ITジャーナリストの久原健司です。前回、地方創生にITを活用した秋田県湯沢市の例をご紹介しましたが、今回は島根県隠岐郡海士町の例についてお話しします。
6.小規模校集合体バーチャルクラス(クラウド遠隔授業システム: 島根県隠岐郡海士町)
海士町は島で、大学がありませんので、進学する高校生は島外へ出てしまいます。そこで、町では持続可能な地域づくりに必要不可欠な人づくり(グローカル人材の育成)をテーマとして、ICTを活用して遠隔授業を行いました。中学生向けに近隣の島と繋ぐ遠隔授業、高校生向けに全国と繋ぐ遠隔キャリア教育を実施して、参加した生徒からは「また参加したい」「継続して交流したい」「他の地域とも交流したい」といったアンケートの回答があり、全国から協働へのオファーがあったそうです。
確かにインターネットのなかった時代は、地方に住んでいると、今でいう林修先生のような有名な塾講師に勉強を教えてもらうことは難しかったです。それが今は、日本全国で遠隔授業を受けることは技術的に可能になりました。しかし、可能になったとはいっても、座学で学んで身につける学力ももちろん大事な一方、例えば、体育や部活のような活動は遠隔授業では難しいでしょう。単純に学力ということだけでは解決していますが、それ以外は、このサービスでは解決できないと思います。
このプロジェクトは「グローカル人材」を育てることが狙いのようで、地域の担い手を作りたいということはわかります。しかし、遠隔教育ができたとしても、他にもっと魅力のある土地があれば、地元からは離れていってしまうのではないでしょうか。いつかは地元に戻って起業して貢献したいという熱い志を持った少年少女はいるはずです。それでも、多くが戻らないとすれば、それはその土地に魅力がないということです。人材を育てるよりも前に、地域の魅力を育てることのほうが先ではないかと思います。
町に魅力があれば人材は来てくれる
もともと魅力がある土地であれば、別の場所からすすんで「グローカル人材」になりたいとやってくると思います。私の友人にも、「ウィンドサーフィンが好きだから鎌倉に住みたい」という人がいます。結局、その町にチャーミングさがあれば、町がわざわざ呼ばなくても、向こうから喜んで来てくれるのです。お金をかけて、人材を外に出さないように囲い込むのではなく、外から来たい人がここで生活するにあたって足りない部分は補えているので、どんどん外から来てくださいというような逆の発想のほうが、より効果的なのではないでしょうか。
確かに、少子高齢化で大学もなく良質な先生もいないという状況の中、遠隔で授業を行うことによって学力に関しては補うことができる。わざわざ外へ行く必要がなくなるのは、すごく良いことだと思います。しかし、それとグローカル人材を求めることは別問題だと思います。
あるいは、全国からネットを使って勉強できるのであれば、島や島根県内だけではなくて、世界中で授業を受けられるようにしたらいいのではないでしょうか。遠隔授業の中に、島根の魅力・情報を発信するような内容、みんなが将来、島根で働きたくなるとか、島根に行きたくなるような仕組みがあれば、素晴らしいと思います。そうすれば、世界中の人に地元の地域づくりに貢献してくれるような人材教育をすることに繋がるのではないでしょうか。授業を受けた人の何分の1かわかりませんが、本当に島根に移住してきてくれるかもしれません。そうなれば、それこそが本当のグローカル教育ではないかと思います。