女の子のノリについていけないのは声が低いせい?
女の子としてのノリや文化に今ひとつついていけない原因の大半が、声の低さにあると思っていまして。こもった声質で、「ま行」を雲で覆ったような発声をするから、だいたい何を答えるときも「むぁー」という雰囲気になる。
バスケットボールの試合なんかでは最後にみんなで「ありがとうございました!」と言うところを、「むぁーむぁーむぁーした!」くらいで誤魔化してきましたし、自分の名前を伝えようとして、「むぁさえです(アサイです、と言っているつもり)」「マサイさん?」「あ、いや、むぁさえです…」「あ、アサエさんですね」「あー…いや…」と名前ひとつでちょっとした大仕事になるのが常。ジャイアンは「ボエー」、カイジは「ざわ…」、私は「むぁー」。
このように、声帯からむぁーむぁーした声しか出てこないとなると、女の子同士でキャッキャとよろしくやることに及び腰になってしまうのです。『セーラームーン』だって『らき☆すた』だって、女の子がたくさん出てくるアニメはみんな声が高い(そもそもアニメキャラは声が高いものと相場が決まっているが)。「むぁーむぁー」言いながらお仕置きするセーラー戦士なんて嫌すぎる。
何より、声が低いと、どうしたってテンションが低く見えてしまいます。何をするにも声の低さで"女の子の集団"という世界観を壊してしまうのではないか、足を引っ張ってしまうのではないか――。こんなだから、「○○ちゃん大好きー」などと言いながら女同士でベタベタ触り合う催し物なんかとも無縁でやってきました。あれは、一定以上の声とテンションを持つ選ばれし者だけの儀式だ、と。よそはよそ、うちはうち。
スキンシップはちょっとした性の疑似行為!?
と、すべて声が低いせいにして雑に片付けていた案件だったのですが、声やテンションとはまったく別の意味合いを持つこともあるのではないか、との考えに至る出来事が先日ありました。
そのY子は例によって声は低く、どちらかというとテンションも低いほう。女子同士のじゃれ合いとは対極に位置するようなタイプです。が、その日のY子は様子が違った。まあ、ありていに言うと、Y子、発情していました。
その場にいたのは全員女子だからいいのだけど、右から左へスキンシップを求めること痴女のごとし。さかりかさかりじゃないかで言えば、どう見てもさかりがついていたY子に、されるがままな丸腰の私たち。聞けばY子は6年ぶりに彼氏ができたそうで、この日私の中で、女子同士でベタベタするのはちょっとした性の疑似行為なのではないかという仮説が生まれました。
「女の子同士のスキンシップが多い」というのは、女子校でよく見られる特徴とも言われています。校内に異性がおらず、もてあまして気味な欲求が、スキンシップ行為として表出するのでしょうか。だとすれば、彼氏ができたばかりで、"さかりたい盛り"のY子の行動にも合点がいきます。
人恋しさと欲求のはけ口に……
しばらくたったまた別のある日、普段から"自分は結婚欲が強い"と喧伝しているS子と飲んでいたときのこと。泥酔したS子は、私に向かって濃密なスキンシップをし始めました。最初は抱きついていただけだったのが、首、肩、鎖骨、と手の位置の雲行きが徐々に怪しくなっていき、この先進むか進まないかで一瞬の逡巡。目が合うS子と私。ドラクエでたとえるなら、仲間になりたそうにこちらを見ていたS子。「いいえ」を選べなかった私。
こうしてやすやすと侵入を許したわけですが。まさぐられながら私は、これはS子の溢れんばかりの人恋しさや欲求のはけ口にされている「都合のいい女なう」と確信。ちなみに、乳どころか、どちらかというとそこ首、いわゆる乳の首にあたるところですから……ね、という段階になったときは、さすがの私も「そこはその……」と若干の抵抗を見せたのですが、持ち前のこもった発声により、訴えは虚しく空を切ったのでした。
<著者プロフィール>
朝井麻由美
フリーのライター・編集者。主なジャンルはサブカルチャー/女子カルチャーなど。体当たり取材が得意。雑誌「ROLa」やWeb「日刊サイゾー」「マイナビニュース」などでコラム連載中。近著[構成担当]に『女子校ルール』(中経出版)。Twitter @moyomoyomoyo
題字イラスト: 野出木彩