「その土地の食材を使用」しているか、「その土地の郷土料理をアレンジ」しているレトルトカレーを「ご当地カレー」と呼んでいる。

前回の記事では「名産・名物食材を使用するパターン」と「他にはない珍しい食材を使用するパターン」で、その土地の食材をアピールした「ご当地カレー」をご紹介しました。

今回は、ご当地食材を使った「ご当地カレー」の中でも、ブランド牛、ブランド豚にフォーカスして、ご当地カレーの魅力をご紹介していきます。ブランド牛、ブランド豚を使ったご当地カレーは、美味しいカレーが多いのも特徴。今回は、美味しいレトルトカレーのオンパレードです。

  • ご当地食材をアピールしたカレー[その2]

「ブランド牛」「ブランド豚」とは?

「ご当地カレーは社会科だ!」と唱えている筆者ですが、実際にご当地カレーについて調べているうちに、いろんなことを新たに知りました。前回の記事で取り上げた「ぶしゅかん」や「ねぎにら」といった野菜、あるいは沖縄料理「いなむどぅち」や山梨の伝統料理「ほうとう」について調べると、さまざまなことがわかり世界が広がるのを実感します。

ご当地カレーについて調べた中で、最も勉強になったのは「ブランド牛」「ブランド豚」について。

銘柄牛とも呼ばれますが、「松阪牛」「神戸牛」など、日本各地にブランド牛というのはたくさんあります。東京以外の46道府県すべてにご当地ブランド牛があるらしく、その数なんと320銘柄以上だといいます。

それぞれのブランド牛に「特定の基準」があり、それを満たした牛肉が「○○牛」を名乗って販売できるシステムなっています。その基準はブランド牛によって異なります。つまり、「松阪牛」と「神戸牛」は異なる基準で選ばれているわけですから、どちらが優れているというものではありません。それぞれのブランド牛認定システムが、自分たちの基準で品質を保証しているわけです。国や都道府県など公的な機関によって認定されているものではないのを筆者は初めて知りました。

  • 美味しいカレーがたくさんあるブランド牛・ブランド豚のご当地カレー

「地理的表示保護制度」で知的財産として保護

それぞれのブランド牛が独自にブランドを作っているといっても、農林水産省が進める「地理的表示保護制度」に登録されているブランド牛の名称は、国によって知的財産として保護されています。

農林水産省のホームページによると、地理的表示保護制度とは、長年培われた特別の生産方法や気候・風土・土壌などの生産地の特性により、高い品質や評価を獲得するに至った産品のうち、品質や社会的評価など確立した特性が産地と結び付いている産品について、その名称を知的財産として保護する制度です。

現在は、但馬牛、神戸ビーフ、特産松阪牛、米沢牛、前沢牛、宮崎牛、近江牛、鹿児島黒牛、くまもとあか牛の9品が登録されています。地理的表示保護制度では、牛肉以外の産品も登録されています。「知っている産品がある!」「あの産品は登録されていないの?」といったいろんな感想が生まれて楽しいですよ!

ブランディングのために作られる「ブランド豚」

ブランド牛とはちょっと事情が異なるのが「ブランド豚(銘柄豚)」。日本全国に400種類を超えるブランド豚があるそうですが、ブランド牛に比べるとよりブランディングを意識した使われ方をしているようです。

豚肉の生産・流通に関わる人も、自分たちが丹精に込めて育て消費者に届けている豚肉の良さを知ってもらうためにブランド豚を作ってアピールします。このブランドを作ってアピールするという点で、ご当地カレーと相性がいいのです。

そのため、日本各地にはブランド牛・ブランド豚の名前を使ったご当地カレーがたくさんあります。そして、どれも高品質の牛肉・豚肉を使ったビーフカレー、ポークカレーですから、とても美味しいです!

山形牛 ほぐし肉のビーフカレー(山形)

社会科のお勉強はここまで!

ここからは美味しいご当地カレーを紹介していきます。まず登場するのは、ブランド牛の美味しいカレー。

  • 日本三大和牛の一つ「米沢牛」と同じ山形県産の牛肉ブランド「山形牛」を使ったカレー

商品名に書いてある通り、この商品は山形県産のブランド牛「山形牛」を繊維状にほぐした肉を使ったカレーです。この"繊維状にほぐした"ことがポイントで、薄切りでもない、角切りでもない、ひき肉でもない、独特の食感が楽しめます。

正直な話、ご当地カレーの中には美味しくない商品もある。しかし、この商品はご当地カレーの範疇を抜け出して、純粋にカレーとして美味しい。欧風カレー寄りの味付けで、肉の旨味を存分に楽しめます。美味しいビーフカレーを食べたい人にはオススメです。

