昨今、奨学金を利用して進学するケースが多くあります。昔は所得が低めの世帯で利用するというイメージだったものが、現在はごく普通に利用する。日本学生支援機構の調査によると、前回(平成26年度)調査時より減少はしているものの、それでも大学(昼間部)で約49%、修士課程では約52%と、依然2人に1人は奨学金を利用しているイメージです。
奨学金に関しては、返還時の負担について注意喚起することは多くなっていますが、それだけではない注意点も…。
奨学金利用は、子供の将来のライフプランも踏まえて検討しよう
奨学金自体は悪いことではありません。これにより多くの学生が進学を諦めずにすんでいるのですから。特に昨今では、親の老後資金準備が厳しくなっているため、特段低所得というわけではない世帯においても普通に利用しています。ところがそのせいか、一方で「借りる」ということに抵抗感が薄れている感じがしなくもありません。
デフレであっても、給料が上がらなくても、教育資金を減らそうとする親はあまりいらっしゃらないのが実態です。就職率の良さから専門学校に進学する学生も多いようですが、福祉系など実習があるような専門学校が4年制であることが多く、大学理系に匹敵する500万円程度かかるところも珍しくありません。
奨学金といっても様々ありますが、最もポピュラーなものとして日本学生支援機構の奨学金があります。
危険なのは、「取りあえず借りられるだけ借りておけば」と目一杯借りてしまうケースです。
例えば、第一種(無利息)を限度いっぱい借りて、有利子である第二種を補完的に利用するケースをみてみましょう。
このケースでは、第一種分の毎月返還額が10,800円、第二種分の毎月返還額が6,210円(最終:6258円)で合計17,010円の返還が2022年10月から2042年9月まで続く見込みです。
奨学金は、借りるのも返すのも親ではなく本人。社会人になって「これからスタート」というときに、既に500万円近い借入金があるので、マネープランの上ではマイナススタートということになってしまうのですが、このことは子供のライフプランに大きく影響します。
本来であれば第一の貯め時と言われる、「社会人になってから、結婚して子供への費用がかかる頃まで」の期間に、貯蓄を加速させることができない、最悪貯蓄ができないことになりかねません。ある程度の貯蓄もできないまま家庭を持ったものの、子供の教育費の準備ができず、子供もまた奨学金を借りる…と借り入れの連鎖となってしまうのです。
さらに深刻なケースも
借りる以前に問題が発生してしまうケースもあります。それは「奨学金が借りられない」場合です。実は、前述した日本学生支援機構の奨学金には所得制限があるのです。世帯人数や家計支持者が給与所得者かそれ以外かなど細分化されていますが、例えば、世帯人数が4人、家計支持者が会社員、私立大学に自宅通学の場合、有利子の第二種であっても、源泉徴収票の支払金額ベースで735万円。第一種では300万円台となっています。
つまり1,000万円程度の収入がある世帯ではこの基準に抵触し、日本学生支援機構の奨学金の場合借りることすらできないのです。収入が2,000万円くらいあればともかく、高めとはいえ、子供2人を奨学金を利用せず大学に通わせるとなると相当な教育資金が必要です。周到な準備が必要なのですが、進学を検討する段階で初めて奨学金のルールなどを知る親も多く、そのときに慌てるケースも少なくありません。微妙なラインで制限を超えてしまう世帯も要注意なのです。
子供に家計の事情を伝えることも金銭教育のひとつ
奨学金だけで学費やそれ以外の費用のすべてをまかなうことは難しく、大抵の子供はアルバイトで補っているのが現状だと実感します。しかし、アルバイトに精を出し過ぎて、学業がおろそかになっては本末転倒。
どの程度アルバイトでカバーするのかも本来は事前にプランニングしておけると良いでしょう。特に実習がある学校、学科に進学する場合、実習が始まると事実上アルバイトが難しくなくなります。奨学金+アルバイト収入を全期間で平準化して使うためにやりくりをすることも必要です。
リアル家計で金銭教育
子供に家計状況を伝えるのを避ける親も少なくありません。ただ、教育資金の捻出をすべて親が背負ってしまうと親の老後資金が不足し、将来子供に面倒をかけることにもなりかねません。
しかしその頃には子供も世帯を持っており、自分の親のために自由にお金が出せる状態ではないかもしれません。前述のアルバイトの件もそうですが、高校生ともなれば自分の家の家計状況を知り、自分ができる協力をしようと考える子もいます。 むしろこれがリアル家計管理というものです。
子供が生まれたばかりで教育資金の準備をスタートした家庭、中学生くらいから真剣に考え始めた家庭、高校卒業後の進学を考えた時点で気づくご家庭と様々だと思います。それにより、できる準備の選択肢は異なりますが、まずは子供と話し合い、学業に支障のない程度のアルバイトでどれくらいまかなえるか、そして本当に必要な金額はどれくらいかを見積もり、最終的にいくら奨学金を借りて、いくら親が準備をするのかと決めていくことが重要です。
親のライフプラン、子供のライフプランを見据えた借り入れなどはファイナンシャル・プランナーなどの専門家に相談しても良いでしょう。ライフプランなき借り入れは最もやってはいけないことです。
鈴木暁子
ファイナンシャル・プランナー(CFP認定者)。キャリアコンサルタント。FPオフィス Next Yourself代表。「多様化するライフスタイルに応じたライフプラン・マネープランづくりが重要」という視点で、企業、自治体、大学オープンカレッジなどで年間約50回のセミナー・講演を行うほか、新聞、雑誌・WEBなどで精力的に情報発信をしている。
「お金はいい使い方をしてこそ活きる」をモットーに、これまでに数百件の家計診断のほか、 個人コンサルティングも行っている。資産運用、ライフプランニングを得意とし、特に共働き夫婦のライフプランニング、リタイアメントプランニング、高齢期のお金と住まい、相続設計に力を入れている。著書に『100歳まで安心して暮らす生活設計』(実業之日本社)。