地球温暖化が原因なのかゲリラ豪雨が増えている。つい最近も中部や関東で水害が起きた。短時間で積乱雲が急速に発達して、局地的に激しい雨を降らす、このゲリラ豪雨。雨量が極めて多いため道路の排水が追いつかず、アンダーパスなど地面の低い場所に水が溜まりやすくなってしまう。クルマは水との相性があまりよくなく、とくに深い水溜まりである冠水路の走行は苦手だ。

最近は短時間で天候が激変することが多い。このように一気に空が暗くなり、雷鳴が聞こえたらゲリラ豪雨に注意すべきだ。狭い範囲に集中的に豪雨をもたらすため、今走っている場所で雨が降っていなくても安心できない

先日、栃木県で悲しい事故が発生した。多くの報道がなされたのでご記憶の方も多いと思うが、栃木県鹿沼市で軽乗用車に乗った女性がクルマごと水没して死亡した事故だ。市消防本部や警察には多くの通報が寄せられたようだが、別の水没車両と混同して救助に向かわなかったという。消防や警察の対応のまずさは非難されて当然だ。

最近のクルマは水没時にもパワーウインドーが作動するように設計されていることが多い。だがこれも万全ではなく、状況によっては作動しないことも考えられる。古いクルマは対策されていない場合もあるので、窓が開かなくなったことでパニックに陥らないでほしい

ゲリラ豪雨では道路の排水機能は追いつかない。スリップやハイドロプレーニング現象に注意することも大切だが、水溜まりの深さにも注意して走行したい

叩きつけるような雨で、ワイパーの作動速度をハイにしても視界がよくない状況では道路の低い部分は冠水している可能性がある。この写真のように平坦な道路でもすでに大きな水溜まりができている

こうした事態に陥らないのが一番だが、万が一クルマが水没したときの対処方法を知っておいていただきたい。まず豪雨の中でクルマを走らせる場合、アンダーパスや地形的に低くなった場所には雨が溜まっていると考えるべきだ。クルマに乗ったままだと水溜まりの深さがわからないので、こうした場所は避けて通る。先行車が安全そうに通過している場合でも、それが大型トラックや大型SUVだった場合、車高の低い軽自動車やコンパクトカーでは通過できない可能性があるのだ。

クルマは鉄の塊で一見重そうに見えるが、じつは乗用車は結構水に浮きやすい。タイヤは空気が入っているし、キャビン(車室)は騒音対策でドアはしっかりとシールされている。水に入ってしまっても最初は浮くのだ。それでも時間の経過とともに水が室内に入ってくるが、最初浸水量は少なくクルマは浮いたまま。このような状態ではタイヤが路面から離れ、アクセルを踏んでもクルマを動かすこともできなくなり、ブレーキを踏んでもクルマは流される。

それに水溜まりに進入した時点で、エンジンが止まってしまうことも十分考えられる。ガソリンエンジンは、アイドリング状態でエキゾーストパイプ(排気管)を塞いでしまうと比較的簡単にエンストしてしまう。エキゾーストパイプの部分が水没した状態のままで、アクセルを放してアイドリング状態にするとクルマは動かなくなってしまう可能性が高い。一度エンジンが止まってしまうとパイプの中に水が入るので、再始動はかなり困難。

エンジンが止まり、クルマが水で流されるとパニックに陥りやすい。この時点が大切で"命の分岐点"ともいえる。まず冷静になることが大切。次は水の様子や深さ、流れの強さを見る。水深がひざよりも低く、流れが強くなければクルマから脱出することを優先する。大切なクルマだから、と逃げるのが遅くなると取り返しのつかないことになりかねない。クルマはお金で買えるが、命はお金では買えないのだからきっぱりとあきらめる。

ひざ下くらいの水深ならば通常ドアを開けることができるが、水圧でドアが開かなくてもパニックにならないでほしい。ドアを開けなくてもウインドーが開けば、そこから脱出したい。前述の栃木の事故車両を見ると少し年式の古い軽自動車だった。こうした古いクルマは、水没するとパワーウインドーが作動しなくなる可能性がある。最近のクルマは浸水してもパワーウインドーが動くように設計されているが、必ず作動するとは言い切れない。

最近のクルマは室内の静粛性を高めるため、ドアの下部などの気密性を高めている。ロードノイズの遮音に効果的で、シールがドア全周に付けられているため水の浸入も少ない

このようにドアの下までシール(ウエザーストリップ)が貼られている。上のランプはドアカーテシランプ

ドアサイド部分を見てもわかるようにシールがあるため、水没しても簡単にはドアから水は入ってこない

パワーウインドーが開かず、水圧でドアも開かずに脱出できないときは、迷わずサイドウインドーのガラスを割って逃げることが大切だ。サイドウインドーはほとんどのクルマが強化ガラス(一部のクルマは2重ガラス)を使用している。そのためちょっとしたコツと道具がないと割ることはできない。素手でガラスを叩いても割れる可能性は少ないのだ。