山形牛は、日本三大和牛の一つ「米沢牛」が全国的に広まった影響で山形県内で肉牛生産が盛んとなり、1962年に山形県内産肉牛の品質・規格を統一するために「総称 山形牛」と銘名され生まれたブランド牛です。米沢牛も山形牛の一部ということになります。但馬牛の中でも品質の高いものを「神戸ビーフ」と呼ぶのに似ています。

黒曄牛ビーフカレー(熊本)

続いてブランド牛を使ったカレーですが、この商品はあまりメジャーではないブランド牛。というよりも、こだわりの牛肉を作っている牧場が、独自ブランドを立てて販売しているご当地カレーです。

  • 愛情をこめて育てられた良質の牛肉がゴロっと入っているボリューム感が魅力|

黒樺牛(くろはなぎゅう)は、熊本県と宮崎県の県境近く、海抜536メートルの山あいにある自然あふれる小さな集落の中にある「人吉矢岳牧場」で育てられた黒毛和牛。美味しく安全・安心な牛肉を提供するには「牛そのものが健康でなければならない」というポリシーの下、子牛に母牛の母乳を与え、山麓の地下600mの湧き出る地下水を飲んで育ちます。

そんな黒樺牛のバラ・モモ・肩ロース・むね肉をふんだんに使用した贅沢カレーは、大きくカットされた高級牛肉がゴロゴロ入っています。その大きさにびっくりします。これだけ大きな牛肉をカレーに入れることができるのは、自社牧場だからできる業だといえます。

牛テールスープを使ったルウは、たっぷりの玉ねぎとパイナップル果汁を上手に生かし、旨味の中に甘さを感じさせる仕上がり。開けた瞬間に牛肉の香りと玉ねぎの甘い香りが立ち上る。ホテルのシェフが監修しただけあって、高級ホテルカレーとも呼べる出来栄えです。

びえい豚カレー とろとろ煮込み(美瑛町・北海道)

ブランド牛の次は「ブランド豚」。次に紹介する商品は、ブランド名が付いているのですが、インターネットで調べてもほとんど情報が出てこないブランド豚を使った商品。なぜそんな商品を取り上げるかといえば、圧倒的に「美味しい!」からです。

  • 東京有楽町・東京交通会館内の美瑛町アンテナショップでイートインでも楽しめるご当地カレー

北海道のほぼ中央に位置する「美瑛町」は、美しい丘の景色を目当てに年間226万人に上る観光客が訪れる観光の町として知られています。十勝岳連峰のふもとに広がる大地に石狩川の支流が流れ、昼夜の寒暖差が大きい典型的な内陸性気候とあいまって農業の町としても有名です。じゃがいも、アスパラガス、スイートコーンなど農産物の栽培が盛んです。

美瑛豚は、そんな美瑛町で育ったブランド豚。しかし、美瑛豚についての情報はほとんど見当たりません。ただ、この商品はJAびえいが開発したご当地カレーで、JAびえいでは、2016年から「食卓に、大地を。」をコンセプトに、オリジナル加工品のブランド「Biei Table」を展開。このカレーも「Biei Table」シリーズの一つです。

筆者がこのご当地カレーに出会ったのは、東京有楽町にある東京交通会館。全国各地のアンテナショップが集まることで有名な場所で、美瑛町のアンテナショップもあります。筆者はそこでびえい豚カレーを食べて以来、美瑛豚の大ファンになりました。

豚の脂の甘味が染み出したカレールウは、黄金色にキラキラと輝いています。大きな豚肉がゴロっと入っていて、柔らかく調理してあって、これまた美味。数あるご当地カレーの中でもナンバー1と断言したくなるぐらい美味しいです!

三沢パイカカレー(三沢・青森県)

もう一つ、びえい豚カレーに匹敵する美味しいポークカレーを紹介しましょう。しかも、「パイカ」という一頭からわずか500グラムしかとれない希少な部位を使ったカレーです。

  • アメリカ空軍の基地としても知られる青森県三沢のご当地カレー。商品開発の際に、アメリカ軍からアドバイスをもらったとか

パイカとは、豚バラのすぐそばにあるなんこつ部分のこと。食肉加工の際、バラ肉を切り落とした後に捨てられることが多いのですが、なんこつの周りには上質な肉がたくさんついており、調理法によってはなんこつのコリコリ感と上質な肉がホロホロととろける食感を味わうことができます。

三沢市は有数の養豚生産量を誇り、イベントでパイカ鍋を提供されたのをきっかけに人気に火がつき、いまでは三沢市のご当地グルメとして定着しています。

アメリカンテイストのパッケージデザインからは想像できないほど、本格的に美味しいカレー。ハラミやモツなど肉以外の部位が好きな人にはぜひお勧めしたいです。

ご当地カレーの紹介、今回取り上げた商品はどれもこれも美味しいカレーばかりです。次回はいよいよ最終回。ちょっと驚きの珍カレーの数々をご紹介します。お楽しみに!