昨年実現した政権交代。モータージャーナリストとしてもっとも注目していたのは高速道路の無料化実施だ。無料化はクルマでの移動を増やすので二酸化炭素の削減、地球温暖化防止に逆行すると批判する人も多いが、ボクはそう思わない。高速道路が無料化されても燃料代が必要なことには変わりはないから、ムダな走行はそれほど多くはならいないはずだ。
また、無料化に反対する多くの人は、高速道路が渋滞するため燃費が悪くなり、移動時間の短縮という高速道路としての意味もなくなるという。果たしてそうだろうか。高速道路無料化による渋滞を心配する人の根拠の多くは、現在行われている休日・祝日の1000円高速料金。確かに昨年夏の夏休みシーズンや秋の紅葉シーズン、この1000料金が適用された日は渋滞する高速道路が多かった。だが、この渋滞は休日と祝日だけに適用される割引の恩恵を受けようと、多くの人が土日や祝日に高速道路を利用するためだ。
民主党がマニフェストに掲げた無料化は、こうした曜日を特定していない。だから渋滞によって燃費が悪化して、温暖化防止に逆効果とはならないのだ。平日も1000円高速が実現していれば、こうした渋滞の発生はかなり少なくできたはずだ。無料になれば、逆に利用料金が発生しない(自動車税や重量税や、揮発油税などで負担しているが)。一般道より高速道路を使う人が増えるため燃費は改善する。ノンストップの高速道路を走行するほうが、温暖化防止に貢献できる。
さらに見逃せないのが歩行者や自転車などとの事故を減少させられる点。一般道を走る限り、歩行者などとの事故が起こる可能性がある。だが、多くのクルマが高速道路を走ればそうしたリスクはかなり軽減され、一般道での事故が減るだろう。歩行者や自転車との事故は死亡事故など重大な結果に結びつくことが多いが、そうした事故を減らせる可能性が大きいのだ。
無料化された高速道路は交通量が増えるため事故件数は多くなるだろうが、少なくとも歩行者や自転車との事故はなくなる。クルマとクルマ同士ならエアバッグなどの最新安全ディバイスで、人命を守れる可能性も高い。事実、クルマに乗車中の事故による死亡者は確実に減少している。高速道路の無料化には、死亡事故をさらに減少させられる可能性も秘めている重要な施策なのだ。
政権交代を行ったばかりの民主党だから、ボクは今まで文句を付けることもしなかった。なにしろ長く続いた自民党体制から変わったばかりだから、政権が連立の民主党政権に変わったからといってドラスティックにすべてが変わるとも思っていない。だが、高速道路の無料化がブレているのはとても心配だ。
大都市圏は渋滞を防止するため、無料化を行わないというのはわかる。だが、最近は無料化の声が大幅にトーンダウンして、一部の高速道路に限るような与党案が出ているのだ。こうした雰囲気が前政権に似ているから心配なのだ。これは予算との関係も大きい。国土交通省は来年度の概算要求として6000億円を要望していたが、予算の圧縮で1000億円程度に削減される可能性があるため無料化が難しいのだという。
もっともらしい理由だ。だが、国土交通省の高速道路関連の予算は他にもある。こうした予算を無料化にも使えば、予算を圧縮されても無料化を幅広く実施できるはずだ。予算が削られたという理由で無料化の対象路線が絞り込まれるようで、この1月中にも路線を発表するという。無料化の実施は6月を予定しているという。前原誠司国土交通大臣は本州を含めて全国で無料化を実施すると発言しているが、温暖化防止と交通死亡事故の減少、経済活性化のために多くの高速道路で無料化を実施してほしい。
国土交通省は「均一料金制度」を考えているようだ。これは平日も対象のため渋滞の発生はかなり防止できる。聞こえてくる制度案では普通車で2000円を上限、軽自動車で1000円を上限とするようだ。例の1000円料金より高くなるように見えるが、大都市圏から地方に行く場合は対象路線が増えれば得になる場合もある。現在のETC割引のように大都市圏は、現在の1000円高速と同じ対象外になると得にはならないのだ。いかに幅広い路線に適用するかがポイント。例えば東京で言えば、首都高速が対象外になるのはしかたがないとしても東名高速や中央自動車道に入れば2000円上限で走れるようにするべきだ。現在のETC割引のように大都市圏として東名は都心から厚木IC、中央道は八王子ICまでは対象外だが、このようなことをすると「均一料金制度」は効果が薄くなってしまう。
それと均一料金制度を導入したときには、1日に何度乗り降りしても普通車なら上限の2000円にするべきだ。これはすでに均一料金制を取り入れている首都高速道路にもいえることだが、渋滞を少なくしたいなら乗り降りしても新たに料金を取らないようにする。ドライバーは渋滞したからといって降りて乗り直すと、新たに料金を取られるから降りないのだ。均一料金制が1日に何度乗り降りしても定額なら渋滞を緩和できる。これにはドライバーの意識改革も必要だ。今までは高速道路で渋滞になるとそのまま乗り続けたが、均一料金制なら降りて乗り直しても料金は変わらない。渋滞したら高速を降りるドライバーが増えれば渋滞を解消しやすくなるわけだ。
均一料金制度を6月に実施するなら必ず乗り降り自由の制度にするべき。これなら観光地も潤うはずだ。ETCならその管理は簡単だし、ETCを使わないドライバーでも領収書を見せることで対処できる。乗り降り自由は、必ず実現してもらいたい。