昨今、リモートワークや業務効率化により、組織内での上司と部下の対話が減少しています。それにより、目先の業務以外で部下と何をどう話せばいいか分からないという上司も現れてきています。
そこで本連載では、組織内において部下の継続的成果と成長を支援し、さらにエンゲージメントを高めるために行う、対話のフレームワーク「すり合わせ9ボックス」を活用して、上司が「部下をダメにする話し方」について考察してみましょう。
すり合わせ9ボックスとは
すり合わせ9ボックスは、上司と部下が対話すべき3つの要素(業務・個人・組織)を、さらに3つの時間軸(過去・現在・未来)で分けた、計9つのテーマで構成したのです。
7回目の今回は、「人間関係(組織×現在)ボックス」についてです。
組織とのつながりを失っていく従業員
近年、組織で働く環境についてリモートワークやジョブ型雇用の推進など、業務効率化の流れが加速しています。そういった環境の中で、周囲の人や組織とのつながりが希薄化しているのです。
そこで、1on1などじっくりと対話する場面において、チームや組織の人のことについて言及していくことは、「チームビルディング」「組織全体とのつながり」という意味から、今まで以上に重要になってきています。
社員が組織とのつながりを感じるためには組織で働いている人をどれだけ広く、深く知っているか、が重要です。と言うのも、会社や組織というのは概念であって、物理的に存在していません。
つまり組織とは、そこに所属して働いている人によって構成されている側面があります。その人たちについて、どれだけ考えるか、知っているかということは会社に対する親近感に直結するのです。
ダメな上司は部下と組織の人との関係を壊す
しかし、ダメな上司は、組織内の人と部下をつなぐことができません。話題にもせず、情報を伝えないだけならまだしも、最悪のケースは、自分の上位階層の人に対しての愚痴や否定を一方的に行い、自分を優位に立たせるような話を部下にすることです。
例えば、上司の上司についての批判を行い、自分の部下との共通の敵にすることで、部下との閉じた信頼関係を構築するのです。
例)
上司「部長は言っていることがいつもぶれぶれなんだよ。前回はこの仕様でOKだったのに、今回はダメだと。外部環境が変わったのは分かるけど、それにただ流されていて、自分の考えで意思決定してないんだよね。だから私は、部長みたいにならないようにA(部下)さんに説明するときに、そこを気にして言うようにしているんだよね」
これでは、部下は上司とはつながっても、上司の上司や組織とのつながりが持てません。部下は、上司に属しているのではなく、あくまで組織に属しています。ですので、上司は周囲とのつながりを作っていくコミュニケーションを取らなくてはなりません。
褒めることで部下と周囲をつなぐ
その時に効果を発揮するのが、ただ単に周囲の人について話題にするのではなく、周囲の人からの(良い)フィードバックを伝える「間接褒め」です。人は直接何かについて褒められることも嬉しいと思いますが、同時に気恥ずかしさや、過大評価されていると感じ、全部を受け止めることができないこともあります。そこで、この間接褒めです。
例)
「この間部長と1on1で話していた時に、Aさんの話題になって、最近Aさんが部内に発信しているお客様の『小耳情報』について、改めてすごく良いって言っていたよ。視点が今までに無かったものだって感心していた」
このように言われると、部下は上司の上司、さらには組織とのつながりを感じるでしょう。自分は組織に受け入れられて必要な存在だと認識するはずです。
「間接褒め」により1on1の対話がチームマネジメントにつながる
こういった間接褒めをするために、上司は積極的に情報を取りにいくことが必要です。例えば、部下Aさんとの1on1の場面で、チーム内において良いと感じている人についてヒアリングします。
上司「最近、チーム内で仕事していて、いいなって思う人いますか?」
この問いは、チーム内のいい情報を見つける以外に、さまざまな副次的効果があります。まずは、人の良い話というのは自分自身の良い点を語るよりも、気恥ずかしさもなく話しやすいものです。良い雰囲気をつくる意味でも、アイスブレイクとして非常に役立ちます。
次に、Aさんの視点を他の人に向けさせて視野を広げるという教育的効果もあります。続けてAさんが
A(部下)「Bさんが最近いいですね。先日も依頼した案件をこちらの予想以上に仕上げてくれて、本当に助かっています」
と、感謝の気持ちを改めて思い出す機会になるかもしれません。そうすると、Aさんの心理状態が良くなります。人は感謝の念を抱いていると、幸福度が高まって良い状態になると、ポジティブ心理学の研究でも言われています。
この話を受けて、次回のBさんとの1on1のときに、このAさんからの内容を伝えると、Bさんのモチベーションは上がります。
この間接褒めは、直接褒められるよりも高い効果をもたらします。これを聞いたBさんは「自分の知らないところで、そんな風に良く思ってくれていたんだ」とBさんがAさんに好印象を持ちます。
次に、それを伝えてくれた上司に対しても好感を持ちます。さらにBさんは、他のチームメンバーに対しても「自分のことをそんな風に思ってくれているかもしれない」という思いが湧いてきます。
自分の知らなかった「空白」を良いことで埋めてくれたAさんの言葉から、人は他の空白を同じように埋めようとする性質があります。つまり、チーム全体に良い印象を持ち、チームマネジメントを行うことができるのです。
逆を考えてみてください。
上司「ちょっと聞いたんだけど、君(Bさん)、新人にキツく当たっているんだって? チーム内で声が上がっているよ」
B(部下)「え? 私そんなこと言われているんですか?」
この後、Bさんはチーム全体に対して不信感を持つでしょう。空白を悪いイメージで満たしていってしまうのです。
この役割は、メンバー間のハブ(結節点)になっている上司だからこそ行いやすいのです。このように、組織の人間関係をテーマに対話するときに、チームマネジメントの観点からも間接褒めを活用してみてください。