賑やかな大都会ロンドンをしばし離れ、今度はロンドンの郊外の長閑なエリアへ出かけることにしましょう。ちなみに、ロンドン中心部をインナーロンドン(Inner London)と呼ぶのに対し、ロンドン郊外はアウターロンドン(Outer London)と呼ばれています。今回は、ロンドナーも休日に家族連れで訪れる、アウターロンドンの緑あふれる人気エリア、グリニッジとリッチモンドをご紹介します。

まずは、グリニッジ。そう、「世界標準時」でおなじみの旧王立天文台(Old Royal Observatory)のある場所です。ロンドンの中心部からは、DLR(ドッグランズ・ライト・レイルウェイ)でカティー・サーク駅下車、または地下鉄やリバーボート(片道約1時間)で行くこともできます。

グリニッジにある旧王立天文台

テムズ河沿いに発展した河港都市のグリニッジは1997年に世界遺産に登録されています。テムズ河を背にして、正面に広がる丘全体がグリニッジ・パーク。観光客に人気のある場所ではありますが、同時に地元の人たちの憩いの場ともなっています。ピクニックをしたり、芝生に寝転んで読書をしたりと、それぞれ思い思いの時間を過ごしている地元の人たちを見かけることでしょう。小高い丘の上からはテムズ河対岸のドックランズを中心に、ロンドン市街を見渡すことができます。国会議事堂を燃やそうとした火薬陰謀事件にちなんだガイ・フォークス・デイ(11月5日)や大晦日に、花火を見て楽しむ人たちもたくさんいます。

天文台はグリニッジ・パークの緩やかな坂を登った丘の上にあります。グリニッジ標準時(Greenich Mean Time)を刻む24時間表示の時計は天文台の入り口近くの壁に埋め込まれています。その近くの足元には金属製の子午線(東経・西経0度)が埋め込まれていて、この線上に立ち、東半球と西半球をまたいで記念撮影をする観光客でいつもあふれかえっています。

グリニッジ旧天文台。訪れる観光客が後を絶たない

グリニッジ子午線を示す、オブジェ

(左)天文台のすぐ側に埋め込まれた、グリニッジ子午線 (上)グリニッジ子午線。各国の主要都市の経度が記載されている

グリニッジ子午線をまたいでパチリ。ここではよく見られる光景だ

港町のたたずまい溢れるグリニッジは、昔から王室に愛されてきたエリア。かつて王室領であったグリニッジ・パークの敷地内には、旧王立天文台のほか、旧王立海軍大学、国立海洋博物館、クイーンズ・ハウスなどの王室にゆかりのある歴史的建築物があります。グリニッジのランドマーク的存在であったカティー・サーク号が2007年5月に炎上してしまったのは、記憶に新しいところ。テムズ河沿いに堂々と停泊していたカティー・サーク号は、中国からのお茶を運ぶ船として使われ、その役目を終えた後は、ここで博物館として航海時代の資料などが展示されていました。

普段から観光客の多いグリニッジですが、さらに多くの人たちで賑わうのが週末。BR(英国国鉄)グリニッジ駅からテムズ河岸にかけて、いくつものストリート・マーケットが開催されます。アンティークの他、ハンドクラフト、古着、本、日用雑貨などのストールが軒を連ね、隅から隅までじっくり見て歩くのは楽しいもの。私も根気よく回って、ここでお気に入りのアンティークのアクセサリーとティーストレーナー(茶こし)を見つけました。この宝物探し感覚が最高で、また次も掘り出し物を見つけに来よう、と思わずにはいられません。

一方、テムズ河の南西部に位置するリッチモンドは、昔から高級住宅地として知られるエリア。王室をはじめ、裕福な人たちがこぞって優雅な邸宅を構えていました。豊かな自然とテムズ河に囲まれたリッチモンドを一度訪れてみれば、なぜこれほど人気のある場所なのか、その理由がすぐわかるでしょう。

リッチモンドは、8つのロンドンの王立公園のうちの2つがある、なんとも贅沢なエリアだ。その1つが1,000ヘクタールというロンドン最大の公園、リッチモンド・パーク。その歴史は古く、かつてチャールズ1世が狩猟場として使っていたこともある場所で、その名残で今も鹿の群れが生息しています。まさに手付かずの自然がそのまま残された公園なので、人工的な日本の公園からは想像しがたいかもしれません。

グリニッジの天文台と同様、世界遺産として登録され(2003年)、世界中のあらゆるジャンルの植物を見ることができるキュー・ガーデンズ(王立植物公園)、ヘンリー8世ゆかりの宮殿、ハンプトン・コート宮殿もリッチモンドを代表する名所といえるでしょう。

ロンドン市民の憩いの場、キューガーデンズ

あひるの親子もキュー・ガーデンズをのびのびと歩く?

キュー・ガーデンズの温室、パームハウス

キュー・ガーデンズ。季節の花々が美しい

リッチモンドの中心部には高級住宅地に似つかわしく、高級ブティック店やおしゃれなショップ、レストランがあちこちにあります。近隣の人たちにも人気で、お洒落な雰囲気を味わえるでしょう。リッチモンドへは地下鉄や列車も出ていますが、リバーボートで行くのが1番楽しいかもしれません。夏季の限定で、テムズ河のウェストミンスター・ピアからリッチモンドへ向かうボートが運航しています(所要約1時間)。

グリニッジもリッチモンドも魅力的な街なので、丸1日かけて、のんびりと訪れてみてください。次回は、いよいよロンドンを飛び出し、学問の街ケンブリッジへ向かいます。お楽しみに!