駅前に商店や民家がなく、国道からも離れていて利用者がきわめて少ない「秘境駅」。言葉自体の認知度は高まってきていますが、その秘境駅自体の情報はほとんどありません。せっかく訪れた秘境駅での時間を満喫するためにも、情報収集の方法や秘境駅の実態をここではお伝えしていきます(鉄道名や駅名、路線図などの設定は架空です)。
前々回から続いているテツヤくんの「マイコミ鉄道一日乗車券」の旅もいよいよ大詰め。何度か途中下車をしつつ、最後に狙っていたのがマイコミ鉄道の秘境駅と言われている「雄鹿土(おじかど)駅」。昔は集落があったらしいのですが、現在ここに列車が停車するのは上下それぞれ朝1回、夕方1回だけ。車で行こうにもダートの林道を何kmも走らなければならず、テツヤくんの知り合いでここを訪れたことのある人はいません。
「鄙びた場所を訪れて、物思いにふけってみてもいいかな」と思い、列車を降りてみると、1本しかない板張りのホームにはカメラを構えた鉄ちゃんが10人近くもいるではありませんか。これでは物思いどころではありません。
このように、秘境駅には乗降客は皆無に等しくても、休日になると駅を一目見たいと車でやってきた見物客がいることも。また、秘境駅は車道が通せないような急峻な地形だからこそ「秘境」になってしまった場合が多く、道中はカーブやトンネルなどがあって見通しが悪いこともあります。警報機付きの踏切も近くになく、列車の接近を知るためには自分の目と耳だけが頼りになってきます。
さらに、秘境駅には雨や日差しをよける屋根、トイレやゴミ箱等もなくて当たり前、お掃除は地元のボランティアの方に頼っていることもあるのです。冬期は寒さ対策も必要です。秘境駅への途中下車は、列車利用とはいえ"鉄道旅行"というより"野外活動"の感覚でいることが大切です。
列車がやってくるのは約1時間後。見物客は車で去っていき、駅に残ったのは鉄ちゃんカップルとテツヤくんだけ。「時間もあることだし、駅周辺を歩いてみよう」と思ったのですが、携帯電話の地図サービスでは道が表示されません。「地図無しで歩くと道に迷いそう……」。せっかく秘境駅に来たのに満喫できず、不完全燃焼のテツヤくんでした。
秘境駅で威力を発揮するのが、国土地理院発行の2万5千分の1地形図です。細い道や小さい橋も掲載されて、道路地図やカーナビでは空白になっている秘境駅周辺の様子がよくわかります。撮影の下調べとして地形図を見ておくのもいいでしょう。大きな書店で購入できる他、WEBサイト「電子国土ポータル」でも閲覧できます。
今は役割を終えそうになっていても、元々は必要があってつくられた秘境駅。そこに思い出がある人も、そこを故郷とする人もいるでしょう。何よりも、急峻な地形の場所に車道より先に鉄道が敷設されたという近代交通の歴史を感じてもらえれば嬉しいです。鉄ちゃんなら、物珍しさや懐古趣味ではなく、もう少し専門的な目線で鉄道施設を見ていきたいものです。
ミニ情報
秘境駅なのに秘境ではない!? JR飯田線 中井侍駅
JR飯田線の中井侍(なかいさむらい)駅は長野県最南端の駅で、秘境駅としても知られています。ホームの目の前は小さな茶畑と天竜川、後ろは絶壁と杉林。数軒の民家はありますが、駅前という感じではありません。しかし、斜面を15分ほど登ると茶畑や天竜川を臨む絶景の他、家々も見えてきて、ここが「秘境」ではないことがわかります。駅周辺には目印などがないので、このあたりを歩きたい場合は前述の地形図を用意してくださいね。