旅行先のお土産屋さんで、その土地の特色を生かした独自の「レトルトカレー」を見かけた経験はないだろうか? それぞれの土地の特色を生かしたこれらの「レトルトカレー」は「ご当地カレー」と呼ばれ、実に多彩でユニークな世界を作り上げています。そんな「ご当地カレー」の魅力を、全5回の連載であますところなく紹介します!

  • ご当地カレーは社会科だ!

ご当地カレーとの出会い

ご当地カレーの魅力を紹介する前に、私・竹田あきらとご当地カレーの出会いのストーリーを聞いてください。

ライターとして活動する一環で、私は「同人誌」なるものを執筆しています。同人誌と聞けば「コミケ」「アニメ」「マンガ」とイメージするかもしれませんが、同人誌はアニメやマンガだけではないんです。

マニアックな世界を突き詰めた著者が、自分の好きな世界を自由に表現している同人誌もあります。私が執筆しているのは「食べ物」の同人誌です。

これまでに書いた同人誌のチラッと紹介しましょう!

  • 130種類の麻婆豆腐を食べ比べたヒット作「この麻婆豆腐がスゴイ!」

  • 53種類のマーガリンを舐め比べた問題作「このマーガリンがスゴイ!」

ご当地カレー専門店「カレーランド」

食いしん坊で好奇心旺盛な性格の私は、食べ物について疑問がわくと、居ても立っても居られず、徹底的に調べ、時にその結果を同人誌にして発表しています。

「ご当地カレー」と出会ったのも、食べ物同人誌を作っていた時です。東京23区内の肉屋さんを巡って「肉屋のコロッケ」を食べ歩くという内容の同人誌の食べ歩き中に、浅草・合羽橋にあるご当地カレー専門店「カレーランド」を発見しました。

  • 「カレー自販機」が店頭に設置されている「ご当地カレー専門店」

  • 店内を見ているだけでワクワクする「カレーランド」

同人誌「このご当地カレーがすごい!」

カレーランドを運営する猪俣夫妻は、ほぼ毎日欠かさずご当地カレーを食べているスゴイ人たち。その数、なんと年間200種類! これまでに全部で1700種類のご当地カレーを食べたといいます。

カレーランドでは、そのなかから厳選した120種類のご当地カレーを販売している店なのですが、カレーランドを見つけた私は、ご当地カレーの世界に興味がわき、猪俣夫妻の協力のもと、同人誌「このご当地カレーがすごい!」を執筆することにしました。

  • ご当地カレーを食べ比べた「このご当地カレーがすごい!」

  • 2日間で50種類のご当地カレーを食べた試食会

「ご当地カレー」の定義とは?

そもそも「ご当地カレー」って何なの? と思う読者もいるでしょう。

「このご当地カレーがすごい!」の執筆で、猪俣夫妻にインタビューをした際に、カレーランドで定めている「ご当地カレー」の定義を知りました。

  • その土地の食材を使用している
  • その土地の伝統料理をアレンジしている

この2つのうちどちらかの要件を満たしていれば「ご当地カレー」と呼んで差し支えないらしい。全国にあるご当地カレーは2000種類とも3000種類ともいわれており、今も新しい商品がどんどん登場しているそうです。しかし、その陰で生産終了になる商品も少なくないのだとか。ご当地カレーの世界は、常に新陳代謝が起こっているから、新しい出会いや発見があって楽しいんです!

ご当地カレーはブランディングツール

ご当地カレーは、桃やメロンを具にしたカレーや、とんこつラーメン味のカレーなど、奇抜な商品も少なくない。中にはかなりインパクトのある商品もあります。そして、50種類のご当地カレーを試食した身として、言わせてもらうなら、すべて美味しいわけではありません! 中には「?」と感じるカレーも。

けれど、ご当地カレーは「美味しい」が目的ではないのです。食べ物なのに美味しくなくてもいいの? と思ってしまいますが、ご当地カレーは「美味しい」以外に重要な使命があるのです。

それは「ご当地のアピール」。そのためには注目されるインパクトがあれば、たとえ不味くても食材や郷土料理のアピールに成功していれば、商品として目的は達成したと言えます。

つまり、ご当地カレーは「ブランディングツール」なのであります!

  • 茨城・鉾田の「メロンカレー」

  • 大阪・日本橋の「とんこつカレー」

その土地を知ってもらうメディア

ご当地カレーはブランディングツールであると同時に、メディアでもあります。

ご当地カレーを通じて「その土地」を知ってもらう役割を担っているということは、その土地の情報を発信しているとうこと。私も「このご当地カレーがすごい!」の執筆を通して、ぶしゅかんやネギニラといった食材の産地を知り、山口県の下関がくじらの町であることを知りました。「うど」や「むかご」など現代人にはあまりなじみのない食材と出会えることもあるそうです。

  • 栃木・宇都宮の「ねぎにらカレー」

  • 山口・下関の「くじらカレー」

取材で知り合った「鯉カレー」の人たち

同人誌を執筆する中で、実際にご当地カレーを開発している人に取材もしました。福島県郡山市で開発が進む「鯉カレー」です。

郡山市は、昔から「鯉食」が盛んな地域で、鯉の生産量が全国の市町村でナンバー1。しかし、そんな事実を県外の人はもちろん、福島県内の人も知らず、「鯉の町、郡山」という認識は広まっていませんでした。

そこで、鯉の町、郡山を全国にアピールするため、市の農林部園芸畜産振興課に「鯉係」が設置され、市と養鯉場が連携して「鯉カレー」の開発に乗り出したそう。私は郡山市を訪問して、市役所の「鯉係」の人と、養鯉場のオーナーに開発中の「鯉カレー」について話を聞き、そのなかで養鯉事業の大変さを知り、鯉食文化の魅力を知ることができました。

  • 鯉の出荷数は年々減っており経営も苦しいという

  • 全国的にも珍しい「鯉の刺身」。郡山駅前の「居酒屋安兵衛」で食べられる

ご当地カレーは、社会科だ!

「このご当地カレーがすごい!」を執筆して感じたのは「ご当地カレーは、社会科だ!」という事実です。知らない食材と出会い、全国各地の名産や名物料理を知る。これはもはや、大人の社会科です!

ご当地カレーがブランディングツールであり、地方の魅力を発信するメディアであるならば、ご当地カレーを探して食べることで、自分の世界を大きく広げることができます。知らなかったことを知れる。ご当地カレーの魅力の一つがここにあります!

「カレーは美味しい」という先入観さえ崩してくれたご当地カレー。次回から実際にどんなご当地カレーがあるか、紹介していきます。