昨今、リモートワークや業務効率化により、組織内での上司と部下の対話が減少しています。それにより、目先の業務以外で部下と何をどう話せばいいか分からないという上司も現れてきています。

そこで本連載では、組織内において部下の継続的成果と成長を支援し、さらにエンゲージメントを高めるために行う、対話のフレームワーク「すり合わせ9ボックス」を活用して、上司が「部下をダメにする話し方」について考察してみましょう。

  • 部下の趣味や関心事を取り調べていませんか?

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すり合わせ9ボックスとは

すり合わせ9ボックスは、上司と部下が対話すべき3つの要素(業務・個人・組織)を、さらに3つの時間軸(過去・現在・未来)で分けた、計9つのテーマで構成したのです。4回目の今回は、「ライフスタイル(個人×現在)ボックス」についてです。 

  • すり合わせ9ボックス 提供:日本能率協会マネジメントセンター

    すり合わせ9ボックス 提供:日本能率協会マネジメントセンター

ライフスタイルのテーマは多くの上司にとって課題の「傾聴」が自然に行える

社会は、個が尊重される時代になってきました。組織は多様な人材を戦略的に活用して、市場の変化に対応しながら、創造的なものを生み出そうとしています。そのような時代変化の中で、上司として部下の人生全体の生き方や考え方などのライフスタイルをすり合わせることは、信頼関係づくりや成長促進に非常に効果的です。

また、部下の生き方や興味のある事柄というのは、上司にとってもさまざまな刺激を与えてくれるはずです。特に激しく変化している時代にあっては、その変化を部下の方がよく知り、順応しているケースも多いでしょう。ですから、ライフスタイルの対話は、部下から「教えて」もらいやすく、多くの上司が課題とする「傾聴」を自然に行えるボックスと言えます。ここでは、ライフスタイルのテーマの中でも主に、相手の興味・趣味・関心事について触れる時のコツや注意点をお伝えしていきます。

「何をしていたか?」ではなく「何をしているときが楽しいか?」を聞く

昨今は、セクハラ、パワハラなどの問題があって、仕事以外のことについて、部下と話をするのが難しいと感じている上司が増えています。 関係性にもよる部分ですが、例えばアイスブレイク的な雑談でよかれと思って、

「週末何やっていたの?」

と質問します。すると部下の中には「そんなプライベートなこと言わなきゃいけないのかな」とか「それ聞いて何が知りたいんだろうか?」などと思う人もいるかもしれません。

「何をしていたか?」という事実を聞くのは、見方を変えれば事実を丹念に調査していく「取り調べ」です。さらに、人にはあまり知られたくない内容があった場合、そこを話すように示唆されるのは苦痛でしょう。そこで、事実ではなく感情にフォーカスを当てていきます。

「週末(最近)何か楽しいこととかあった?」
もしくは
「週末(最近)どんな楽しいことがあった?」

このように、楽しいというポジティブな感情に焦点を当てていきます。すると、相手は楽しかったことの中から、当たり障りのないことを選ぶことができてゆとりが持てます。

さらに、楽しいことを聞くというのは、アイスブレイクである意図が伝わりやすいので、相手にも安心感が持てます。ただし、楽しいことがなかったという回答がきても、受け入れられるメンタルと返しの言葉も用意しておきましょう。

関心の対象を相手の興味のある「内容」ではなくその「動機」に向ける

次に、趣味や興味・関心事というのは、継続的に話せるテーマなので相互に開示ができていると毎回のネタとして重宝します。また、「ゴルフが好きだ」「同じ小説家のファンだ」など、共通の関心事を持てていたならば、親近感も湧きます。

さらに、たとえば英語学習など、独自に勉強していることや自己研鑽を積んでいることを知っていると、業務へのつながりや能力開発、将来キャリアへの紐づけを行うこともできます。

ほかにも、若い世代が部下であれば、話を聞かせてもらうことで今の時代の流行りについて知るきっかけにもなり、上司としては刺激をもらうことができるでしょう。

しかし、そうはいっても「サッカーについては興味ないな」など関心を持てないこともあるでしょう。その場合、上司が話を振っておいて、返ってくる話に対しての反応が薄くなったり、話を聞いてもまったく覚えていなかったりなどということになって、むしろ聞かない方がよかったということになりかねません。

そこで、私が普段心がけているのは、自分の関心を相手の関心事の内容ではなく、動機の部分に向けるということです。

例えば、以前地下アイドルにはまっている人がいました。私はまったく興味が持てなかったのですが、彼を熱狂させる動機は何だろうか? ということにフォーカスしてお互い盛り上がりました。

具体的には、私は地下アイドルが人を熱狂させる動機を知ることで、事業アイデアやマーケティング手法のブレーンストーミングになりました。

また、地下アイドルが「彼」を熱狂させる動機を知ることは、そのまま彼のパーソナリティ(性格、強み、弱み等)を知れることになりました。そこから、地下アイドルが好きなのは、あまりメジャーなものは好きではなく「知る人ぞ知る」という信条がある。という人物理解につながりました。

そういうことを覚えておくと、仕事でもあまり目立つポジションではなく、縁の下の力持ちの仕事に配置を考慮するなど応用することもできるのです。

相手のライフスタイルを一旦全肯定で受け止めてから対話を始める

このほかライフスタイルボックスのテーマは、部下の心身の健康、家族・交友関係など仕事以外で気にかかること、さらにライフワーク・副業などがあります。これらのテーマは、相手の人生全般に関わることです。

定例業務のように、答えがあるものではないので、興味本位に聞いて安易に考えを否定することは相手の人生を否定することにもつながります。大切なことは、話された情報や内容ではなく、出てきた話を通して部下の状態を気にかけて、関心を寄せること、そして話を全肯定で受け止める姿勢です。

このような話は、しっかりと対話する場を設けないとなかなか話がしづらいと思います。ただ、自分が人生で大事にしているものを受け入れて、その生き方を尊重してくれる会社や上司に対して、本人は深い愛着を持つでしょう。

ライフスタイルは部下の長期的、持続的成長における土台になるボックスです。上司としては、少し踏み込みづらかったり、耳の痛い話を聞いたりすることもあるかもしれませんが、ここを部下としっかりとすり合わせることができたなら、信頼関係が育まれて、何をするにもやりやすくなるでしょう。

スタンスとして、部下の言動を「同意」まではせずとも「全肯定」で受け止めて、そこから対話を始めてみてください。