超低金利が続く中、「この状態なら変動金利」と迷わず選ぶ人も多くいます。確かに金利上昇リスクはあるものの、実際ここまで低金利が長引くと、ローン期間の大半を低金利のままで済んでしまったケースも少なくありません。しっかり家計管理できていれば低金利の恩恵を享受しつつ、金利上昇リスクへの対応も可能です。
変動金利型を選んでも良いのは貯蓄体質の家計
金利上昇リスクとは、金利が上昇することで返済の利息負担が大きくなり、その分毎月の返済額が大きくなることです。つまり返済額が増えても返済を継続できる家計であることが大前提です。
借入額が大きいほど利息は多くなりますから、金利上昇による影響を少なくするには、借入額はできるだけ少ないほうが良いわけです。したがって最初のポイントとして、変動金利を利用するなら自己資金が多い家計のほうが向いているといえます。
二つめのポイントとして、ローンを返済しながらもしっかり貯蓄もできるかということ。 もし金利上昇が進むようであれば、「固定金利への借り換えをすればいい」と考える方が多いのですが、現状の金利水準では固定金利のほうが高いので、借り換えるにしても返済額は今よりもアップします。つまり変動金利の返済額でギリギリの家計となってしまうようであれば、変動金利の利用はお勧めできません。 仮にこのまま低金利が続くのであれば、その分は将来の繰り上げ返済をはじめ、他の用途に充てることもできます。
最も支出の多い時期にも返済可能であることを忘れずに
住宅ローンを組むのは一般的には30代半ば頃が多いのではないかと思いますが、その場合、まだお子様の教育費支出がそれほど大きくなってはいないと思われます。そのような時期の家計を基準に返済額を決めると、その後教育費の支出増に伴い家計が苦しくなる時期に貯蓄ができなくなるかもしれません。この場合は先ほど述べたように金利上昇への対応が難しいので、奥様がパート収入を得るなど世帯収入をアップできなければやはり変動金利はお勧めしにくくなります。
また、退職後に返済が残っている場合も、年金ベースの生活になってから返済額がアップするのは老後資金の寿命を縮めることになります。できれば退職までの完済を目指したいところです。このように将来のライフプランを見据えた上で身の丈にあった返済額を見極める必要があります。
5年ルール、125%ルールの落とし穴
前回も述べたように、変動金利型には5年ルールや125%ルールなど独特のルールがありますが、これは決して安心のためのルールというわけではありません。 仮に金利が上昇しても5年間返済額は変わりませんが、一方でその間の返済額内訳は変わっています。毎月返済額は元本と利息の合計額ですが、金利が上昇すると利息充当分が多くなります。それでも返済額が変わらないのはその分元本充当分が少なくなっているからなのです。つまり返しても返しても元本はなかなか減らない(=なかなか完済ができない)という状況が起きるのです。
さらに金利が上昇し、利息分が返済額を上回ってしまうこともあります。返済額を上回る利息を「未払い利息」と言いますが、この場合返済はまず未払い利息の解消が優先されるため、それまでは元本に充当されません。もし借入期間内に未払い利息が返済できない場合は、最終返済時に清算することになります。そのような場合はかなりの金額を一括で返済することにもなりかねません。
現状の水準ではそこまでの急激な金利上昇は考えにくいですが、金利は上昇し始めるとあっという間に上がっていきます。変動金利型を利用するのであれば、最低限これらのリスクには対応できる家計ででないと私はお勧めしていません。
鈴木暁子
ファイナンシャル・プランナー(CFP認定者)。キャリアコンサルタント。FPオフィス Next Yourself代表。「多様化するライフスタイルに応じたライフプラン・マネープランづくりが重要」という視点で、企業、自治体、大学オープンカレッジなどで年間約50回のセミナー・講演を行うほか、新聞、雑誌・WEBなどで精力的に情報発信をしている。
「お金はいい使い方をしてこそ活きる」をモットーに、これまでに数百件の家計診断のほか、 個人コンサルティングも行っている。資産運用、ライフプランニングを得意とし、特に共働き夫婦のライフプランニング、リタイアメントプランニング、高齢期のお金と住まい、相続設計に力を入れている。著書に『100歳まで安心して暮らす生活設計』(実業之日本社)。