前回のお話から、システムトレードにおいて継続することの重要さはご理解いただいたものと思います。しかしながら、連続の損失や勝ち負けを繰り返すだけで利益が積み上がらない停滞期が続きますと、その売買ロジックに対する信頼感は薄くなってしまいます。また、そのような状況が続きますと「面白くない」という気持ちにもなってしまうことでしょう。
残念ながらこれを合理的に制する方法は存在しませんが、一つの手段として、複数の売買ロジックによってポートフォリオを組むことが有効になるかも知れません。また、停滞期に陥っていると思われるタイミングで、取引量を最小限に抑えることも考えられるでしょう。いずれにしてもシステムトレードでは、そうした状況に遅かれ早かれ遭遇する宿命にあることを認識しておく必要があります。
売買ロジックの"癖"の認識が重要なポイント
もう一つ、売買ロジックには"癖"があります。「上昇相場に強い」「下落相場で最大のパフォーマンスが得られる」「凪(なぎ)相場が不得意」などなどですが、これらの癖を認識しておくことも重要なポイントになります。ただし、それはトレードを継続する為の心理的な負担を軽減するものであって、トレードを中断する為の口実にしてはいけません。相場の流れを事前に予知することができるのならば、何の工夫も必要とはしないのですね。
それでは、ここで売買ロジックについて簡単に説明しておきます。「勝つ確率の高い売買ルール」とはいってもそのルール作りを難しく考える必要はありません。基本は二つ、「エントリールール」は新規にポジションを持つタイミングを決めること、「エクジットルール」は保有するポジションを決済するタイミングを決めること、この二つしかありません。
これはコンピューターに頼らなくとも誰でも構築することができます。ただし、その売買ロジックが有効に利益を得られるルールになっているのかどうか、またパラメーターの微調整など、これらは過去データを基に丹念に検証作業を繰り返すことになります。この作業は、コンピューターの力を借りるのが合理的でしょう。また、一旦出来上がった売買ロジックに色々な条件を追加してその期待値を高める作業を「最適化」といいますが、あまりにも多くの条件設定を付加しますと、過去データでは有効であっても、実売買では全く機能しない場合がありますので注意が必要です。
トレードシグナルの利用の有無で「月間平均損益差」が81万円
最後に、システムトレードと裁量取引を比較した場合の損益の違いを比較して見たいと思います。【別表7】をご覧ください。
このグラフはひまわり証券においてトレードシグナル(※)を利用しているお客様と利用していないお客様を比較したものになります。検証期間は2009年4月から2010年4月までで、1トレードあたりの平均損益推移になります。オレンジ色のラインがトレードシグナル利用者、青色のラインがトレードシグナルの非利用者を表しています。グラフの縦軸は損益を表し、上方に位置するほど好成績であることを意味しています。
※ トレードシグナル=システムトレードに必要な構築、検証、自動発注の全ての機能が備わった専用アプリケーション
ここでお断りしておきますが、トレードシグナルの利用者が全てシステムトレードを実行しているわけではありません。また逆に非利用者であっても、システムトレードを採用しているお客様は存在します。従って、このグラフはあくまでも参考であることをご承知おきください。
このグラフから読み取れることは、システムトレードと裁量トレードを比較した場合において、明確に違っているという点でしょう。1トレードあたりの月間平均損益差81万円は決して小額ではありません。このデータだけで断言することは残念ながらできませんが、「"負け組"の敗因は、早目の損切りができないことにある」というこれまでの結論と、このグラフを重ねて考えますと、その差の根本にあるのは利益額の違いではなく、それは損失額の違いにあるという解釈ができるのではないでしょうか。
システムトレードは損切りができない方にとってとても有効な取引手法であると思います。しかし、始めにお話したように万能の道具ではありません。"負け組"の敗因を認識した上でご自身のトレードスタイルを変えることができるのならば、そこにこだわる必要はありません。自分なりの売買ルールを確立し、それを忠実に実行できるのであればコンピューターの力を借りなくともその結果は変わってくるはずです。ですが、「売買ルールを確立し、それを忠実に実行する」、これは紛れもなく「システムトレード」ですね(終わり)。
執筆者プロフィール : 久保修眞(くぼ しゅうま)
ひまわり証券 情報企画チーム マネージャー。大学卒業後、一貫して先物取引やFXを中心とした相場関連業務に従事。30年にわたる経験で培われた相場やトレードに対する深い洞察力をベースに、現在は投資セミナーの企画・プロデュースや、メールマガジン『どるうえざー』の執筆活動などを展開している。著書に『為替取引・7日間速攻ゼミ-誰にでもできる身近な資産運用』(同友館)などがある。