照らし合わせることで、不正通行をチェックし課金しているのだ。実際に通行している車両はひずみゲージなどの様々なセンサーで車両を特定。さらに高性能カメラシステムで車両ナンバープレートの文字を読み取っているのだ。

ETCシステムを開発している時代に取材したことがあるが、この高性能カメラは当時の技術でもナンバーだけでなく運転者や助手席に座る人の顔までも完全に判別できるほどの性能を持っていた。開発エンジニアに聞くと、通過車両がETCカードの情報と同じか確認するためと不正通行した車両と運転者を特定するための目的があるということだった。そのため運転者の顔が判る程度の解像度が必要なのだ。覆面をしながら運転してETCを強行突破するなら個人を特定するのが困難になるが、道路会社側には不正通行のETCデータだけでなく、運転者を特定する写真データも残されているはず。警察に不正通行を告発する場合、証拠となるデータはそろっている。それなのに告発例が少なく、摘発者も少ないというのは利用者として納得できない。5億円分もの不正通行があるなら、すべてを告発して料金収受の公正化に努めるべきだ。

「道路整備特別措置法」は、平成17年10月1日の改正で不正通行の罰金を引き上げている。特措法第58条で30万円以下の罰金を科すことができるようになったし、特措法第26条では通行料金と割増金は、免れた通行料金の2倍に相当する額を徴収できるようにもなっている。現在は告発されないため不正通行をするものが後を絶たないのだ。不正通行をすると大きな代償を払うことになることがわかれば、こうした行為は自然と少なくなる。道路会社が正しい対応をすれば、ETCの制御バーがなくても不正通行車両は激減するはずだ。