なぜN氏のように撮れないのか
想像していた以上に難しく、思ったように写すことができない水中撮影。しかし、筆者と同じカメラであるオリンパスμ770SW(または予備カメラの725SWを使用している場合もあり)を使用しているにも関わらず、カメラマンのN氏は、かなりいい感じの写真を撮っている。原因は、外部フラッシュや魚眼レンズといった装備の違いもあるが、テクニックの違いも大きいようだ。今回、装備に関しては間に合わないので仕方がないとして、撮影のテクニックやすでに撮影済みの画像の補正方法をN氏に教えてもらいつつ、ダイバーの憧れであるマンタ(オニイトマキエイ)撮影に向け準備したい。
前回も紹介したが、N氏のコンパクトデジカメの装備。左側にある外部フラッシュ「INON D-180」(生産終了)は、オリンパスμ770SWと連動して発光することができ、耐圧水深100mという本格派。また、魚眼レンズ「INONフィッシュアイコンバージョンレンズUFL-165AD」(3万7,000円/税抜き)は、コンパクトデジタルカメラのハウジングの外側に装着するタイプで最大画角は165度もある |
撮影テクニックのポイント
筆者とN氏との撮影テクニックに違いは、大きく分けると3つになる。(1)露出設定を多少アンダー気味にする、(2)シーンモードを被写体によって切り替える、(3)フラッシュは被写体によって使い方を変える、である。(1)の「露出設定を多少アンダー気味にする」理由は、水中での撮影は地上と違って特殊な環境であるため、筆者の写真を見てもわかるように全体が白っぽく写ってしまうことが多いからだ。そのため、カメラに記録される情報も減ってしまい、後で補正するのも困難になってしまう。地上での撮影もプロカメラマンは安全のために多少アンダー気味で撮影して、なるべく情報を減らさないようにすることが多い。水中での撮影は、カメラのオート機能が環境の変化を追従しきれない場合もあり、その際の「保険」的な意味でもアンダー気味に撮影したほうがヒット率は高くなるし、ソフトでの補正も可能になるというわけである。
左が筆者(ISO320、1/125、F5、内蔵フラッシュ発光)、右がN氏(ISO200、1/320、F3.5、-1.3EV、外部フラッシュ発光)。どちらも補正はしていない。N氏は、外部フラッシュの使用と露出をアンダー気味にすることによってシャッタースピードが筆者よりも速い。露出をアンダーにするとシャッター速度が多少速くできるので、手ブレを防ぐというメリットも出てくる |
(2)の「シーンモードを被写体によって切り替える」のシーンモードというのは、一眼レフタイプを含めたオリンパスのカメラ全体の特徴的な機能で、メニューから自分が撮影したシーンを選択するだけで、それに合った設定になるというものである。このμ770SWには「ポートレート」から始まる24のシーンモードが用意されており、特に今回の水中撮影で関係するのは19番「ビーチ&スノー」、20番「水中スナップ」、21番「水中ワイド1」、22番「水中ワイド2」、23番「水中マクロ」、24番「ムービー」の6モードだ。このモードをシーンによって適宜切り替えることによって、自分が望んでいた写真になる確立が高い。実のところ、筆者はこの操作をほとんど行っていなかった。なぜかと言えば、初日は潜ること自体に必死で、そこまで細かいカメラの操作ができなかったからである。
(3)の「フラッシュは被写体によって使い方を変える」は、シーンによって内蔵フラッシュのオンとオフを適切に切り替え、場合によっては外部フラッシュを使ったほうがいいということだ。水中では、赤い光が水に吸収され、水深が深くなるほど赤の要素がなくなって青が強くなってしまう。また、水中にあるプランクトンのような大きな粒子は、緑の光を散乱させるため、緑がかることもある。前回、筆者の写真の多くが青っぽかったり、あるいは緑っぽかったのはそのせいだ。また、深く潜ると光量も減ってしまうため、フラッシュを発光させる機会も増える。ところが、内蔵フラッシュをそのまま発光すると、水中にある空気の泡やプランクトンなどがフラッシュ光を反射してしまい、光の輪のように写ってしまう。そのため場合によっては、被写体が判別できないほど酷い結果になることもある。μ770SWのハウジングは、それを考慮して内蔵フラッシュの位置に白い板が貼られ、光が拡散するような構造になっているが、それでも泡やプランクトンが多い場合には反射してしまう。可能であれば、N氏のように外部フラッシュを使用して、角度を変えて光を当てたいところだ。テレビや雑誌に掲載されている水中撮影のシーンで、よくハウジングに大げさなアームとフラッシュを取り付けたカメラが登場するが、あれは決してカッコだけではなく、ちゃんとした意味があったのだ。しかし、装備が大きくなると取り回しが大変になるため、ダイビングの初心者には辛いところだ。
