ITジャーナリストの久原健司です。前回、地方創生にITを活用した和歌山県白浜町の例をご紹介しましたが、今回は秋田県湯沢市の例についてお話しします。
4.子育てシェアリング事業(秋田県湯沢市)
湯沢市の子育てシェアリング事業は、ネットサービスで「子育てシェア」の普及に取り組む企業「アズママ」と協定を締結し、同社のサイト内「子育てシェア」のプラットフォームを活用しています。知人等で作るグループが各自登録し、預かりのお願いをすると、登録している友人・知人が、自宅で託児してくれるシステムです。ファミリー・サポート・センター事業を補完するツールの一つとして活用しており、利用料は湯沢雄勝広域圏に限り1時間400円だそうです。
もともと少子高齢化で労働力が足りないので、主婦の方々も働きましょう、という国の施策がありました。その結果、働く女性の割合が7割を超えたと言われています。そんな時代に働く女性の需要から生まれたアズママのサービスは素晴らしいと思います。何がすごいかというと、アプリで、物のシェア、ことのシェア、そして託児のシェアと3段階に分かれているところです。
小さな子を育てている親は、子どもが急に熱を出した時とか、残業になって保育園の迎えに間に合わない時、ちょっと買い物に行きたい時など、託児で困ることが多いのです。
また、着なくなった子ども服を捨てるのはもったいない。誰かにあげたいと思ってはいるものの、実際にはなかなかあげにくい。一方で、欲しいという需要もある。そういう時にアズママのアプリは役に立ちます。
知らない人にいきなり託児を頼むということはハードルが高いけれど、その前に物をあげたり、もらったりすることでコミュニケーションができて、仲良くなるという段階を踏んでおけば、かなりハードルが下がると思います。しかも、きちんとお金を払う。お願いするほうも数百円と明確で少額なので気が楽です。
アプリが地域コミュニティへの入り口に
夫の転勤などで、馴染みのない地方に住まなければいけなくなった時、こういうアプリを使うことによって、知り合いを作ったり、コミュニティに入ったりすることへの負担が軽減されますし、その地方で積極的に働くことにもつながると思います。
そもそも各地方にファミリー・サポート・センターがあることすら知らない人もいるでしょう。でも、そうした人たちがこのアプリを利用することで、日本全国の巨大なコミュニティに入ることになる。千葉でこのアプリを使った人が、札幌へ行ってもアプリで同じようにサービスを利用できるわけです。利用する側としたら、アプリは役所へ足を運ぶよりも、ずっと使いやすいと思います。
こうしたサービスが地方自治体と組むのはいいことです。アズママのサービスは、知り合いであるとか、すでに人間関係が構築されている前提で、物のシェア、ことのシェア、そして託児のシェアを行うため、過度な相互評価機能はサービスとして必要ないかもしれませんが、引っ越してきて知り合いが少ない人は、アズママのサービスを積極的に利用できないと考えます。よって、地域に溶け込む一つの手段として、アズママのサービスを利用する文化を作るためには、各商店街や学校などの教育機関も、和歌山県白浜町のように積極的に参加してもらえるような仕組みがあると、さらによいサービスになると思います。
ぜひあらゆる自治体が積極的に取り組んで、声がけをして、興味がある人に登録してもらいたいです。地方自治体は、他の地域から移住したいと思った人に対して、本当に来てほしい、定住してほしいと思うのなら、補助金を1人いくら出すとか、家を無料で提供するとか、そういうことよりも、本当の安心安全や防災などにもつながるコミュニティへ入りやすくすることのほうが大事だと思います。