前回見たように、トレードにおける"負け組"と"勝ち組"との決定的な違いは、利益を得た場合と、損失となってしまった場合での、トレード日数の違いでした。相場には、昔から「利は伸ばせ」とか「見切り千両」という格言がありますが、"負け組"のトレードは利益に対しても、損失に対しても真逆となる結果であったわけです。ただし、この段階ではまだ、結論を導き出すまでの途中の過程にしかすぎません。"負け組"のトレードが、なぜ「損長利短」という結果になってしまったのか、この原因をもう一歩踏み込んで解明する必要があります。
個人別の成績表でトレードの詳細を点検
今回用意したデータは、ひまわり証券で35歳以下の社員を対象に実施した「模擬売買研修」での個人成績一覧です。【別表4】でご確認ください。参加スタッフ全18人の成績になりますが、上段~10番目までが"勝ち組"で、11番目~18番までが想定元本300万円を割り込んでしまった"負け組"となります。この表をご覧いただきますと、総合成績とはまた違った色合いが見えてくるのではないでしょうか。個々のトレード内容を全て解説することはできませんが、"負け組"と"勝ち組"の差となった典型的なトレードをピックアップしてお話したいと思います。
ここで、再確認していただきたいのは、"勝ち組"と"負け組"とのトレード回数になります。前々回の【別表2】で見ていただいたように、"勝ち組"の総取引回数「124回」に対して負け組のそれは「102回」でした。"勝ち組"のトレード数が22回ほど多いという結果でしたが、それは個人別の成績表からも見て取れるはずです。
ちょっと異質に見えるのは17番目の「S君」のトレード数で、勝ち負け合わせて30回は、"負け組"の中では群を抜いて多くなっています。この「S君」についてはまた後ほど触れますが、ここで「S君」のトレードを負け組のトレードから差し引いて再集計しますと、"負け組"の総トレード回数は72回まで減ってしまうことになります。それではなぜ、これほどまでの差が生じてしまったのか、これを考察するのに最も適しているのが、12番目の「Yさん」と15番目の「Nさん」のトレードになります。
YさんとNさんは、典型的な「損長利短」の例
「Yさん」と「Nさん」の取引で共通しているのは、勝率が共に好成績であることですが、ここでは、トレードの平均日数で「負け」の日数に注目してください。
まず「Yさん」ですが、「4回」のトレードで「3勝1敗」、勝率は「75%」となっていて、ここまではとても優秀な成績であるといえるでしょう。しかし、問題はたった1回の損失にあります。唯一の1敗ですが、その1敗に費やした日数は「51日間(土日も含む)」にもなっています。この「模擬売買研修」の研修期間は3カ月でしたから、51日間というのは、研修期間の半分以上もの期間で、損失のポジションを抱え続けていたことになります。
「Nさん」の場合は、「9回」のトレードで「6勝3敗」、勝率は「67%」なのですが、負けトレードの平均取引日数は「36日間」になっています。あくまでも平均ですから、その負けトレードごとに取引期間は違っているものの、延べ日数では3回×36日=108日間も、損失のポジションを維持していた事になります。
「Yさん」と「Nさん」のトレードの違いは、「Yさん」は一つの銘柄を決済してから後に次の銘柄を手掛けるのに対し、「Nさん」は複数銘柄を同時進行で取引していたことです。2人の総取引数の差はこの違いによるものですが、その点を除けばほぼ同じ内容であったと見ることができ、この2人のトレードは典型的な「損長利短」の例になっています。
「損切り」ができなかった"負け組"
結論からお話しますと、"負け組"のトレードにおける問題は、「損切りができない」ことです。仕掛けたポジションが、思惑に反して評価損(計算上のマイナス)に陥ってしまうと、それが評価益になるまで、もしくは損得ゼロ程度の回復を見るまでは、我慢我慢の日々を送り続けることになります。この「損切りができない」ことによって、二つの問題を抱えることになります。
その一つ目は、今回の「模擬売買研修」が期限限定であることから、損失額が拡大したままタイムリミットとなってしまったこと、そしてその二つ目は、そのポジションを維持したがために、他のトレードチャンスを見逃し続けてしまったことです。
この二つの問題の解説は次回にしたいと思いますが、もう一度【別表4】の個人成績一覧をご覧下さい。今度は"勝ち組"の4番目、「Nさん」の負トレードの取引日数に注目してください(※さきほどの"負け組"の「Nさん」とは違う人です)。「13勝1敗」という好成績ですが、ただ1度の負けトレードに「36日間」もの時間を費やしていますね。この結果だけからでは、"負け組"のパターンと同じように見えます。しかしその内容は、実は"負け組"のそれとは全く次元が違っていまして、"勝ち組"の「Nさん」がこのポジションを維持していた36日間、そのほとんどの期間である34日間は評価益の状況になっていました。つまり「利を伸ばす」ことに徹した時間だったと判断することができます。
もう一つ、先ほど後述するとした17番目の「S君」です。「S君」のトレード回数は、他の"負け組"に比較しますと飛び抜けて多いことが確認できると思います。これは今回の「模擬売買研修」が期間限定のコンテストであったことに起因するもので、「S君」は2カ月目を過ぎた時点では第3位のポジションにいました。
しかし、「S君」の望むものはあくまでも第1位、「優勝」の二文字だけでしたので、残り1カ月間を切った時点から、それまでのトレード方針を止めて、逆転勝利を賭けた"必殺トレードモード"に突入したのです。結果は、その順位が示す通りの玉砕となってしまいましたが、「S君」のトレードが他の負け組と明らかに違っているのは、このような理由があったからなのです(続く)。
執筆者プロフィール : 久保修眞(くぼ しゅうま)
ひまわり証券 情報企画チーム マネージャー。大学卒業後、一貫して先物取引やFXを中心とした相場関連業務に従事。30年にわたる経験で培われた相場やトレードに対する深い洞察力をベースに、現在は投資セミナーの企画・プロデュースや、メールマガジン『どるうえざー』の執筆活動などを展開している。著書に『為替取引・7日間速攻ゼミ-誰にでもできる身近な資産運用』(同友館)などがある。