これまでの記事で、地元の伝統料理・食材をアピールするご当地カレーを見てきました。

最終回となる今回は「自社をアピール」するご当地カレーで地域の魅力を発信しているパターンを見ていきます。びっくりするような食材やコンセプトのご当地カレーが飛び出す、ある意味でご当地カレーらしい商品がたくさん登場します!

  • 自社の商品を使ってご当地をアピールしたカレー

ご当地をアピールするために、いろんなアプローチでカレーを作っている人たちがいるのを、これまでの連載で見てきました。みんな自分たちのご当地に愛着を感じて、何とか広く全国にその魅力を届けたいという思いでいっぱいです。

ご当地カレーを開発・販売している人には、実にいろんなタイプがいます。協会や組合が作っている場合もあれば、個人や法人でご当地アピールのために販売している人も。今回は、販売者のビジネスに関連したご当地カレーをご紹介します。

トロピカルドラゴンカレー(鳥取)

ブランド牛を育成する牧場がご当地カレーを作るパターンは、前回の記事で取り上げましたが、ここで紹介する商品は、鳥取県にある「あかまる牛肉店」という肉屋さんが開発したご当地カレーです。

  • 正方形のパッケージが特徴的なご当地カレー。肉屋ならではのこだわりの味が楽しめる

トロピカルドラゴンカレーのパッケージは、レトルトカレーにしては珍しい正方形。これにはちゃんとした理由があって、ゴロっとした塊の肉が入っているから。肉屋が作ったご当地カレーですから「主役は牛肉」というわけです。

実際、内容量300gのうち150gが牛肉というから、食べ応えもバッチリ。和牛オリンピックで肉質日本一に選ばれた鳥取和牛の旨味を存分に味わえます。

その代わり、お値段がちょっとアレです。1500円(税別)と他のご当地カレーに比べても高価です。ただ、レトルトカレーとは思えない量と品質の牛肉を楽しめます。それもそのはず、1500円でもギリギリ採算がとれるレベルのようで、決して儲かってはいないのだとか。鳥取和牛と鳥取をアピールしたくて販売しているそうです。

ちなみに、なぜドラゴンと名が付いているかといえば、地元にある東郷湖で毎年夏に「ドラゴンカヌー大会」が開催されるから。沖縄産のドラゴンフルーツを使用したトロピカルな味わいも、ドラゴンカヌーが由来だとか。ご当地カレーとして徹底した姿勢を貫いています。

桃農家の桃カレー(甲州市・山梨県)

肉屋のご当地カレーに続くのは、農園が作ったフルーツカレー。なんと桃を具にした変わり種カレー。果たして、お味の方はいかがなものでしょうか?

  • ほんの少しの傷みで出荷できない桃を、有効活用すべく開発された商品

フルーツカレーは、インパクトが強いですね。「いちごカレー」は有名で全国のいちごの産地でつくられており、一定の支持を得ています。いちごでカレーができるなら桃でもいいだろうと言ったか言わなかったかは知りませんが、甲州市にある「ありが桃園」が自分たちで栽培した桃でカレーを作ってしまった。

この桃カレーを試食したとき、正直言って気乗りがしなかった。桃で作ったカレーが美味しいわけがない、そう思っていたい。しかし、意外にイケる!

桃の甘味は感じるがルウの風味を消すわけではなく、カレーに馴染んでいる。ゴロゴロ角切りの桃の実も軟らかく煮てあって、カレーの具として違和感はありませんでした。インドでカレーにマンゴーを入れることに着想を得たとか。山梨観光土産品コンクールで「山梨県知事賞(最優秀賞)」を受賞した実力は伊達ではありませんでした。

同じフルーツカレーでも「北海道ハスカップカレー」は、失敗例かな。ルウが紫色をしている時点で食欲がわきません。

  • 北海道の名産ハスカップを使ったご当地カレー。ハスカップ由来の酸味が存在感を放つ

のりクロ黒カレー(有明・福岡県)

自社製品をカレーにした食品メーカーもあります。ご当地のアピールだけでなく、自社の商品をしっかりアピールすることも大事です。

  • 漆黒と表現しても差し支えないレベルで黒いルウのインパクトがすごい

「のりクロ」は、有明海に面した福岡県柳川市にある食品メーカーが製造・販売する有明海の海苔と九州の名産品「ゆず胡椒」と酢をブレンドした商品です。

そう、このご当地カレーは、自社製品をカレーにしたもの、けれども、海苔へのこだわりが徹底しており、有明海産の「秋芽一番摘み」を使用。有明海の海苔といえば、全国的に有名ですから、これもご当地カレーの一つのカタチといえましょう。

海苔の佃煮を使っているから、カレーのルウが真っ黒。ゆず胡椒の風味が強くて、意外に海苔は主張してこず、ご飯に合う食べ物。「のりクロ」でご飯を食べてみたくなって、後日、有楽町の東京交通会館にある福岡県のアンテナショップで「のりクロ」を購入。バッチリ戦略にはまりました。

ちょっと想像を絶する珍カレー

ご当地カレーを50種類食べ比べた中で「これはちょっと…」と絶句したご当地カレーを、最後に2つ紹介して終わりましょう!

  • 天平時代の食材で作った「1300年カレー」。筆舌に尽くしがたい味が新境地に誘う!

カレーは、釈迦がスパイスを合わせて作った薬膳が始まりだと言われているらしく、752年に行われた「東大寺大仏開眼供養」で、招かれたインド僧が薬膳カレーを振る舞っていたとすると、日本で初めてカレーを食べたのは天平時代の奈良の人たち…、そんな妄想が生んだ商品が「1300年カレー」。里芋・レンコンなどの野菜、スパイス、もち粟を使った創作薬膳カレーなのですが、「1300年でカレーの概念はここまで変化するのか?」と考えさせるぐらい、異次元の味。こんな味の食べ物、筆者は生まれて初めて食べました。

  • マリンブルーカリーのインパクトが強すぎる。各種メディアでも紹介される珍カレー

北海道北見市にあるインド料理レストラン「クリシュナ」の名物カレーをレトルトにした商品。冬のオホーツク海を表現したマリンブルーカリーに、流氷に見立てたホワイトチキンカリーを盛りつけて食べる新感覚カレーなのだそうですが、真っ青なカレールウは新感覚すぎます。

オホーツク海の青さと海面に浮かぶ白い流氷の景色に魅せられた料理長が「何とかこの海をカレーで表現できないものか」と試行錯誤して完成させたらしいのですが、百歩譲って、やりすぎ!

  • アイデアは素晴らしいが、青いカレールウは食欲をそそられない…

5回にわたって、いろんなご当地カレーを「社会科」の観点で整理してご紹介してきました。消費者である私たちは、ご当地カレーを通して、地域の魅力に接するだけでなく、新しい知識をたくさん仕入れることができます。ご当地カレーはコミュニケーション手段であり、大人の社会科学習でもあります。

ご当地カレーの多くは、ネット通販でも入手できます。気になったカレーがあれば、ぜひお取り寄せして試してみてください。そして、そのご当地カレーについてGoogle先生からいろいろ教えてもらえば、世界が大きく広がります!