前回、蒸気機関車は特別な存在で、鉄ちゃんばかりでなく一般の人々をも熱狂的にさせることを解説しました。度々報道されるトラブルは、蒸機の魅力に取り憑かれすぎた結果ともいえると思います。行き過ぎた情熱が、鉄ちゃんや蒸機を悪者にしてしまうのは悲しいことです。今回は、穏やかな気持ちで撮影するために私なりの心構えを解説します(記事中に登場する鉄道名や駅名などの設定は架空です)。

50年ぶりに蒸機が走る私鉄の沿線に来たテツヤくんとベテラン鉄ちゃん。あまりの激パぶりに撮影を諦めたかのようなベテラン鉄ちゃんでしたが、それで終わりではありませんでした。「昔、母ちゃんと行った秘密の場所に行こう! 」と、車を置いて歩き始めました。

着いたのは、草がボウボウと生えた築堤。昔の面影がかなり残っているようで、ベテラン鉄ちゃんは迷わず登って行きました。普段は冷静なベテラン鉄ちゃんですが、蒸機となるとやはり人が変わったようです。すると、どこからか警備員さんがやってきて、「降りてください」と注意されてしまいました。現在、ほとんどの線路には遠隔監視システムが完備されているのです。「安全な場所だし、昔は大丈夫だったのに」とぼやくベテラン鉄ちゃん。「昔って、何年前ですか? 」と尋ねると、「50年くらい前かなあ……。今は大丈夫じゃなくて当然か、ハハハ……」とちょっぴり悲しそうでしたが、諦めたようです。好きなものに熱中して童心に返るのも素敵なことですが、大人のマナーや常識もしっかりと持ち合わせていたいものです。そして、これまでの経験上安全だと思える場所でも、移動を指示されたら必ず従いましょう。

結局思うような走行写真が撮れなかったベテラン鉄ちゃんとテツヤくん。仕方なく、蒸機が休んでいる終着駅の機関区へと向かいました。「走っていないとおもしろくないなあ」と、あまり気乗りしなかったテツヤくんですが、裏を返せばこれはチャンス。「止まっていてもいいから見たい! 」というのは、限られた人々だけです。確かに走っている姿のほうがかっこいいですが、給水や点検作業をのんびり見るのもいいですよ。止まっているとはいえボイラーに火が入っていますから、公園に展示されているものなどとは迫力が違います。時々煙を出してまるで生きているようで、昔ながらの手法で点検している機関士さんたちの姿は古い映画のワンシーンのようです。

1回走るごとに消耗し、換えの部品はなく、若い機関士が養成されているとはいえ、現役時代の蒸機を知る技術者は限られています。不要な急ブレーキや汽笛を使わせないためにも、安全な場所で撮影したいものです。いい写真を撮ること同様に、蒸機を次の世代に伝えていくことを意識したいですね。

ミニ情報
見学しやすくなった水上駅旧機関区
週末などにD51 498の折り返しとなるJR上越線の水上駅旧機関区が、今年から見学しやすいように整備されました。到着直後は人が大勢集まりますが、その後は地味な作業になり、次第に人がまばらになってきます。その時が撮影のチャンス! 出発時間が近づくと、また人が増えてきます。日陰が全くないので、紫外線対策を忘れずに。