"せともの"の街、愛知県瀬戸市。この街は火の街・土の街と呼ばれ、昔から真っ白な陶土や自然の釉薬が採れるため、やきものの産地として栄えてきました。「ものをつくって、生きる」そのことに疑いがない。それゆえ、陶芸に限らず、さまざまな"ツクリテ"が山ほど活動する、ちょっと特殊なまちです。Iターン、Uターン、関係人口、地元の方……さまざまなスタイルで関わり、地域で仕事をつくる若者たちをご紹介します。

vol.1 ライター・上浦未来

  • ライターの上浦未来です

    ライターの上浦未来です

初めまして。愛知県瀬戸市を拠点に活動する、ライターの上浦未来です。2018年5月、33歳で関東から地元の瀬戸へと帰ってきました。「ゲストハウスますきち」を編集室に、町歩きWebエッセイ『ほやほや』を立ち上げ、2019年7月に弟夫婦が開くパン屋「エムルパン」のPR係も担当しています。これから、瀬戸の連載記事を担当していきますので、よろしくお願いします!

ライターが地元へ帰ると、どうなるのか?

私は関東で10年以上ライターとして、ローカル、グルメ、旅、働き方などに関する記事を、雑誌やウェブなどの既存の媒体に書くことを中心に活動していました。

そんな私が地元へ帰り、何が仕事になるのかなと考えていると、いきなりライター講師としての依頼がありました。まず、トヨタ自動車で有名なお隣の町・豊田市の山間部・旭地区が出す情報誌『シットルカン?』編集部から依頼があり、続いて、多治見の季刊誌『A2(あっつう)』を発行する、岐阜県多治見市の「たじみまちづくり株式会社」さんからお声かけいただきました。地域で媒体をつくるみなさんは、出版のプロというわけではなく、手探りで媒体をつくっていることが多いことを実感しました。

また、講演依頼も。例えば、青森のコラーニングスペース「Heart Lighting Station弘前」(HLS弘前)さんでは、「ますきち」のオーナー・南慎太郎くんとともに、「ローカルは消えていく!?」をテーマに講演。SNSが発達した今、情報格差は薄れ、都会があって田舎=ローカルがあるという感覚がなくなり、好きな地域で生きていけるのではないか? といったお話をさせていただきました。

8月には、地域をテーマにした媒体『TURNS』が企画する、都内で開催される女子限定イベント『Girls Meeting Aichi』で、愛知の暮らしぶりをお話させていただく予定です。感覚としては、これまでは取材をする側でしたが、取材される対象になったんだなと感じています。

地域メディアを立ち上げてみる

  • 瀬戸の町歩きWebエッセイ『ほやほや』

    瀬戸の町歩きWebエッセイ『ほやほや』

地元へ帰るか迷っているとき、瀬戸の外に住む人にとって、瀬戸の暮らしぶりや住んでいる人のことが伝わる情報が、Web上ではなかなか見つからないなと思い、ないなら、自分でまとめようと思い、『ほやほや』を立ち上げました。地元の人、若い人の新しい動きや新店オープン、イベント、インタビューなどを自分の完全な主観で、エッセイという形でまとめています。

「ローカルメディア」と呼ばれる、地域に特化した媒体は、ここ数年、あちこちで生まれています。けれど、ちっとも儲からないので、よほどの思いがあり、鉄の意志がないと、続けられません。ですが、私の場合、やってよかったなと思うこともいっぱいあって、媒体をつくったことをきっかけに、ライター講座の依頼、執筆、瀬戸を紹介するトークイベントやマルシェでのキュレーター依頼など、うれしいご相談もたくさんあったのです!

また、これからは拠点そのものがメディアになっていくと思っています。Web上での情報発信があまりにも増えすぎた今、拠点に来て、みんなで何かを始めること、口コミなどのリアルな情報にこそ、価値があると思ってくれている人が増えているのではないかなと考えたりしています。

地域で「書く」仕事をつくるには?

  • 瀬戸市の中心にある「宮前地下街」

    瀬戸市の中心にある「宮前地下街」

地域でライターを続けるには、「書く」だけでは、足りないなと感じています。身近に「編集者」という存在が見当たらないことが多く、情報発信全般、つまりSNSで発信するのか、冊子をつくるのか、そもそも書く必要は? といった選定に始まり、求められていることはブランディングだなとも感じています。

私がとても苦戦しているのは、地域だと、自分も企画側として一緒につくりながら、話をまとめて外へ発信しなければいけないこと。これまでは、ある種の成功例を追いかけて、うまくいっているみなさんを取材すればよかった。

けれど、今は話し合いのうちに、どんどん中身が変わっていくし、自分の意見も必要になる。というか、発信という意味では最前線になったりするので、難易度がぐっと上がります。地域で何か新しいことを始めようとする人は総じて、動きが早い。トライ&エラーが猛烈に多く、どんどん状況は変化していくので、落ち着いて原稿を書く時間なんてない、という感じです。

お金はあとからついてくる、と信じる

地域で動いていて気づいたのですが、最初からお金が出ることが確定している、ということは稀です。PRにお金はかけられない。それゆえ、場合によっては、自分で調達までする必要があることも。一部のスゴ腕のライターやディレクターさんだと、個人経営の会社で「お金はないけれど、HPを制作したい」という人に対して、補助金の取り方を指南し、「こうやって取ってきて、私にお金回して!」というところまで、伝えちゃったりもしていました。

東京は、出版社が多い分、ある程度の相場がある。けれど、名古屋というか、周りのライターさんや自分のことを考えると、ライター側が依頼者と相談して、決めているという印象です。それはおそらく先ほどお伝えしたように「書く」以外の仕事を自分で担当する必要があるからだと思います。それもあって、まずは人としての信頼を得て、何かしらの相談を受け、「書く」ことも仕事の一部として頂けるのかなと思っています。

仲間がいるって、大切

  • ゲストハウス「ますきち」オーナーの南慎太郎くん(左)

    ゲストハウス「ますきち」オーナーの南慎太郎くん(左)

Uターンの決め手のひとつに、北海道大学を卒業後すぐに地元へ帰り、2018年にゲストハウス「ますきち」をオープンした、オーナーの南慎太郎くんの存在がありました。ちょうど古民家を改修中で、きっと何かが生まれる場と直感し、編集室として借りることを決め、活動を始めました。今となっては、その判断がとてもよかった。南くんが1年かけて、つくりあげた人脈を紹介してもらったおかげで、ものすごい出会いがあり、あっという間に知り合いだらけに(笑)。

ひとりだと、ちょっと心が折れることも、誰かと一緒に始めると心強い。瀬戸がいいな、と思うのは、ますきちを起点に考えて、徒歩10分圏内に少なく見積もっても30人は、自分で何かを始めるか、あるいは、自営業で働くクリエイティブな若い人がいる。そこが本当に愉快で心強く、とんでもないポテンシャルを感じています。

次回は、「ますきち」オーナーの南慎太郎くんのお話をしたいと思います!

写真=濱津和貴