前回はつみたてNISAの仕組みや、現行NISAとの違いを解説しました。 「で、結局どちらがいいの?」と思った人もいますよね。今回はそれぞれの特徴を踏まえて活用の仕方を考えてみましょう。

現行NISAとつみたてNISAは投資のスタイルで向き不向きがある

NISAとつみたてNISAを比較した場合、制度の特徴から投資スタイルで向き不向きがあります。

1)非課税期間
現行NISAの非課税期間は5年間。一方つみたてNISAは20年間。比較的短期間で結果を出したい場合は現行NISAでも良いですが、長期間運用をしていきたいというのであればつみたてNISAが有利です。

2)年間投資額の上限
現行NISAは年間120万円まで。一方つみたてNISAは年間40万円(月額約3万3,000円)と3分の1です。単年度でみると現行NISAの方が有利ですが、制度全体としてみると、現行NISAは120万円×5年=600万円、つみたてNISAは40万円×20年=800万円で、つみたてNISAの方が多く投資することができます。比較的短期間で多くの投資をしたい場合は現行NISAが向きますが、そこまで投資に回す資金がない、まずは少額で始めたいということであればつみたてNISAでも対応可能です。

みなさんたちのように、まだそれほど貯金も多くないのであれば、すべてを投資に回すわけにはいきません。預貯金や財形貯蓄など、他の商品で形成する分もありますので、つみたてNISAへは月額3万円程度積み立てられれば、取りあえずは十分ではないでしょうか。

3)商品の選択肢
つみたてNISAは現時点で約100本の投資信託、一方現行NISAは投資信託のみならず個別株式なども選択できるので、投資経験もあり、商品のリスクなども十分理解した上で投資をしたい人には商品選択の面では現行NISAの方が向くでしょう。ただ、投資に慣れていない人はビギナーであれば、あまり商品が多すぎてもよくわからない、逆に選べないという声があるのも事実です。

実はつみたてNISAの商品ラインアップは、既に長期の積立投資による資産形成を前提にしているため、コストが低め、毎月分配ではないなど、そのスタイルに向くものがセレクトされています。投資ビギナーの人でも商品選択がしやすいといえるでしょう。

みなさんのように若い世代は、今後長期にわたり資産を形成していく必要があります。前回のコラムでもお伝えしたように、現行NISAは口座数が増えていても稼働は今一つという実態をみても、使いこなしは難しいところもあります。少額から無理なく、投資をスタートするには商品がわかりやすく、リスクを軽減できるセオリーである「長期」「分散」「積立」の仕組みを備えたつみたてNISAから始めてみると良いでしょう。

iDeCoとつみたてNISAは似ているけど目的が違う

今年の初め、話題になった制度があります。iDeCo(個人型確定拠出年金)です。こちらも毎月掛金を拠出し「長期」「分散」「積立」というスタイルでは資産を育てていきます。つみたてNISAと似ていますが、iDeCoとつみたてNISAとは多くの面で異なります。

まず、税に関してつみたてNISAは運用益に対して非課税ということがメリットですが、iDeCoは3つの優遇があります。拠出する掛金は「小規模共済等掛金控除」として、所得控除の対象となり、所得税・住民税の軽減に効果があります。また、運用期間中の運用益については、非課税です。更に給付時に一時金で受け取る場合は「退職所得控除」、年金で受け取る場合は「公的年金等控除」が適用され、税の軽減が見込めます。

iDeCoは運用商品についても特徴があります。運用する機関によって違いはありますが、定期預金や保険商品など、元本確保型の商品が用意されています。これはNISAにはないことで、価格が大きく変動しそうな場合、解約せずとも資金の退避先があるという安心感は大きなメリットです。

また、長期運用ではコストも収益に大きな影響を与えますが、iDeCoの商品ラインアップは購入時の販売手数料が無料というものが多いこと。運用期間中かかる信託報酬も一般に購入するよりも安く設定されているものが多いようです。コスト面では有利といえます。

ここまでのところでは「iDeCoの方がメリットが多そうだ」と思うかもしれません。しかしiDeCoは大きな留意点があるのです。

まず、そもそもの目的が違います。つみたてNISAの目的は、長期で資産を形成することですが、iDeCoは「自分で掛金を拠出して、選択した商品で運用し、60歳以降に給付金を受け取る」という制度です。言い換えれば老後資金準備です。もちろんつみたてNISAで20年後の老後資金の準備をすることもできますが、両者の決定的な違いは、iDeCoは60歳まで積立をしなければならず、途中で売却や解約はできません。給付金を受け取れるのも60歳以降になります。したがって、60歳未満でも使いたい用途がある、60歳まで資金を拘束されるのは困る、というのであれば、iDeCoは向きません。

つみたてNISAは、非課税期間は20年ありますが、途中で売却も可能ですから60歳未満でも現金化して受け取ることができますし、逆に60歳以降で投資することもできます。

更にiDeCoは加入資格があります。特に会社員の人は、会社の企業年金の形態によって加入できる人とできない人が出てきますので、勤務先に確認してください。

制度の比較

現行NISA、つみたてNISA、iDeCoと似ているように思う人が多いのですが、自分の選択肢を確認し、自分の投資スタイルを作っていきましょう。

執筆者プロフィール : 鈴木暁子

ファイナンシャル・プランナー(CFP認定者)。キャリアコンサルタント。FPオフィス Next Yourself代表。
「多様化するライフスタイルに応じたライフプラン・マネープランづくりが重要」という視点で、企業、自治体、大学オープンカレッジなどで年間約50回のセミナー・講演を行うほか、新聞、雑誌・WEBなどで精力的に情報発信をしている。
「お金はいい使い方をしてこそ活きる」をモットーに、これまでに数百件の家計診断のほか、 個人コンサルティングも行っている。資産運用、ライフプランニングを得意とし、特に共働き夫婦のライフプランニング、リタイアメントプランニング、高齢期のお金と住まい、相続設計に力を入れている。著書に『100歳まで安心して暮らす生活設計』(実業之日本社)。