6月1日から道路交通法が改正されたが、その少し前の4月1日にクルマ関係の法律で改正があった。あまり注目されていないようでこの改正を取り上げることが少ないが、一般ドライバーに知っておいてもらいたいのが、新たな緊急車両だ。

緊急車両はパトカーや消防車、救急車などが一般的だが、4月からは一般車が緊急車両として走行する場合がある。街でクルマを運転していて、後ろからサイレンと赤色灯をつけた緊急車両が来れば誰もが道を譲る。抜き去ったクルマがパトカーや救急車ではなく、まるで一般のクルマだったとしてもビックリしないでほしい。

実は医師が使うクルマを、緊急自動車として新たに指定できるようになったのだ。医師が患者の自宅などに急行する時に、救急車と同じようにサイレンを鳴らしながら赤色灯を回転させて行くことができる。これは以前から医療機関やホスピスなどから要望があったもので、在宅療養を充実させる目的で関係法令が改正されたわけだ。特に自宅療養する末期のがん患者などからの要望が強かった。

警察庁は改正の趣旨で「緊急往診においては、当該患者の苦痛が長時間にわたって継続しないようにするため、医師がいわゆる緊急走行により患者の居宅に急行する必要があることから、当該緊急往診に使用する自動車を緊急自動車の指定対象に追加することとしたものである」と説明している。患者側のことを考えた改正だといえるだろう。

だが医師ならば誰でも緊急自動車の指定が受けられるわけではない。街のお医者さんすべてがマイカーを緊急車両として指定を受けたら問題になるが、すべてが指定を受けられるわけではない。国土交通省は道路運送車両の保安基準の一部改正のなかで「重度の傷病者で、その居宅において療養しているものについて、いつでも必要な往診を行うことができる体制を確保している医療機関が、当該傷病者について必要な緊急の往診を行う医師を当該傷病者の居宅にまで輸送するために使用する自動車」としている。さらに「車色は白色に限定しない」という。

こうしたクルマを"ホスピスカー"と呼び、ボディカラーは何色でもいいことになる。救急車のようなホワイトでなくても緊急自動車として指定されるわけだ。運用面でも規定があり、患者のところに向かう場合はもちろん緊急走行が許されるが、処置などを終えて病院などに戻る場合は通常の走行しか許されていない。早く病院に帰りたくて、緊急走行してしまうと違反になるわけだ。

こうしたホスピスカーを見て、一般車が悪ふざけで走行していると勘違いしないようにしたい。ホスピスカーもパトカーや救急車など同様に進路を譲ることが義務付けられているので、間違っても走行の邪魔をしないでほしい。

高齢者の認知症に対応した道交法改正

このマークをクルマに貼ることは努力義務となったにもかかわらず、運転免許の講習会で一切触れないのはおかしい。一般ドライバーのなかには、高齢者ドライバーは必ずマークを付けていると勘違いしている人もいるはずだ。円滑な交通を実現するためには、情報の共有も欠かせないのではないだろうか

6月1日から道交法が一部改正され、高齢ドライバーの認知症対策と飲酒運転とひき逃げなどの悪質運転者の厳罰化が行われるようになった。高速道路などでの"逆走"事故がきっかけで、高齢ドライバーの適性を免許更新時に判断することが求められていて、今回の改正で「講習予備検査」が75歳以上のドライバーに義務付けられた。すでに70歳以上のドライバーは高齢者講習が義務付けられているが、それに加えて75歳以上は新たに予備検査が導入されたわけだ。

講習予備検査は、認知機能の検査で以下の3つの検査を行う。

  1. 検査当日の年月日を書くことができるか
  2. 何種類かのイラストを覚えて、一定時間経過後に思い出してその名前を書けるか
  3. 時計の文字盤を描いて、そこに指定した時間を示す針を描き込めるか

いずれも簡単な検査なので、高齢ドライバーでも多くの人は問題なくパスするだろうが、認知症が疑われる場合は、それまでの違反歴によって対応が異なってくる。いずれにしてもこの講習予備検査で認知症が疑われたとしても、免許を更新することは可能だ。だが、更新期間満了の1年前から更新申請日までに信号無視や一時不停止などの違反をした高齢ドライバーは専門医の診断を受ける必要がある。専門医が"臨時適性検査"を実視して認知症と判断すれば、免許取り消しか停止となってしまう。

筆者がちょうど免許更新時期だったので、改正後の6月1日に行ったが講習用の本には古い記述も残されていた

ICチップ入りの免許になったため3,250円もの更新料(東京都の優良ドライバーの場合)を払い、3冊の小冊子を購入させられる。そのうちの一冊は「交通の教則」で平成20年11月改訂。6月1日の改正に訂正版が間に合わなかったのか、在庫を一掃するまでこのままなのかはわからない。高齢者マーク(もみじマーク)は罰則が廃止され、表示も努力義務に変わったのにもかかわらず、そうした補足説明は一切なかった

同時に配られた「安全運転のしおり」の記載も同様だ。昨年の平成20年6月1日施行された高齢運転者標識(もみじマーク)の表示義務化をそのまま記載している。別紙による訂正文も一切ない。高齢者講習ではきちんと説明されているのだろうか?

過去に違反がないドライバーでも安心はできない。講習予備検査で記憶力・判断力が低いと判断された認知症予備軍ドライバーは、免許更新後に信号無視や一時不停止などの基準行為を犯すと、やはり専門医の臨時適性検査を受けることになる。

認知症などによる、潜在的な危険ドライバーの排除は安全な交通社会を維持するうえでは必要なことだ。だが、過度に高齢ドライバーを排除しようとする社会的傾向があることは残念。ITSを使えば逆走や運転ミスをかなり高度に防ぐことができる。こうした技術の普及を目指すことも今後は必要だ。

今回の改正では、悪質ドライバーの厳罰化もポイント。従来は酒気帯び運転(0.25mg/L以上)でも免許取り消しにはならなかったが、今度は一発取り消し。違反点数は25点で、免許取得の欠格期間は2年と大幅に厳しくなった。0.25mg/L以下の酒気帯び運転でも13点、90日の免許停止だ。さらにひき逃げの救護義務違反は35点で、欠格期間3年になったため、"逃げ得"に抑制効果が期待できる。

いずれにしても、お酒を飲んで運転するのはドライバーとして失格。クルマの運転は、社会的な責任を負うことを忘れないようにしたい。


違反行為 2009年6月1日改正後 改正前
基礎点数 欠格期間など 基礎点数 欠格期間など
0.25mg/L未満の酒気帯び運転 13点 90日免許停止 6点 30日免許停止
0.25mg/L以上の酒気帯び運転 25点 2年 13点 90日免許停止
酒酔い運転など 35点 3年 25点 2年
救護義務違反 35点 3年 23点 2年
危険運転致傷 55点 7年 45点 5年
危険運転致死 62点 8年 45点 5年

丸山 誠(まるやま まこと)

自動車専門誌での試乗インプレッションや新車解説のほかに燃料電池車など環境関連の取材も行っている。愛車は現行型プリウスでキャンピングトレーラーをトーイングしている。
日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員
RJCカー・オブ・ザ・イヤー選考委員