車窓からの流れていく風景はシャッターチャンスが一瞬。それだけに、偶然うまく撮れたときはうれしいものです。鉄ちゃんなら、運任せでいるよりはなんとか工夫して偶然を呼び込みたいですね。今回は、車窓風景を中心に車内でのスムーズな撮影術について解説します(鉄道名や駅名などの設定は架空です)。
妹、姪とともに臨時列車「絶景SLマイコミ号」の旅を楽しんでいるテツヤくん。3人は最後尾の自由席、3号車に乗っています。列車は山の中に入り、気持ちのよい森林地帯へ。すると、「まもなく列車はマイコミ鉄道で一番高い鉄橋にさしかかります。鉄橋の上では徐行しますので、記念撮影をお楽しみ下さい」と、アナウンスがありました。列車は徐行を始めたものの、テツヤくんたちの3号車はまだ森の中。アナウンスは、前寄りの車両に合わせている場合が多いです。両数にもよりますが、後方の車両に乗った場合はアナウンスとのタイミングが少しずれることを頭に入れておきましょう。
そして鉄橋にさしかかり、いざカメラを構えると、窓枠がとても邪魔なことに気が付きました。座席と窓枠のスパンが合っていないのです。これは、列車にはよくあること。車窓を撮りたい時は単に窓側というだけではなく、窓枠を気にして座席を選ぶのが重要です。また、理想的な場所に座れなかった時は、よい位置に近寄らせていただくようにお願いしてみることもひとつの方法です。第11回で紹介した私有地で撮影許可をもらうときと要領は似ています。
「ここから一瞬だけ車窓を撮影させていただけませんか? 」などと風景を撮りたいこと、席を奪おうとしているわけではないことをはっきり伝え、許可をいただきましょう。そして、撮影はできるだけ手短かに。まだ旅は続くのですから、気まずくならないようにしましょうね。
観光用の列車の指定席では、新幹線などにくらべ、「自分の席」という感覚がおおらかな傾向があります。乗車した時から「この列車に乗る全員が旅の仲間なんだ」くらいの気持ちで場の雰囲気になじんでおけば、お願いもしやすいですよ。
鉄橋を過ぎると、次は大きなカーブ。前方の蒸気機関車の姿が窓から見えます。テツヤくんは急いで窓ギリギリに顔とカメラを寄せ、肘を外に出しながら遠近感のある迫力の構図を決めようとすると、なんと窓から虫が飛び込んで来ました。びっくりして思わずカメラを持つ手を離し、窓枠に当ててしまいました。突然の災難に、テツヤくんは真っ青!!
「窓から手を出しちゃダメなんだよー」
姪がテツヤくんの大失態を見てそう言います。「そういえばはるか昔に習ったなぁ。撮影に夢中ですっかり忘れてたよ……」と反省仕切りのテツヤくんなのでした。
開いている窓から飛び込んでくる木の葉や虫は、小さなものでもギョッとしますし、当たれば痛いです。また、蒸気機関車の場合は煙も入ってきます。閉めるようにアナウンスが流れることもありますので、その場合はすみやかに従いましょう。
窓を開けることを「昔懐かしくて旅情がある」と思う人がいれば、「空調が効かなくなり、虫や煙が入ってくるとんでもない行為」だと思う人もいます。そもそも、列車の窓は換気のためのものということを忘れず、自分も周囲の人も楽しい旅になるよう、気配りを忘れずにいたいものです。そしてこういったシーンでの撮影では、窓ガラスの汚れや曇り、窓枠の汚れなどを拭き取る布があると便利です。
大切なカメラに傷を付けてしまい、かなり落ち込んだテツヤくん。これをきっかけに一眼レフ購入を真剣に検討しはじめたようです。
ミニ情報
普通列車で堪能する絶景! 姨捨(おばすて)のスイッチバック
長野県のJR篠ノ井線、稲荷山 - 姨捨間から「善光寺平」を臨む車窓は、日本三大車窓のひとつ。しかも、観光用の列車でなくてもゆっくりと絶景を鑑賞できます。なぜなら、一番眺めがいいところでスイッチバックするからです。しかも、列車の通過待ちがあれば、絶景の姨捨駅で数分間停車することもあります。しかし、これらが体験できるのは普通列車だけ。利用者の多い区間ですので、窓側に座りたければ早めに始発駅で列車を待ちましょう。