「自動発注機能」により"損切りができない"という難問がついに解決
「システムトレード」自体は古くから存在する手法ですが、この数年のコンピューターと通信技術の飛躍的な向上によって、それまでの一般的な「システムトレード」の形態は劇的な進化を遂げています。その画期的なものが「自動発注機能」といえるでしょう。前回でお話したように、これまでのシステムトレードのネックは、自らの意思によってその注文を入力することにありました。売買サインの発生までは機械的に処理されますので、そこに個人的な相場観やさまざまな感情が入る余地はありませんでした。しかし、いざ発注の段階では、全てがキャンセルされてしまう可能性があったわけです。
「自動発注機能」はその言葉通りに、決められた条件が満たされ、売買サインの出現を受けてコンピューターが自動的に注文を発注する機能です。システムトレードはこの「自動発注機能」とのコラボレーションによって初めて、一般個人のトレードに役立つものになったといえるのです。また、この機能により、時間という制約も克服されることになります。皆さんが睡眠中であっても、コンピューターは忠実に売買サインを執行します。またこれを別の視点から表現しますと、本人の好むと好まざるとに関わりなく、勝手に注文が発注されることになり、この段階において、ついに「損切りができない」という難問題が解決されることとなるわけです。
システムトレードと自動発注機能のコラボにより、「損切りができない」という"負け組"の最大の敗因は、その点において克服されることになりました。しかし、それで全ての問題が解決されるわけではありません。「勝つ確率の高い売買ルール」これを「売買ロジック」といいますが、システムトレードにおいて、この「売買ロジック」は車でいうところのエンジンになります。従って、この良し悪しによりその結果は大きく違ってきます。「売買ロジック」を自分で構築するのか、または既製のものを利用するのか、さらにその構築方法や選定方法も簡単な作業ではありませんが、この辺りの解説に関しては、以前にもお話したように、当コラムでは触れません。皆様のひたむきな研究とたゆまぬ努力に託すものとしておきます。
「利益が得られないから止める」という判断が問題
それでは、ここからは実際にシステムトレードをスタートしてから直面するであろう問題についてお話します。それは、想定していた利益がなかなか得られないという現実です。「勝つ確率の高い売買ルール」を採用してトレードを実行しているはずなのに、当初思い描いていたような利益が積み上がらないとか、時にはトレードの度に損失が拡大してしまうとか、このようなケースはシステムトレードでは頻繁に起こります。その理由は後でお話しますが、ここで問題なのは利益が得られないことよりも、そのトレードを中断してしまうところにあります。「利益が得られないから止める」というこの判断を、間違いであると断言することはできません。しかしそれは、「売買ロジック」そのものに欠陥がある場合を除き、基本的に戒めなければならない行為なのです。
売買ロジックは、先にお話した通り車のエンジン部分ですから、これが故障していては目的地にはたどり着けません。早急に代車や買い替えをする必要があるでしょう。しかしながら多くの場合、思い通りの利益を得られない原因は、もっと単純な所に存在します。
【別表6】をご覧ください。この表は、1回目~12回目までのトレードを縦に並べてあります。「A」から「G」までの横軸は7種類の売買ロジックとお考えください。表にある「○」と「×」の記号は「○」が勝ちで「×」が負けを意味します。
この一覧表を見ていただくと、7種類の売買ロジックでトレードした結果は、どれも6勝6敗で「勝率50%」となっていることが確認できると思います(※注)。途中過程は全て違ったパターンですが、そのゴールである12回目では、同じ「勝率50%」という結果です。従って、どの売買ロジックを選んでも、同じ結果が得られると思われるかもしれません。ところがここに、取引を継続できなくなってしまう"落とし穴"が隠されているのです。
※注 : システムトレードにおける「勝率」は、売買ロジックの優劣を測る一つの項目にしかすぎません。ここでは状況を簡単に把握する為のものとして掲載しています。
再度【別表6】をご覧ください。今度は最後の12回目ではなく、6回目のところで視線を止めてください。そうしますと、全く違う景色になるでしょう。特に「F」のパターンでは6戦全敗ですから、この時点でこのまま取引を継続するには強靭な精神力がなければ難しいと思われます。
ポイントとして認識していただきたいのは、システムトレードは、その途中の過程において、期待値に沿わない結果になる場合があることです。しかもその現象は頻繁に起こり得ることを認識しておく必要があります。システムトレードで「継続ができない」は「損切りができない」ことと同じ意味を持つ行為であるといえるのです(続く)。
執筆者プロフィール : 久保修眞(くぼ しゅうま)
ひまわり証券 情報企画チーム マネージャー。大学卒業後、一貫して先物取引やFXを中心とした相場関連業務に従事。30年にわたる経験で培われた相場やトレードに対する深い洞察力をベースに、現在は投資セミナーの企画・プロデュースや、メールマガジン『どるうえざー』の執筆活動などを展開している。著書に『為替取引・7日間速攻ゼミ-誰にでもできる身近な資産運用』(同友館)などがある。