2007年9月30日、30年ぶりに開催された富士スピードウェイでのF1日本GPは後味が悪いものだった。最大の原因は、大観客をどのように移動させるかというシミュレーションが足りなかったこと。サーキットへのアクセスをバス移動などの公共の交通機関に限定したにもかかわらず、会場近くでは深刻な渋滞が発生。場内での徒歩の移動でも大混乱を引き起こすという失態ぶりだった。さらに雨天という状況が深刻なものにしてしまった。
不安の中でスタートした2008年F1日本GP
この結果を深刻にとらえた富士スピードウェイとトヨタは、お得意の「改善」を徹底的に行った。2008年2月の段階で富士スピードウェイはこんな発表を行っている。
「お客様に多大なご迷惑をおかけした昨年大会について、数多く寄せられたご批判やご提案を踏まえ、お客様の安全を第一としたうえで、1.安心で確実な交通アクセス、2.楽しく快適な観戦環境 の2点を基本方針に、地元とも連携を図りながら、ファンの皆様に楽しんでいただける大会とします」
会場へのアクセス方法は前回と変わらない「チケット&ライドシステム」を採用したが、昨年の失敗から今年はバスを会場内にそのまま待機させておく「留置き方式」へ変更した。2007年の「シャトルバス方式」は、会場周辺の渋滞を引き起こす原因だったからだ。大型バスは動きが遅く、大きなボディを持つため、これらがたくさん動き回ることで渋滞を加速させていたのだ。
また、会場内を歩く観客の動線も改善された。場内バス乗降場から観客席までの歩道を拡幅したり、場内道路を横断しなくていいように歩道橋を設置するなどしている。2007年では1コーナーよりの観客席で、コースが見えないという失態があった。だがこれも観客席の位置を変え、富士スピードウェイの社員などが実際に席に座ってコースが見えることを確認。大型スクリーンや照明、放送機器なども大幅に増強した。2007年は不運にも雨という天候になってしまって状況をさらに悪化させたが、2008年は雨宿りができる常設テントを増やすなど、休憩場所の増設にも力を入れた。2月の発表どおり、快適な環境で世界最高峰のレースであるF1を楽しめるように「改善」を行った。
あまりにもスムーズに富士スピードウェイに到着したため、会場外の写真を撮り忘れてしまった。このように会場内を歩く人に混乱はまったくない |
グランドスタンド裏近くになっても動線は乱れていない。人が多い場所でも渋滞はなく、スムーズに歩いている |
グランドスタンド裏には大きな常設テントを設置。2008年は雨が降るようなことはなかったが、食事や休憩などに使う人が多く満員状態だった |
常設テントはどこも人気で、家族でお弁当を食べている姿も目についた。会場内の雰囲気は2007年とまったく違い、ゆったりとしていた |
バス乗降場のオペーレーションも完ぺき。スムーズに駐車することができ、駐車エリアの空きスペースができるほどうまく整理していた |
ツアーバスごとに駐車するスペースが決められているようで、観客が自分が乗ってきたバスを見つけやすいようになっている |
トヨタ流の「改善」で劇的に変化
2008年10月12日、F1日本GP決勝日。2007年と同様、報道関係者を招待するF1プレスツアーが開催された。小田急線の新宿駅から電車に乗り、富士スピードウェイからやや離れた駅で専用バスに乗り替えた。2007年は会場付近で渋滞に巻き込まれた。だが、今年何事もなくスムーズに走っている。サーキットの横には大きな墓地の"富士霊園"があるが、そこの信号が最大の難関。2007年もここで長時間待たされるバスが相次いだ。富士霊園に向かって上る坂道は意外にも空いている。
2007年はバスやタクシーがあふれかえっていたにもかかわらず、富士霊園正面の交差点まであっという間に着いてしまった。まったく渋滞がなかったのだ。これはシャトルバス方式をやめ会場内に留め置きしたための効果だ。シャトルバスを運行するとそれだけでトラフィックを増やしてしまうが、F1観戦では一度会場に入ってしまえばレースが終わるまでほとんどとの人はバスを使わない。ムダに走らせていたバスを減らしたことと、富士霊園前のような重要交差点のオペレーションがうまくいったため渋滞がなかったのだ。それに富士スピードウェイ前の道路に一般車を進入させなかった効果も大きい。地元住民には負荷になったことは想像できるが、渋滞をなくすには最良の方法だったに違いない。
会場に入ってもバスはスムーズに移動していた。窓から歩行者の動きも見えたが、少なくともバスで見える範囲では混乱も渋滞もなく歩いている。2007年は何だったのかと思うほど何もかもがスムーズなのだ。バスの駐車場もうまくオペレーションされていた。決められた場所にスムーズに駐車でき、まったく混乱がない。カードマンやスタッフの教育もうまくいったようだ。
一番驚いたのは会場内を歩行者がスムーズに歩けることだ。当たり前のことのようだが、11万人が一度に来場するイベントでの動線確保は相当難しいこと。2007年はそれで失敗したが、2008年は場内歩道上でのチケット確認を廃止。2007年のこのレポートでも指摘したが、専用バスにはチケットを持った人しか乗れないのだから歩道上での確認は無意味。指定席入り口チェックですむことなのだ。2008年は改善され、動線のネックになっていたゲートが廃止され、場内の道路も横断しなくてよくなっていた。歩きやすいように階段が付けられ、歩道橋も大活躍していた。
観客をいらだたせるガードマンもいないため、極めてスムーズに観戦席まで歩くことができた。決勝日の来場者数を2008年より少ない11万人に設定したのも効果的だったのだろうが、アクセスや会場内での移動の改善を行った効果は大きい。
ここまで改善した富士スピードウェイだが、2009年のF1日本GPの開催は三重県の鈴鹿サーキットに戻る。すでに2007年に決定していたことで、今後は富士スピードウェイと鈴鹿サーキットの交互開催になる予定だ。すでに鈴鹿サーキットは2009年の開催に向けて、コースや会場の改修に入っている。鈴鹿サーキットは長年F1を開催してきたのでオペレーションに不安はない。それにマイカーでサーキットまで行きF1観戦が楽しめる。
クルマのレースであるにもかかわらず、愛車で見に行けない富士スピードウェイにはやはり不満が残る。会場周辺のトラフィックを増やさないキャンピングカーは、会場内での車中泊を許可して駐車させたらどうだろうか。海外のサーキットではこうした観戦スタイルは定着している。日本でも"ツインリンクもてぎ"サーキットではこうした観戦スタイルを導入して好評だ。富士スピードウェイの次なる改善プランは車文化への理解と対応だろうか。