左が筆者(ISO160、1/125、F5、内蔵フラッシュ発光)、右がN氏(ISO200、1/500、F4、-0.7EV、外部フラッシュ発光)。どちらも補正はしていない。まったく同じハナミノカサゴを撮影しているのに内蔵フラッシュと外部フラッシュの違いがハッキリと出ている |
やっぱりダメならRAW現像ソフトで補正
とはいっても、装備の充実化やテクニックの向上が今から間に合うわけでもない。マンタの撮影を含めて、筆者に残されている時間は後一日。そうなると、初日のように撮影で失敗することも想定し、ソフトウェアでの画像補正も考えて、最終日に挑むしかない。そこで、N氏にどれぐらい補正できるものなのかを尋ねてみた。
「多少失敗した画像でもRAW現像ソフトでかなり補正ができるんですよ」とN氏は撮影に持参した自分のパソコンでジャングルの「DigitalDarkroom」を起動する。「なんで、DigitalDarkroomなんですか」と尋ねたところ「処理スピードがとにかく速いんですよ。特にRAWデータの現像時間は、これが一番速いんじゃないんですかね。主にRAW現像の際に使用しているんですが、JPEGやTIFFデータも扱えるので、Photoshopを使わずにこのソフトで補正することが多いですよ。パラメータがわかりやすいんで、操作が楽なんです」と答える。なるほど、現像時間が速いのはいいことだ。N氏は、自身が撮影した失敗写真の何枚かをDigitalDarkroomに読み込んで「ほら、結構いけるでしょ」と補正結果をその場で見せてくれた。なるほど、これはいい! 限りなく失敗写真しか撮れなかった私としては、とても魅力的で、せっかく撮影した写真を捨てずにすみそうだ。
N氏が、私の前で見せてくれたパラメータの変更ポイントは、「露出補正」「ホワイトバランス」「詳細補正」「ハイライトシャドウ」の4つである。露出補正を調整するのは、アンダー気味に写す関係もあって、多少明るくする必要があるからだ。確かにアンダー気味にとって情報さえデータに残しておけば補正である程度なんとかできる。また、水中という特殊な環境であることから、どうしてもホワイトバランスが崩れやすいので、「色温度」と「色かぶり」の調整はほぼ必須である。ここを調整するだけでもかなり写真の印象が異なり、鮮やかさも蘇ってくる。「詳細補正」は、主に画像のノイズを消すために使用する。撮影する状況にもよるのだが、光量がどうしても足りず、しかもフラッシュが使いにくい場合には、手ブレと被写体ブレを抑える意味もあって、高感度で撮影せざるを得ないことが多い。しかし、高感度にするとデジタルカメラはノイズが増えてしまい荒い画像になってしまう。μ770SWは、コンパクトカメラとしてはノイズが少ないほうだが、それでもISO800、あるいはISO1600もの感度になるとそれなりにノイズが発生してしまうため、A4用紙などに印刷すると荒さが目立ってしまう。そこで、DigitalDarkroomの詳細設定で「色ノイズ」と「輝度ノイズ」を調整してノイズを低減させ、荒さを減らすことができる。この辺りは、実際にプリンタで打ち出しながら、さらに研究してみたい。
N氏のサンプル4。左が補正前、右が補正後。こちらは「露出(0→+0.91)」「色温度(5000K→6859K)」に若干変更、「色かぶり補正(10→139)」に大きく変更、さらに「輝度ノイズ(0→14)」に調整してノイズを減らした |
いざ、マンタポイントへ
N氏が処理スピードも速いというので、東京に帰ってからDigitalDarkroomでこれまで撮影した写真を補正してみようと思うのだが、ここで問題が一つ発生。できれば、個人的には使い慣れているMacで作業をしたい。しかし、DigitalDarkroomの製品名はよく耳にするのだが、Mac版が存在するという話は聞いたことがない。するとN氏は、「近々、Mac版も出るみたいですよ」という。えー、そうなんですか!? と興奮しながら、N氏のパソコンでジャングルのWebサイトを調べたところ、ページのトップに「ArcSoft DigitalDarkroom Windows版体験版はこちらから」に加えて「待望のMac版が、今年9月についに登場! 体験版先行配布中!」と書かれているではないか。しかも制限は45日の試用期間のみで機能に関しかないという。東京に帰ったらダウンロードして使ってみたいと思う。
ジャングルのWebサイトでは、Windows版とMac版の体験版がダウンロードできる。Windows版はすでに発売されており、Mac版は8月21日からダウンロード版(1万2,600円)が、9月21日からパッケージ版(1万8,690円)が発売予定だという |
次回は、マンタ撮影の顛末記と撮影した画像データの活用を考えたい。
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