そこでお薦めしたいのは、緊急脱出用の小型ハンマーを車内に常備しておくこと。レスキューハンマーなどの商品名でいろいろなタイプがでていて、価格はほとんどが1000円前後。自分が脱出するときに使えるのはもちろん、事故などに遭遇しクルマから出られない人を救助するときにも役立つ。

このハンマーは先が尖っていて、力が一点に集中しやすいため強化ガラスも簡単に割れる。ガラスのどこを叩くかも重要。たわんで衝撃を吸収しやすいガラス中央ではなく、窓枠の近くを叩くと割れやすい。先が尖ったドライバーなどを代用することも可能だが、簡単に割るには専用品が一番だ。また、こうしたハンマーにはシートベルトを切るカッターが一体になったタイプもある。シートベルトのバックルが外せない場合はシートベルトを切って脱出したり、他の人が事故でシートベルトがはずせない場合にも切って助け出すことができる。

ウインドー下まで水に使って水圧でドアが開かなかったら、パワーウインドーを開けて窓から脱出する。このようにパワーウインドーが作動すればいいが、開かない場合はハンマーなどで叩き割ることも必要

緊急脱出用のハンマー。全長20センチほどの小型のものだが強化ガラスを簡単に割ることができる。ちなみに工作などで使う金づちを使っても強化ガラスはうまく割れないことがある

金づちでも割りにくい強化ガラスを、専用ハンマーなら簡単に叩き割ることができる。その秘密が尖った先端部分。力を一点に集中させると強化ガラスは自らはじけるようにして割れる

不幸にもパワーウインドーも作動せず、ドアも水圧で開かず、緊急脱出用のハンマーもないときには冷静にクルマが沈むのを待つ。クルマは一気に沈まないから車内で呼吸を整える。通常重いエンジンがある前側から沈むことが多いため、前席にいるのならばリクライニングシートを倒して後ろに移動できるようにしておく。車内の空気がある場所に移動して空気を吸い、水没したドアを開けて脱出する。ドアは水没すれば内と外の圧力差がなくなり、比較的簡単に開けることができる。

だだし川や用水路に流されているときは、脱出することが安全とは限らない。脱出して川に流されるほうが危険だからだ。クルマは比較的大きいから流されても浮いていれば、橋などにぶつかって止まる可能性もある。周囲の状況を見極めて冷静で合理的な判断ができれば、助かる可能性が高まるのだ。

最後に、冠水した道路に入ってしまったときのドライビングテクニックも知っておいてほしい。もちろん前出のように冠水路は危険だから迂回するのが一番だが、間違えて入ってしまったときだ。後続車がいなければバックして出るのがいい。だが走りきると判断したときにはMTなら1速か2速、ATならセレクトレバーで低いLレンジなどを選んでスピードを抑え、エンジン回転を高く保つ。回転を高く保つことで、エキゾースト部分が水没していてもエンジンは止まりにくい。

運悪く前のクルマが停止した場合でもエンジン回転を下げないために、ギヤをニュートラル、ATでもニュートラル(N)レンジを選んでアクセルを踏みつづける。こうすればエンジンが停止する可能性は低い。再発進するときATは多少ショックがあるが、エンジン回転を高めたままDレンジに入れて発進する。走行時はフロントパンパー上まで水が跳ね上がらないようなスピードを保つのがポイント。勢いよく走るとエンジンルーム内に水が入り、吸気パイプから水を吸ってエンジンが停止してしまう。クルマによっては、電装系のリーク(漏電)でスパークプラグに火花が飛ばなくなり停止することもある。水溜まりが深く、エンジンルームに水が入るような状況では停止する可能性が高い。大型トラックや大型SUVはエンジン搭載位置が高いため走りきれる可能性は高いが、乗用車や軽自動車の限界点は低い。

冠水時はムリをしないで、万が一水没したときには冷静になることが大切。それと緊急脱出用のハンマーの常備も忘れいでほしい。

こうしたハンマーにはシートベルトを切断するためのカッターが付いたものが多い。ハンマーの握り部分にハサミを収納しているタイプもある。事故なでシートが変形し、シートベルトのバックルを外せないときにはシートベルを切って脱出する。事故に遭遇したときのレスキューでも使えるので必ず常備したい

緊急脱出用ハンマーは必ず運転席から手が届く場所に固定しておくことが肝心。トランクにしまったり、手が届かないところに置いていては常備していても緊急時に使えない。写真では見やすい用にシートサイドに設置したが、事故でサイドからつぶれるとハンマーが取れなくなる可能性もある。筆者は通常手が届くコンソールボックス内に設置している

ハンマーで叩く部分はこうした窓の隅が効果的。中央部分を叩いてもガラスがゆがんで衝撃を吸収してしまうため割れにくい。専用ハンマーならこうした隅を軽い力で叩いても簡単に割れる